表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十章  えるふのなつやすみ
130/448

第六話 足りない存在


 みんみんとセミが鳴く中、今日は皆で花の蜜を採取することにした。

 旅行の準備もあるけれど、こっちも早い方が良いからね。

 これでもし良い値段が付いたなら、旅行をもうちょっと豪華にできるかもしれないし。


「それでは皆さん、このビンに花の蜜を集めてください」

「さっそくおはなをとってくるです~」

「いっぱいとるぞ~」


 ビンを受け取って、早速森に行こうとする皆さんだ。

 ただ、ちょっと作業には手順を設けたい。

 

「作業についてですけど、一つ手順を踏んでほしいです」

「あえ? てじゅんがあるです?」


 駆け出したハナちゃんがキキっと止まって、こてんと首を傾げる。

 そんなハナちゃんを抱えて、ヤナさんが戻ってきた。


「どんなてじゅんでしょうか」

「どうするです?」


 抱えられたままのハナちゃんも興味深々のご様子で、耳がぴこぴこしている。

 それじゃ説明しようか。と言っても、ごくごく簡単だ。


「蜜を採取するさいは、花を摘まないで欲しいんです」

「そうすると、さぎょうにじかんがかかりますけど」

「時間がかかっても問題ありませんよ。花を残しておけば、また蜜が採れたり、それが果実になりますから」

「なるほどです~」


 そう、たとえ手間がかかっても、再生産できる方法を選択した。

 こっちの方が、最終的に沢山の蜜や果実を得られる。

 それに、綺麗な花が残る。

 作業は大変になるけど、こっちの方が結局のところ森にも皆にも優しい。


「作業が大変になりますけど、私はそうする価値があると考えています」

「たしかにそうですね」

「きれいなおはな、のこしたいものね~」

「がんばるです~」


 皆も納得してくれたようで、ありがたい。

 それじゃ、早速森に行って作業を始めよう!



 ◇



 森に入ると、あいかわらず涼しくて、そして静かだ。

 みんみんというセミの鳴き声も聞こえない。

 お昼寝するには最適だけど、今はその誘惑は振り切って作業をしなければ。


「では各自、作業をお願いします」

「おれはこっちであつめるわ」

「わたしも」

「じゃ、おれはこっちで」

「わたしもてつだうわ~」


 作業開始の合図とともに、皆さんそれぞれ散開していく。


「タイシタイシ、ハナといっしょにこっちであつめるです~」

「あ、私もお手伝いします」


 俺はどこで作業をしようかなと考えていると、ハナちゃんがぽてぽてやってきて作業のお誘いだ。

 ユキちゃんも一緒してくれるようだから、三人で作業しようか。


「じゃあハナちゃんとユキちゃんと作業するよ。一緒に行こうか」

「あい~! いくです~」


 ガラスビンを抱えて、元気にぽてぽてと採取ポイントに向かうハナちゃんだ。

 俺とユキちゃんは、ハナちゃんの後をのんびりついていく。


「ここ、たくさんさいてるです~」


 ハナちゃんが案内してくれたポイントは、確かに白い花がたんまり咲いている。

 ……というか、挨拶したらぽんぽんと花が咲いた、あの木だねこれ。

 自分自身を埋め尽くさんばかりの満開っぷりだ。


「良い場所だね。それじゃ早速作業を始めよう」

「いっぱいあつめるですよ~」

「始めますね」


 ハナちゃんは元気いっぱいで、早速白い花に手を突っ込んでいる。

 ……あ、もうビンの三分の一くらいを満たせている。なんという手際の良さ。


「ハナちゃん上手だね。凄いじゃないか」

「えへへ」


 褒められて嬉しいのか、にこにこ笑顔で次の花に取り掛かっている。大変頼もしい。

 俺も負けないようにしないと。


「大志さん、これで良いですか?」

「お、ユキちゃんも上手だね。それで問題ないよ」

「分かりました。この調子で進めます」

「頼んだ」


 ユキちゃんも順調なようで、さくさくと作業を進めている。

 じゃあ俺も始めよう。


 二人では手が届かない高い位置にある花を見繕って、花弁の奥にある蜜腺にビンの口を当てる。

 すると、するするとビンに蜜がたまっていくのがわかる。

 ……えらい量を蓄えてるな、この花。


「……この花、凄いな」

「はいをまくと、どんどんみつをだすです~」


 ハナちゃん、アンダースローの動きで灰を撒く仕草をしている。

 割とダイナミックな撒き方だね。その握りは、スライダーかな?

