第七話 地図作りを始めましょう
平原の人達が大勢訪れて、また村が賑やかになった。
五十人ほどが来たのでわりとギリギリだ。
彼らは天幕を所有しているので、ユニットハウス、テント、彼らの天幕をその都度使って貰うことにより宿泊施設を賄った。
「このしかくいおうち、かいてきだな~」
「テントとねぶくろもべんりだぞ。これほしいな」
「わたしはふんぱつして、きのおうちにしちゃった。ひろくていいわ~」
宿泊施設を利用している人達は、早速部屋に入ってキャッキャしている。
まだ交易品の査定をしていないから、後払いだけど。
「ばう~ばう~」
「ばうばう」
そしてフクロオオカミ達は、ブルーシートで作った即席のタープの下でごろんごろんと転がっている。
どうやら、彼らは日陰が好きなようだ。
そういえば先に来たフクロオオカミ達も、良く森の木陰でうとうとしているし、前に平原の人達と来た彼も、タープの下で喜んでいた。
……平原には木陰が少ないのかな?
まあ、彼らの主な住処は平原なわけだ。
そして平原って言っている位だから、木陰のように日の陰に入れるところは少ないかもしれない。
日陰を好むという、彼らの習性なのかもな。
ともかくこれで、平原の人達の滞在の方はなんとかなった。
後は交易品の査定に食料の調達と、色々仕事しなくては。
◇
「タイシさん、ちずをつくるためのしゃしん、たくさんとってきました」
「フィルム、ぎりぎりだったかな~」
「ほら、こんなにたくさん」
ほっと一息着く間もなく、平原のお三方が早速地図作りの話をしてきた。
沢山の写真を抱えて、やる気十分だ。
ということで、ハナちゃんちで話を聞くことに。
発案者のハナちゃんは元より、担当者のカナさんとハナちゃんのご家族も話の輪に加わっている。
家族が関係する大仕事だから、一緒に聞いて貰うのも良いね。
「これが、たびのとちゅうでとったしゃしんです」
「とりあえず、わたしたちのもりまでどういくかは、わかるはずです」
「がんばったかな~」
いろいろな風景が写った写真が、ドサリと置かれる。
ホントに沢山撮ったのね。
「あえ? このオオカミさん、いまこっちにいるです?」
「え? ほんとかな~?」
「あい。よくいっしょにあそぶです~」
ハナちゃんが指さした一枚の写真には、フクロオオカミの群れが写っている。
……確かに、この毛並みというか模様は見覚えがある。
いまこっちの森に滞在している、あのボスみたいな個体とそっくりだ。
「うちのハナと、なかよしなんですよ。このオオカミさんは」
「あのむれ、こっちにきちゃったのか……」
ヤナさんも同じ意見みたいだ。やっぱり、ハナちゃんと仲良しのあのオオカミっぽいね。
それを聞いた平原のお父さんは、ボスオオカミの写真を見ながら「うむむ」と唸っている。
彼らの持ってきた写真に写っていると言うことは、知り合いかな?
「この群れとお知り合いですか?」
「うちのもりのちかくにいたむれで、ちょっとあいさつしたことがあるんです」
「おとうさんが、キャベツをあげてたかな~」
「いったいどうやって、ここまできたのかしら?」
……まさかあの群れ、キャベツ食べたさにここまで来たのか?
