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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十章  えるふのなつやすみ
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第一話 ユキ、変です?


 みーんみんみんみん。セミが元気に鳴いています。


 村は、夏本番!

 青い空、遠くに見える入道雲、そしてじりじりと照りつける太陽。

 これでもかという位の、夏。


 お婆ちゃんが孫の為に麦茶を量産する季節の、到来です!


 そんな灼熱の中――。


「ああああ……あづいです~」

「ギニャ~……」

「ミュ?」


 ――ハナちゃんとフクロイヌ、おうちのテラスでぐでっと伸びています。

 ハナちゃん達が暮らしていた森は常春(とこはる)の環境でしたので、こんな暑さは初めてです。

 初めて経験する日本の夏に、ぐんにゃりなのでした。


 何故かそんな中に、あの羽の生えたネコちゃんがまじっています。

 でも、ネコちゃんはこの暑さでも平気そうですね。

 暑さにぐにゃるハナちゃんとフクロイヌをしり目に、しっぽを立ててご機嫌な様子。


 そして、ハナちゃんがこんなに暑い中、なぜおうちのテラスに居るかといえば……。


「タイシ~、まだ来ないですか~……」

「ギニャ~」


 そう、大志を待っているのです。

 ここで耳を澄ましていれば、大志がやってきてもすぐに分かるのでした。


 そんな感じでぐんにゃりしながら大志を待つハナちゃんでしたが……。

 ふと、お耳がぴこん! と立ちました。


 ぶろろろろ。


 ハナちゃんの耳がとらえたのは、いつもの車の音です。

 大志が村にやってきました!


「タイシ来たです~!」

「ギニャ!」

「ミュ~!」


 暑さでぐにゃっていたのも吹き飛んだ様子で、ハナちゃん元気に広場に向かいます!

 フクロイヌもネコちゃんも、そんなハナちゃんの後にトテテテっと続きます。


 さあ、みんなで大志に飛びつきましょう!



 ◇



「タイシ~! 待ってたです~!」

「ギニャニャ~!」

「ミュ~!」


 大志が車から降りて来るなり、ハナちゃんと残りの二匹が飛びつきました!


「おっと。みんな、こんにちわ」

「こんにちわです~」

「ギニャ」

「ミュ」


 全員難なく受け止めて、ハナちゃんをひょいと肩車してあげる大志でした。

 フクロイヌとネコちゃんは大志にしがみついて、いらっしゃいの挨拶です。


 凄く、暑そうですね。


「……タイシさん、あつくないですか? それ」


 助手席から、雪恵も降りて来ました。

 ハナちゃんと毛玉二つを装備した大志を見て、ふふっと微笑みます。


「ぶっちゃけあつい」

「暑いです~」

「けどまあ、このじきあついのはあたりまえ、きにすることじゃないね」

「ギニャ」

「ミュ~」


 暑くてもおおらかに振る舞う大志に、ハナちゃんも動物達も遠慮なく甘えています。

 でも大志、汗だらだらですけどね。


「ふふ。タイシさんらしいですね」


 微笑ましい光景に、雪恵は自分のハンカチで大志の汗を拭きつつ、ふんわりと笑顔です。

 のんびり和やか。暑いけれど、今日も村は平和です。


「そうそう。きょうはみんなにおみやげがあるから、たのしみにしててね」

「あや! お土産です?」

「そうそう。あついときには、ぴったりのおみやげだよ」

「楽しみです~」


 暑いときにぴったりのお土産、楽しみですね。

 さて、どんなお土産かな?