 良いピッチャーになれそうだ。


 ……それはそれとして。

 どうやらこまめに灰を撒いてくれているようだね。


「こまめに撒いてくれてるのかな?」

「あい~。ひまをみつけては、はいをまいてるです~」

「ハナちゃん偉いね。なでなでしちゃおう」

「うふ~」


 無事ハナちゃんをたれ耳にしたところで、作業続行だ。

 しかし、沢山蜜があるとはいえ、一つ一つ集めるのは大変だな。

 これも環境の為だから、しょうがないと言えばしょうがないけど……。


 そうして黙々と作業して一時間程で、なんとか蜜は集まった。


「あや~。つかれたです~」

「一つ一つ、丁寧に集めると結構大変ですね」


 ハナちゃんお疲れモードで、ユキちゃんも汗をかいている。

 屈んだり中腰になったりと、作業は結構キツいかもしれない。

 花を探して、見つけたらそっと作業をする。これは中々の重労働だ。

 蜜がたまればビンも重くなるし、結構腕力もいるね。


「……こうするしか無いとは言え、もうちょっと作業効率を考えたほうが良いかな」

「養蜂なら、効率的ですよね」


 確かに養蜂という手はあるね。

 花を損なわずに、かつ効率的に花の蜜を集めるならそれしかない。

 しかし、俺は養蜂の経験はないわけで。

 何も考えずにやったら、ほぼ失敗するね。


「養蜂は良い手だと思うけど、経験者が誰もいないから厳しいかも」

「あ~……そうですね。私も何をすれば良いのか、さっぱりです」


 何事もチャレンジだ! という精神で挑戦するという事も必要だけど……。

 生き物を扱うから、ちょっと出たとこ勝負は避けたいな。


「タイシタイシ、ようほうってなんです?」


 ユキちゃんとハチミツについて無理っぽいねと話していると、ハナちゃんがクイクイとズボンのすそを引っ張って聞いてくる。

 ……そういや、エルフ達はハチミツの利用とかしてたのかな?

 そもそも、ハチみたいな昆虫とかいたのだろうか?


「……こっちにはハチっていう、花の蜜を集めてくれる虫さんがいるんだ。その虫さんを自分たちで育てて、蜜をもらうのが養蜂だよ」

「あや! ハチさんをそだててみつをもらうなら、ハナたちもやってたですよ~」


 おっ! エルフ達も養蜂をやってたのか!

 それなら話は早いな。

 というか、こっちでも一万年前から養蜂はやってたわけで。

 ハチが居て花があれば、普通に思いついて実行できる産業なんだろう。


「そのハナちゃん達もしていた、ハチさんを育てて蜜をもらう方法をやろうかなと思ったんだけど……」

「私達は養蜂をしたことが無いので、難しいかなって話をしていたの」

「なるほどです~」


 ハナちゃんすっきり顔だ。エルフ達も養蜂をしていたそうだから、ほぼ説明いらずだね。

 あ、そうだ。

 エルフ達が養蜂を知っているなら、だれか経験者が居るんじゃないだろうか。

 こっちのハチとあっちのハチがどう違うかわからないけど、それも聞けるよね。

 ちょっと聞いてみよう。



 ◇



「このなかじゃ、だれもやったことないんじゃね?」

「わたしも、ハチさんをそだてたことはないですね」

「それができるひとは、あっちのもりにいっちゃったわ~」


 残念なお知らせ。

 地球人側にもエルフ側にも、養蜂経験者はいませんでした。


「でもたしかに、みつをあつめるならそれがいちばんですね」

「とは思うのですけど、経験者がいないとなると……」

「むりっぽいです~」

「むりだな」

「なかよくならないと、みつをもらえないわ~」


 仲良くならないと、蜜をもらえない?