平原の人達の森があの洞窟からどれくらい距離があるかは分からないけど、結構遠いはずだ。
どうやってここまでたどり着けたんだろう……。なんというか凄いな。
「……お知り合いなら、後で顔を出してみて下さい。喜ぶかと思います」
「そうですね……まさかここでさいかいするとは、おもいませんでしたが」
「飴玉とかを持って行くと、喜びますよ」
「よろこぶです~」
「それはいいことをききました。このあといってみます」
意外なところで意外な縁があったけど、一応平原の人達の関係者……というか関係オオカミだったわけだ。
世の中の縁という物は、面白いなあ。
まあ、この話はこれ以上掘り下げても分からないことだらけなので、これ位にしとこう。
それじゃ、本題の地図の話に移ろうか。
「この話はこれ位にして、地図の話をしましょうか」
「そうですね。……それで、これらのしゃしんとわたしたちのはなしをきいて、えにかくんでしたっけ?」
「ええ。主にカナさんが担当となります」
「よろしくおねがいします」
カナさんがペコリと頭を下げ、挨拶をする。
その両手にはもうお絵かき道具が抱えられていて、それはもうやる気が伝わってくる。
……でもそれ、まだ必要じゃないですよ。
まだしまって置いても大丈夫ですから。
「……とりあえずこの写真を、あの洞窟から近い順に並べることは可能ですか? こうやって」
ちょうど良く洞窟の写真があったので、それを真ん中に置く。
そして見覚えのある枯れた森の写真を、左下あたりに置いてみた。
「この置いた位置が、そのまま位置関係になります。真ん中から離れれば離れるほど遠くなると言った具合ですね。それと『北』が上になります」
「できますよ。いまならべますね」
「てつだうかな~」
「わたしも。……あ、このしゃしんきれいにとれたのよね~」
「このしゃしんもいいかんじだよ」
「きれいかな~」
確かに綺麗な景色が写っているけど、写真を並べる作業そっちのけでキャッキャしているね。
そんな楽しそうなこと――俺も混ぜて。
「お! これは泉ですか? 周りにあまり木が生えてないみたいですけど」
「これは、へいげんのとちゅうにぽつんとあるわきみずなんです」
「もりからもりにいどうするとき、とってもたすかるかな~」
「こういうところでテントをはって、やすんだりしました」
なるほど、オアシスみたいな物か。
……人が住んでないのは、やっぱり森とまでは行かない植生だからかな?
でも、住めないまでもちょっと休憩するくらいには使えるっぽい。
旅をする上では、色々なノウハウや知恵が必要なんだろうな。
「タイシタイシ、これ、ハナたちがいたむらです~」
「それ、かえるときにとったんですよ。とくにへんかはなかったですね」
「あ……カナ、みてごらん。ぼくたちのおうちがうつってる」
「……ほんと、ついこのあいだまで、ここにすんでいたのね」
枯れた森にある以前の住処を見て、しみじみとするハナちゃん一家だ。
そうだよな。まだ数ヶ月前の話だ。しみじみしちゃうのも分かる。
――あれ? たった数ヶ月だよな。
このエルフ達、たった数ヶ月で地球になじみすぎじゃない?
俺だったらもっとなじむのに時間かかるぞ?
なんたって文化も文明も違う上に、異世界に来ているんだから。
……あれだ、物事に対して柔軟な方々だからかな。
あっという間に仲良くなったしな。出会い頭にいきなり仲良くなったわけで。
いきなり仲良くなれたのは、ハナちゃんのおかげだよな。
なでなでしとこう。
「あえ? タイシどうしたです?」
「何でもないよ。ただハナちゃんの頭を撫でたくなっただけさ」
「なでられちゃったです~」
「もっとなでなでしてあげよう」
「うふ~」
こうして、皆で写真を眺めてキャッキャした。
ちなみに地図作成は全然進みませんでした。
◇
――翌日、気を取り直して地図作成を再開だ。
皆で話し合いながら、やっぱりキャッキャしながら写真を並べていく。
そして一通り並べ終わったところで写真に番号を割り当て、裏に書き込む。
これが基本的な、地点番号のプロットとなる。
まずはこの地点番号同士を線で結び、大まかな地域図を作成する。
地点番号同士は関連する番号を一つないしは二つ持っており、例えば一番と関連する物は二番、と紐付けがしてある。
この番号同士は、線で結ぶと地域図が出来るように関連づけられる。
これが大変面倒だけど、一番大事なところだ。
とりあえず関連する地点ごとに、親子構造になるように採番した。
けど、PCで木構造に並べて表示しないと役に立たない。
俺がPCで検索するのに便利だからという理由なので、無理してやらなくても別に良かったりはする。
あとはこの番号の場所には何があるかの話を聞いて、プロットに合わせて図に書き起こせば大体の地図が出来上がる。
……と思う。
まずは、手本を見せてみよう。
「このゼロ番が、あの洞窟となります。そしてその周囲の地点の番号をこうやって線でつなげると……」
「あや! それっぽいかたちになったです~」
「どうくつしゅうへんの、おおまかないちかんけいがわかりましたね」
「さらに他の番号も結んでいくと……」
「……わたしたちがもといたむらに、つながりましたね」
適当に定規で線を引いていくと、ハナちゃん達が元いた村までの経路と、大まかな周辺地理の輪郭が出来上がる。
線を引いただけだから、ホントに大まかでしかない。
ただ、そこに行ったことがある人なら、だいたいイメージは出来る感じだ。
どこに何があって、どんな位置関係かさえ分かればそれでいいからね。
「こうして大まかな概念図を作った後で、聞いた話を盛り込んで肉付けするわけです」
「なるほど。これならできそうです。まかせてください」
「おかあさん、きあいみなぎってるです~」
カナさんはやり方を掴んだようで、俺の見せた手順に従ってすいすいと線を引いていく。
まあこれはお試し図で、これから続けて行くに従って手法は都度改良していく方針だ。
今は概略図があればそれでいいので、これ位大まかにやれば良いだろう。
……あれ? カナさんいつの間に数字覚えたの?