 ◇



「なつといったらこれ! かきごおりです」

「つめたくておいしいですよ」


 お土産があると聞いて、エルフ達は集会場に集まっていました。

 大勢集まったので、より一層暑くなりました。

 皆汗をふきふき、暑さに参っているご様子。


 そんな皆に大志と雪恵が見せたのは――でっかい氷とかき氷器です。

 暑い夏には、ぴったりのお土産ですね。

 クーラーボックスの中にあるドライアイスから――もうもうと冷霧(れいむ)が出ていて、見るからに涼しそうです。


「あの透明なやつ、なんだろ」

「あれ、食べられるの?」

「楽しみ~」

「かっこいい」


 氷を見たことが無いエルフ達、でっかくて四角い氷に興味深々ですね。

 約一名、かき氷器のメカに首ったけな方もおりますけど。

 そんな興味津々のエルフ達には、ひとまず氷の説明です。


「これはこおりといって、みずをひやしまくって、かためたやつです」

「ああ、前に言ってましたね。これがそれですか」

「そうです。これがその、みずがこおったものなんです」


 ヤナさんは前の話を覚えていたようで、氷を上から下から覗き込んでいます。

 前に聞いたときは半信半疑でしたが、実物がここにあります。

 ようやく本当の事だと、理解出来たのでした。


「あれがそうなんだ!」

「水があんなふうに固まるとか、震える」

「最近、俺の自慢の品を出す機会がないんだが」


 噂に聞いていた氷を見て、エルフ達はより一層興味をそそられました。

 目をまん丸にして、透明な氷を見ています。

 ……おっちゃんエルフは、何故か積み木を取り出して積み始めましたけど。

 そのうち自慢の品をお披露目できることもありますから、今はしまっておきましょうね。


「それできょうは、このこおりをけずったおかしを、みんなでたべたいとおもいます」

「あまくてつめたくて、びっくりしますよ」


 そう言いながら、氷をかき氷器にセットしたり、シロップを用意する二人でした。

 息がぴったりですね。二人とも、手慣れた手つきです。


「あや! 冷たいお菓子、凄そうです~」

「どんなのだろ?」

「早く! 早く!」


 そして「甘くて冷たいお菓子」と聞いた途端、子供たちがかぶりつきになりました。

 キラキラしたお目々で、大志と雪恵を見上げています。

 子供たちのキラキラ光線、大志と雪恵に直撃です!


「それじゃあ、かきごおりつくるよ~。みんなならんでね」

「「「はーい!」」」


 子供たちを先頭に、エルフ達が並びました。

 皆の準備はもう万端です。それでは、かき氷を作りましょう!


「はーい、けずるからねー」


 大志がハンドルをくるくる回し始めました。

 直ぐさまガリガリと氷が削れて、かき氷用の紙コップに積もって行きます。

 それはまるで、雪のよう。真っ白ふんわり、積もります。


「あやややや! どんどん削れてくです~!」

「面白~い!」

「凄い~」


 その様子を見た子供達は、もうキャッキャと大盛り上がり!

 そうして盛り上がっているうちに、かき氷はどんどん出来ていきます。

 大志は力持ち、これ位軽い物なのでした。


「はい、このなかからすきなのをえらんでね」


 削り終わった大志は、紙コップを雪恵に渡しながら言いました。

 雪恵の前には、イチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイと、色とりどりなシロップがあります。

 まあ、香りが違うだけで全部味は一緒なんですけどね。


「ユキ、どれが美味しいです?」

「わたしは……このあかいやつ、イチゴミルクがすきかな?」

「それなら、ハナはイチゴミルクにするです~!」

「イチゴミルクね。それじゃ、かけるねー」


 白いかき氷にイチゴのシロップがドバドバとかけられて、赤とピンクの綺麗なグラデーションが出来上がります。

 そこに、練乳をどっさり。見るからに甘くて美味しそう。


「はーい。おまちどうさま」

「わーい! ユキありがとです~」


 イチゴミルクを受け取ったハナちゃん、お目々キラキラです。

 そして、直ぐさまびっくり顔になりました。


「あややや! 容器が冷たいです~。ひんやりです~」

「ほんと? ほんと?」

「美味しいのかなっ!」

「早く食べたい~!」


 ハナちゃんが受け取ったイチゴミルクを見て、子供も大人も大盛り上がりです。

 冷たいお菓子がどんなものか、わくわく顔で見つめるのでした。


「それじゃハナちゃん、たべてみて」

「ちょっとずつ、たべるのがいいよ」

「あい~!」


 大騒ぎの子供達ですが、早く食べないと溶けちゃいますからね。

 大志と雪恵から勧められたハナちゃん、にぱっと笑顔で応じます。


「では、頂きますです~」


 そうして皆が注目する中、ハナちゃんがかき氷を一口、ぱくりと食べました。

 エルフ世界では初めての、氷菓の実食です!