 ……よくわからないけど、なんか難しそうだ。

 やっぱり、出たとこ勝負でやるのは無理だな。


「……あきらめて、手で集める作業を続けますか」

「そうですね。ハチさんはこわがりなので、すぐにげちゃいますし」

「やめとくのがいいべな」


 他の皆も、乗り気じゃないね。俺も同じだ。

 ここは一つ、あきらめましょう。


 ということで、この話は終わり。

 今は何も出来ないから、考えるのは後にして作業を再開しよう。


「それじゃ養蜂はあきらめて、作業を再開しましょうか」

「そうしましょう」

「あきらめが、かんじん」

「そもそも、ハチがいないじゃん?」

「んだんだ」


 皆も結論が出たので、各々作業を再開するため持ち場に戻っていく。

 さて、俺も作業に戻ろう……か?


 ――あれ?


 なんか今、凄い引っかかったぞ?

 今、ものすごい――違和感があった。


 今、彼らは何と言った?


「――ちょっと待ってください! 今言ったことをもう一度!」

「お、おう……?」

「タイシさん、どうしたの?」

「いまいったこと? なんだっけ?」


 あわてて皆を呼び止める。

 皆困惑した様子だけど、この違和感を放置は出来ない。


「今皆さんが言ったことで、凄く大切な事があったように思うんです」

「そお?」

「そうなんです。なので、思い出してほしいなと」


 戻ってきた皆は、今言ったことを思い出そうと、うなったり首の後ろをトントン叩いたりしている。

 でも、首の後ろを叩くのは、多分使いどころが間違っていると思う。


「えっと……はちみつおいしい、だっけ?」

「そんなかんじ?」


 違う感じ? というかそれ、さっき言ってないと思う。


「あ~。あきらめがかんじん?」

「それはありましたね。あと他には……」


 ようやく出てきた。あとは……。

 ――とその時、マイスターがつぶやいた。


「ハチがいない、だっけ?」


 これだ!

 これが違和感の正体だ!