俺、ヤナさんにしか詳しく教えてないんだけど……。
ハナちゃんもなんだか数字を目で追えているみたいだし、皆していつの間に?
「……皆さん、いつの間に数字を覚えたのですか?」
「わたしがおしえました。むらのみんなも、もうだいたいつかえますよ?」
え? 村の皆、もう数字を大体使えるの?
……どうりで、お店が難なく運営出来るわけだ。
ヤナさん、物を教えるのが上手いのかな?
そしてハナちゃん達がいつの間にか数字を覚えていることにびっくりしていると、平原のお三方がその数字を見て、首を傾げて聞いてきた。
「――このにょろにょろしたやつって、すうじなんですか?」
「みたことないもじかな~」
「こっちでは、こういうもじなんですか?」
――え? 文字だって!?
……そういえば、あっちの世界に文字があるか、あったとしたらどんな文字なのかは聞いたことがなかった。
良い機会だから聞いてみよう。
「これは数字と言って、数を表す文字です。こっちの文字ですね」
「やっぱり。ここではこういうもじをつかうんですね」
……どうやら文字はあるっぽいな。
彼らの扱う数字で、桁上がりがどうなるかちょっと確認してみたい。
「……皆さんの文字、たとえば数を表す物は何かあります? 例えば一から二十までとか」
「こうですね」
平原のお父さんがさらさらと数字を書いていくけど……。
基本は数字に合わせて棒が増えていってる感じだね。
んで、桁上がりすると――なんだこれ?
横棒の波線みたいだけど……。
「この波線って、もしかして十ですか?」
「そうです。このちょっとうねってるのがじゅうで、もうちょっとうねってるのがにじゅうです」
うねりの数で十の位を表すのか……。
「それだと、百とか大きい数は大変ではないですか?」
「そういうばあいは、てきとうによこにならべます。きまりはありません」
……うねり棒が二つに増えた。うねり三つが二本なので、六十かな?
「これは六十ですよね? じゃあ百はこうしても良いわけですか?」
「はい。それでいいです」
うねり四つの棒を二本と、うねり一つの棒一本で百としてみたけど、良いみたいだ。
まあ、分かれば簡単か。表記が統一されていないから、ちょっと間違いやすそうだけど。
「あや! タイシすぐおぼえたです!」
「まあこれ位はね。見たまんまだから」
「すごいです~!」
ハナちゃんそんけいのまなざし。
眩しい。ただ単に、こっちの数字の概念を置き換えるだけなので難しくはないんだよ……。
まあ、彼らの数字は見て分からなくもないので、使えることは使えるだろう。
俺も機会があったら使ってみるかな。数字はこれでいい。
……あとは、他の文字とかも聞いてみるか。
「ちなみに、『今日は良い天気です』はどうやって書きますか?」
「えっと……たしかこんなんですかね」
おっと、一気に怪しくなったぞ。確かこうって……。
そして描かれた文字は、二重丸が一つと波打った横三本線が一つだ。
……二文字しかないぞ。
「……これのどの辺が『今日』で、どの辺が『良いお天気』なのですか?」
「このまるさかげんが『よいおてんき』で『きょう』はこのうねってるやつです」
「では『明日』は?」
「こんなんです」
……同じ文字に見える。
俺からすると「今日」と「明日」の違いがまったく分からない。
まあ、表意文字というところか。表音文字ではないっぽいよねこれ。
「違いが分からないですけど……」
「このへんのうねりぐあいが、『あした』ってかんじしません?」
「微妙すぎてなんとも……」
ホントに分からない。
彼らの文字は、どうやら相当な機微を読み取らないといけないみたいだ。
「あ、そっちはそうかくんですね。わたしらはこうですよ」
ヤナさんも文字を書いてくれたけど――まさかの一文字!