「――!」

「ハナちゃん、どう? おいしいかな?」


 一口食べた途端、ハナちゃんのお目々はまん丸になりました。

 とってもビックリ、そしてにっこり。くるくる表情が変わります。

 そんな様子に大志が問いかけますが、ハナちゃんお目々をキラキラにしてお返事です。


「冷たくて、甘くてしゃりしゃりで、とっても美味しいです~!」

「おくちにあったようだね。よかったよかった」

「たくさんあるから、あわてずにたべてね」


 ハナちゃんもう大喜びですね。お耳がぴこぴこ、嬉しさが伝わってきます。

 そして、お口に合うのが分かったので、大志と雪恵もほっとした表情です。


「美味しいって!」

「早く食べたい~」

「まだかな! まだかなっ!」


 ハナちゃんが美味しそうにかき氷を食べる様子を見て、子供たちはもう我慢が出来ません。

 お目々キラキラ光線でもって、おやつの催促です。


「それじゃ、ガンガンつくるよ~。みんなまっててね」

「「「はーい!」」」


 子供たちはもう、大興奮!

 今か今かとかき氷が出来るのを待っています。

 どの味にしようかな? あれも良いな、これも良いな。

 わくわくでいっぱいの表情です。


「はい、どうぞ」

「キャー!」

「きみもどうぞ」

「美味しそ~!」


 そうして子供たちにかき氷が行き渡り、あちこちでキャーキャー歓声が沸きます。


「ちべたい~」

「甘いね! 美味しいねっ!」

「不思議なお菓子~」


 かき氷を口に含んで、子供達は大騒ぎです。

 キャッキャしながら、お互いのかき氷の食べっこを始めました。

 これで子供達は一段落。次は大人の番ですね。


「それじゃあつぎは、おとなのかた、どうぞ」

「では、私はそのメロン、というのをお一つお願います」

「わかりました」


 そうして、テキパキと氷を削り、かき氷を量産していきます。


「ぐああああ~!」

「頭が! 頭がキーンて!」

「奥歯が~! 上の奥歯が~!」


 そして加減を知らない一部の方々は、一気に掻き込んで頭キーンとなっています。

 マイスター、マッチョさん、おっちゃんエルフの順ですね。

 アイスクリーム頭痛、エルフ達でも起きると判明した瞬間です。


「いっきにたべるとそうなりますので、ほどよいはやさで、たべてください」

「たくさんつくれますので、いそがなくてもだいじょうぶですよ」


 全員に配り終えて一仕事終えた二人も、それぞれかき氷を楽しんでいます。

 大志はブルーハワイ、雪恵はイチゴミルクですね。


 たまにかき氷がピカっと光って消えたりもしています。

 どうやら神様、ブルーハワイがお好みのご様子。

 真っ青なシロップなのでエルフ達は割と敬遠しておりますが、神様一番のお気に入りですね。


 そうして、皆で和やかにかき氷を食べて涼んでいたのですが……。

 約一名、ちょっと不審な挙動を見せる人が現れました。


 ちら、ちら……。


 大志にちらちらと視線を送る人がいます。

 それは――雪恵でした。


 なんだか雪恵はちら、ちらりと大志の方を見ているのです。

 何か気になる事でも、あるのかな?


「……ユキちゃん、どうしたの?」

「え? ……ああいえ。とくになにも……」

「そう?」

「え、ええまあ。おきになさらずに」


 視線を大志に察知されて、ちょっとそわそわする雪恵でした。

 どうしたんでしょうね?