 そう、そもそもハチが居ない。

 この森には、植物とエルフ達それと動物たちしか居ない。

 それはそれで賑やかだけど、これがおかしい。


 そもそもハチが居ない。

 確かにそれはそうだ。

 この森では、一度も見たことが無い。「この森」では。


 でも、森の外にはハチが居るんだ。

 なのに、この森では見たことが――無い。

 これだけ花が咲いているのに、ハチが、居ない。


 ――変だ。

 なぜだ。これほど花が咲いていて、蜜も沢山出ている。

 なのに森の外に居るハチたちが、やってこない。


 そしてその点に気が付くと、さらに違和感を見つけてしまう。


「ねえユキちゃん」

「はい? 何でしょうか」

「この森さ、虫が居なくない?」

「……そういえば」


 そう、この森には、虫が――居ない。


 あれだけ元気にセミが鳴いているのに、この森の中ではセミの声を聴くことも無い。

 外にはちょうちょが飛んでいるのに、ここには居ない。

 他にも沢山、沢山――外には、虫が居るのに……。


 この森に一番詳しい、マイスターにも聞いてみよう。


「すいません。この森で、虫を見たことって、あります?」

「……そういやないな。いままでいちども」

「あっちにいた頃は、虫は居ました?」

「おう。たくさんいた。おしりをかじるむしもいたぞ」


 お尻をかじる虫? 何それ怖い。


 それは置いておいて。


 しかし、これで確定した。

 この森には、地球生まれの虫は入ってこない。

 ――入ってこれない、のかもしれないけど。


 そして、あっちの世界の虫も居ない。

 それは多分、運んできていないからだ。


 ハナちゃんが運んできた種は、森を作った。でも、植物だけだった。

 その後、フクロイヌがキャリアとなって動物達がやって来た。でも、動物だけだった。

 必要な要素が勝手に集まってきていたかのように思っていたけど、そうじゃない。

 誰かやなにかが努力して、運んでこないといけないんだ。


 そして運んできてもらえないなら、ずっと欠けたまま。

 森に必要な要素は、そろわない。


「タイシ、むしさんがいないのは、もんだいです?」

「そうそう、むしがいないと、なにかこまるの?」


 ハナちゃんとマイスターが、虫の必要性について聞いてきた。

 他の人たちも、首を傾げている。


 ……どうやらエルフ達はまだ、虫の重要性という点について研究が進んで居ないみたいだな。

 まあ、この辺は生態系全体を観察する必要があって、それはこっちの文明ですらちょっとしか出来ていない。

 殆ど分からないことだらけ。自然というのは、それほど複雑だ。

 でも、分かってきていることもある。


 今彼らの目に前にある「それ」は、虫がどうしても必要だったり、とか。

 このあたり、軽く説明しておこう。


「……こういう花は、虫が居ないと果実を付けられません」

「あえ? むしさんいないとだめです?」

「まじで?」


 この白い花の構造は、まさに虫媒花(ちゅうばいか)のそれだ。

 虫に花粉を媒介してもらわないと、実を付けられない。

 だから、虫に来て貰うために目立つように花を咲かせ、さらに甘い蜜を出すわけだ。


「こういう蜜を出す花は、だいたいは虫さんに花粉を運んでもらう必要があるんだ」

「ひつようあるです?」

「花粉を他の花に持って行かないと、色々不都合がでちゃうんだよ」

「あや~。むずかしいです~」


 これ以上は授粉や遺伝子や、雌雄とかの難しい話になってくる。

 なんで雌雄に分かれる必要があるのか、いちいち他の遺伝子と半分こする必要があるのか、とか。

 そのへんは今話してもしょうがないな。

 ここは、可愛らしい感じにふわっと説明しとこう。


「まあ、この花粉を他の花に届けないと果実が作れないんだ。ただ、花は動けないわけで」

「うごけないから、むしさんにとどけてもらうです?」

「そうそう。そのお礼に、蜜を出すんだよ」

「もちつもたれつです~」


 ホントは違うけど、なんとなく必要性は理解してもらえたようだ。そう、持ちつもたれつ。

 お互い助け合ってるってわけだね。


 そして、ふわっとだけど理解できたハナちゃんや他のエルフ達は、興味深そうな目で花を覗き込み始めた。 


「みつをだすのって、そういういみがあったんだ」

「きにしたことなかったな」

「ふしぎ~」


 この森には風媒花(ふうばいか)もあるだろうけど、この白い花は虫が必要だ。

 というわけで、虫が居ないこの森では、受粉が出来ない。

 受粉が出来ないと言うことは、果実が実らない。


 ……まだまだ森に必要な大事なものは、足りなかったんだ。


 これは、養蜂がどうとかそういう話じゃないぞ。

 花粉を媒介してくれるような虫を連れてこないと、花が咲いただけで終わってしまう。


 この白い花については手作業で蜜を採取したから、ある程度受粉は出来たと思う。

 でも、人の手で出来る範囲だ。

 そして、白い花以外の虫媒花は、受粉が出来ないまま。

 全体を見ると、手作業じゃどうにもならない。

 この、森としては大きくない範囲ですら、手作業じゃ無理だ。


 これは、何とかしないと。

 