ゆがんだ丸が一つだけ。
丸一つで全部片付けてるよ……。
「ほうほう。……これは、あっちのもりっぽいもじですな」
「というか、わたしがあっちのもりしゅっしんですから」
「なるほど。ぽいというか、そのまんまですか」
「まんまです」
ヤナさんと平原の人が盛り上がっているけど、俺にはさっぱり分からない。
これ、どの辺が「今日」でどのへんが「良いお天気」なんだ?
「……ヤナさん、これはどの辺がどうなってるんですか?」
「このへこんでるところが「きょう」で、ここのちょっとでっぱっているのが「よい」です」
「丸が「お天気」だったりします?」
「そうですそうです! よくわかりましたね」
良くわかりましたねって……書いてる本人でも、伝わってるか怪しいと思ってるんじゃないかこれ?
しかし、彼らの文字は今の話を聞くと……統一されてないな。
森同士で激しく違うっぽい。
しかも、読み取るのにもの凄い機微が居る。これだと、文字は普及しないんじゃないか?
……識字率はどうなんだろうか?
「文字を読み書き出来る人って、どれくらい居ます?」
「ほぼおりませんな。ぞくちょうや、けいさんがひつようなおしごとをするひと、くらいです」
「ふだんは、ぜんぜんつかわないですからね」
「森ごとに文字が違ったりします?」
「もりがちがうと、もじもちがいますね」
……識字率は低く、森が違うと文字も違うと。
別の森というのは、ほぼ外国と言っても良いかもしれない。
というか文字が違うんなら、言葉も違うんじゃないか?
「もしかして、別の森は言葉も違ったりします?」
「だいたいはおんなじですよ。たまに、なまりがすごいところもありますが」
「文字が違うのに――言葉は同じなんですか?」
「もじがちがうと、ことばもちがうもんなんですかね?」
おっと、逆にこっちが聞かれてしまった。
……文字が違うのなら異なった文化圏で、普通言葉も違うと思うけど……。
うーん。良くわからない。
「こっちでは、言葉も文字も全く異なった地域が沢山ありますよ」
「それは……なんだかふべんそうですね」
「めっちゃくちゃ不便ですね」
「ちなみに、タイシさんのところのもじはどうなんでしょう?」
ヤナさんからこっちの文字のご質問が来た。じゃあちょっくら書いてみましょう。
わかりやすく、ひらがなで良いかな?