「タイシ~。次はこの、メロン? が食べたいです~」

「はい、メロンね。ちょっとまっててね」

「そ、それじゃつくりましょう!」


 微妙な空気が流れる中、ハナちゃんがお代りに来ました。

 それを契機に、ごまかすように雪恵はいそいそと、かき氷制作に戻ります。


 でも、やっぱりそわそわ。雪恵の様子――やっぱり変ですね。


「あえ?」

「どうしたんだろね」


 いつもはふんわり笑顔の雪恵が……今日はなんだか、ちらちらそわそわ。

 ――挙動不審です。

 そんな雪恵の様子に、首を傾げる大志とハナちゃんなのでした。



 ◇



「そうそう、涼しいで思い出したんだけど、森の中も結構涼しいじゃん?」


 皆でかき氷を食べて涼をとっていると、マイスターがそんなことを言いました。


「まじで?」

「おう。森に入ると分かるけど、一気に涼しくなるんだよ」

「じゃあ、今日は暑いから森で涼もうぜ」

「良いわね~」


 マイスターからの情報で、森が涼しいらしい事が分かりました。

 皆暑さに参っていたので、朗報です。

 涼しい所があるなら、そこで過ごせば良いですからね。


「あ、それならいいものをもってきました。もりにいくまえに、それをじゅんびしましょう」

「良い物です?」

「うん。つめたいものをつめたいまま、あついものはあついまま、ほぞんできるやつなんだ」


 そういって大志が箱から取り出したのは……水筒とポットですね。

 ステンレス製の――魔法瓶です。


「これにつめたいものをいれると、はんにちはつめたいまま、いけますよ」

「――という事は、何回も水を汲みに行かなくても良いのですか?」

「そうなります。おゆも、いちどわかせば……あさからひるまでは、あついままです」

「それは便利ですね!」


 大志が取り出した魔法瓶を受け取り、右から左から眺めるヤナさんでした。

 ヤナさんも、結構こっちの道具に興味を持っています。

 大志が何か持ってくるたびに、好奇心が刺激されるのでした。


「すいじばにひいてある、あのわきみず。なつでもつめたいので、おいしくのめますよ」

「そうですね。あの湧水、こういう時は冷たくて良いですね」


 炊事場に引いてある湧水は、夏でも十℃から十二℃くらい、冬でも十℃を下回らないのです。

 地下水ですから、温度変化が少ないのですね。

 水が冷たくて困ったこともありますが、こういう時はとても便利です。


 そして、冷たい水があれば、いろいろ使い道があります。

 その一つに……。


「このポットに、つめたいみずと……あとこれをいれると、おいしいのみものができますよ」


 雪恵がポットを片手に、麦茶のティーバッグを持って説明しています。

 そう、お婆ちゃんが夏に量産する、あの麦茶です。

 暑い夏に飲む、冷えた麦茶。格別ですね。


「ユキ、お茶を作るときと、ほぼ一緒です?」

「おなじね。みずからだと、ちょっとじかんはかかるけど」

「わかったです~」


 お茶のティーバッグは既に知っているエルフ達、すんなりと使い方を理解していきます。


「それじゃ、これでむぎちゃをつくって、もりでのみながらすずみましょう」

「「「はーい」」」


 こうして、麦茶を作って森で涼むことになりました。

 一時間ほどで出来るので、森で過ごしてのどが渇いたころには、良い感じに出来上がるでしょう。


 暑い日は涼しい森で、お花を見ながらのんびり過ごす。

 喉が渇いたら冷たい麦茶をごくり。

 とっても優雅な、夏の過ごし方が出来そうですね。



 ◇



「おお、たしかにすずしい」

「ちょうどよいかんじですね」


 森に入った途端、快適空間になりました。

 外の暑さと比べれば、確かに涼しい環境。

 大志と雪恵は、驚きつつも森の快適さににっこり笑顔です。


「これはよいですね。あつくてどうしようもないときは、もりですごせばよいとおもいます」

「暑くてだめなときは、そうするです~」