 とりあえず、そういった虫を手に入れられる方法としては……。

 あっちの森から持ってきてもらう、だな。

 俺たちでは、この森に必要な虫を入手することは出来ないから。


「……あっちの森の人達にお願いして、ハチとかちょうちょを持ってきてもらいますか」

「できますかね?」

「聞いてみないとなんとも……。ですけど、虫が居ないと困りますね」


 ついでに養蜂に詳しい人も連れてきてもらうとか。

 そうすれば、受粉の問題と蜜採取の問題を一気に解決できるかもしれない。

 さらに、受粉が出来れば「とろけるほどおいしい」という果実も得られるかも。


 ……物流改善に乗り出して良かった。


 そうでなければ、あっちの森に頼ることも出来なかっただろう。

 ハチの導入が上手くいくかは別としても、試みる事は出来る。

 これも、移動がある程度気軽になったからこそ出来ることだ。


 今度は、あっちの世界に助けを借りることになる。

 持ちつ持たれつというロジスティクスの本領、とうとう発揮することになるぞ。


「あっちの森からの観光客が来られたら、話をしてみましょう」

「わかったです~」

「おてつだいしますね」

「おれも、はなしをきいてみるよ」

「わたしも」


 皆さん協力的だね。これは、何とかなるかもしれない。

 旅行が終わった後の話になるだろうけど、重要課題が出来たな。


 しかし、皆が海に行きたいと言い出さなかったら……。

 この隠れた問題に、気づけなかったかも。

 予算獲得のためにあらたな試みをしたことで、思わぬ課題が浮かび上がってきた。


 やっぱり、なんにしても動いてみるもんだな。新たな発見が出てくる。

 森に元気がでて、花が咲いたことによりいろいろな事が動き出した感がある。

 灰を撒く、ただそれだけの行為が、ブレークスルーにつながった。


 虫を導入するのが成功するかもわからない。

 そして、それが成功したとして森が元気になるかもわからない。

 でも、一歩一歩進めよう。

 いつか森が完成することを目指して、こつこつと。


「もうちょっと待っててね。虫さんをつれてくるから」


 とりあえず、やっぱり手ごろな木に声をかけてみる。

 さて、前みたいに、また花が咲くかも――。


 ――と考えていたら、「ぽとり」と何かが落ちてきた。

 こぶし大の真ん丸で、白地に緑の唐草模様がついた、なにか。


 ……なんだろ? これ。


「あやー! おいしいきのみ、おちてきたです~!」

「キャー! ひろうのよ~!」

「とろけるやつ、きたー!」


 落ちてきた唐草模様のまん丸を見て、エルフたちはもう――大騒ぎになった!

 キャーキャー言いながら、まん丸唐草模様の何かを拾い始める。


 どうやら、これが例の「とろけるようにおいしい」果実のようだ。


「きれいなもようがでてるです~!」

「これは、おいしくみのってるぞ~!」

「ひろうべし! ひろうべし!」


 大騒ぎしている間にも、「ぽとり、ぽとり」と果実が落ちてくる。

 ――白い花の咲いている木から、落ちてくる。


 花が咲いたままの部分と、果実が出てきた部分ははっきりしているね。

 エルフ達の手が届かないところは、白い花が、咲いたまま。


 そして、俺の手が届いたところ、一番高いそこにも……果実が出来ている。


 これは、あれだね。

 俺たちの作業によって――受粉、出来たんだ。

 受粉が出来たから、果実が出来たんだ。


 やっぱり、花粉を媒介してくれる存在は――必要なんだ。


「また一つ、分かったね」

「私には、何が何だか……」


 ユキちゃんはこの事態について来れないようだけど、後で説明しておこう。

 次に必要な物、見つけたよって。


「教えてくれて、ありがとね」


 声をかけると、また「ぽとり」とおちてくる。

 やっぱり、森が返事をしてくれたのかな?


 それじゃ、今すぐには無理だけど、待ってて欲しい。

 きっとなんとか、するから。


「おいしいです~。タイシもたべるです~」

「これたべるの、ひさびさだわ~」

「シャクっとしてるのに、とろける~」

「うめえ~」


 ……皆さんもう食べてるけど、ちょっとはロマンに浸らせて下さいよ。

 台無しですよ。今、良い場面なんですよこれ……。


 しかし、ハナちゃんはもう顔がとろんとしていて、耳でろ~んだ。

 ……そんなに美味しいの?


「それ、そんなに美味しいんですか?」

「ふわっふわです~!」

「あまいわ~」

「それでいて、しつこくなく。かといってうすあじでもなく」

「とってもまろやか」


 ……。


 ――俺にも、一つ下さい!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