「よる、あつくてねむれないときは、テントをはってここでねるのもいいかもね」

「あや! 楽しそうです~」


 森の中はひんやり爽やか。……不思議なことも、あるものですね。

 木陰もありますから、避暑にはうってつけの環境といえます。

 それに、森は今やお花でいっぱいです。

 涼しくてお花が綺麗で、おまけに良い香りが漂う森。

 避暑をするなら、これ以上ない環境なのでした。


「それじゃみなさん、ゆっくりしましょう」

「あい~」

「あ、わたしもごいっしょします」


 大志が座った右隣に、ハナちゃんちょこんと座ります。

 そして雪恵も慌てて、すとんと……ちょっと離れた、左側に座りました。


「僕はお昼寝でもしようかな。ここは涼しくて、気持ちよく寝られそうだ」

「私は絵を書いているわ」

「ふが」


 ヤナさんカナさん、そしてひいお婆ちゃんものんびり過ごし始めました。


「じゃあ俺は、動物と遊ぶかな」

「あ、私も遊ぶ」

「俺は、おうちの模型でも作ろうかな」


 涼しい環境を発見できたので、エルフ達も森でのんびり過ごし始めました。

 お昼寝する人、趣味のお絵かきや工作をする人、動物と遊ぶ人。

 そんな皆を、森は優しく受け入れます。


 ちら、ちらちら。


 そんなのんびり過ごす皆の中で、やっぱり雪恵はそわそわしていますね。

 雑誌を読んでくつろいでいるふりをしていますが……やっぱり、ちらちらと大志の方を見ています。


「ユキ……なんか変です?」

「じつは、むかえにいったときから、こんななんだ。……どうしたんだろうね?」


 大志とハナちゃん、ひそひそと雪恵の様子を話します。

 どうやら、今日雪恵を迎えに行った時から――そわそわちらちら、していたみたいですね。

 普段はふんわりとした雰囲気の雪恵だけに、様子の違いが目立ちます。


 そうして、大志とハナちゃんがさりげなく雪恵の様子をうかがっていると――。


「――あ、あの! タイシさん!」


 雪恵が、すちゃっと立ち上がって大志に声をかけました。


「あ、噛まれたです」


 しかし頭上を確認しないで立ち上がったので、クラゲちゃんに接触したようです。

 がじがじと、頭を甘噛みされてしまいました。


 しかし、雪恵は頭を噛まれていることに、注意を払う余裕もない様子です。

 がじがじされたまま、大志をじっと見つめています。


「なにかな?」

「あ……いえ。やっぱなんでもないです……」


 そうして何かを言いかけた雪恵ですが、大志が応じるとしぼんでしまいます。


「そう? ……なにかあったら、えんりょなくいってね」

「え、ええまあ……」


 へなへなと座り込み、また雑誌を開きます。

 頭をがじがじ噛まれながらなので、割とシュールな光景ですね。


 ちら、ちら……。


 そしてまた、雑誌を読むふりをしながら――ちら、ちら……。

 明らかに行動が不審です。


「……タイシ、ユキがなんか呟いてるです?」

「なんていってるの?」

「『ゆうきがでない』とか『いやでも……いきなりこれは』とか言ってるです?」

「……なんだろね」

「わかんないです~」


 ただでさえ耳の良いエルフですが、ハナちゃんはその中でもひときわ良い耳を持っています。

 かすかな呟きでも、エルフイヤーは捉えます。

 いわば、筒抜けということですね。


 しかし、断片的な呟きのため、結局何が言いたいのかは分かりませんでした。


「……そっとしておこう」

「そうするです~」


 挙動不審な様子の雪恵ですが、出来ることはありません。

 大志とハナちゃんは、そんな雪恵を……そっとしておくことにしました。

 雪恵もうら若き女子。色々あるのだと思います。


 ちら、ちら……。


 ――結局、その日はずっと……。

 ちら、ちらりと大志を伺うだけの、雪恵なのでした。



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