……「きょうは、よいおてんきです」っと。
「これ、みたことあるです~」
「おみせでうっているものや、じどうしゃとかにかいてありますね」
「あれ、もようじゃなくてもじだったのね」
どうやら、こっちの文字は模様と思われていたようだ。
まあ、知らなければ無理はないか。
……あ、これ俺にも同じ事が言えるかもしれない。
彼らの服や装備、土器とかに描いてある模様ってもしかして……。
「皆さんの服やらに書いてある模様、それ文字だったりします?」
「たんなる、もようですよ」
「これは模様なんですね」
「もじをかけるひと、ほとんどいないです?」
なるほど、これらは模様なのね。
ハナちゃんの言うとおり、文字が書ける人がそんなにいないから、文字を書く意味がないんだろう。
「タイシさんのところは、もじがあふれているということは……」
「ご想像の通り、ほぼ全員が読み書きできます。子供の頃にたたき込まれますからね」
「それはなんというか……すさまじいですね……」
「たいへんそうです~」
ヤナさんとハナちゃん、ぷるぷる震え出す。
ぷるぷるヤナさんとぷるぷるハナちゃんのできあがりだ。
「こっちでは、読み書き出来なければ働くことすら出来ませんので」
「きびしいせかいですな」
「だから、あんなどうぐをつくれちゃうんですかね」
「カメラのすごさ、びっくりしたかな~」
平原のお三方もぷるぷるしだした。
まあ、彼らの言うとおり、文字の読み書きが出来るからこそ高度なことが出来るね。
「そうですね。読み書き出来るおかげで、誰かの知恵を使ってよりよい物を作る事ができます」
「なるほど」
「もじって、だいじです~」
「わたしもおぼえようかしら」
ヤナさんは文字の読み書きが出来るから、その重要性も分かっているようだ。
ハナちゃんとカナさんは、今重要性を認識したっぽいけど。
「しかし、こっちのぶんしょうは、こんなにながいんですか……」
「こちらでは、しゃべった『音』をそのまま文字に割り当てたりしてます」
「ほほう」
そうして、こっちの文字に興味を持ったのか、ヤナさんが俺の書いた文章を見て、ふむふむとしている。
ほんとは漢字とかもあるけど、今は置いておこう。
漢字は表意文字で、説明が大変だからね。
とりあえずひらがなの説明をしとくか。
「これは『あ』でこれは『い』など。あいうえお順と言います」
五十音表を作って、発音と文字を対比させてみた。
ヤナさんと平原のお父さんは、ほうほうと頷いているね。
「これ、べんりそうですね」
「まあ、便利と言えば便利ですね。話したまんまを文字にできますから」
「この『てん』はなんですか?」
「これは句読点といいまして……」
そうして、今度は文字に関して皆でワイワイキャッキャと盛り上がった。
当然、地図作りは進みませんでした。
◇
――翌日。
あんまり地図造りにかまけてもいられないので、今日は査定をすることにする。
ユキちゃんを交えて、また異世界の謎物品を鑑定だ。
「これが金で……増幅石がこれ。わあ! お肌に良い薬草がこんなに!」
「せきどめのやくそうですが、おはだにいいんですよね?」
「ええ。とある加工をすると、お肌が――皆さんの言う『トゥルットゥル』になります」
「「「キャー!」」」
鑑定に参加した平原の女子さん達が、例の薬草をたっぷり抱えてキャーキャー言っている。
……明らかに化粧水目当てで大量に持ってきたね、これ。
「まえにいただいたあのおはだのくすり、ききましたよ~」
「ほら、こんなおはだになったかな~」
「「「キャー!」」」
平原のお母さんと娘ちゃんが、ほっぺをぷにぷに摘まんでお肌のハリ自慢を始めた。
平原の女子さん達もキャーキャー言いながら、二人のほっぺをつんつんしている。
「というわけで、たくさんつくってほしいとおもいまして」
「おねがいしたいかな~」
「わ……分かりました。沢山作りますので……」
平原の女子さんたちに迫られたユキちゃん、圧倒される。
これはもう、引き受けるしかないよね。必死――おっと、関心の高さが違うからね。
「でも、今回は査定が楽ですね」
「そうだね。重量を量れば良い物ばかりだからね」
「まえにかちがでたものを、かきあつめてきたんですよ」
「みんなでよりみちしたかな~」
「そのおかげで、ちょっととうちゃくがおくれましたけどね」
なるほどね。
価値が出る物を狙って、調達のために寄り道してたのか。
おかげで、こっちも査定が楽ちんだ。
ダメ元で金も持ってきたようだけど、これにも価値が付いて喜んでいる。
査定もすぐに終わるね、この分なら。
ただ……。
「多額の現金を用意するのは難しいので、村で過ごすときに必要な当座分を渡したいと思っていますが……よろしいですか?」
「そのおかねをつかったときは、またよういしてくれるんですよね?」
「それはもちろん。あと、大きな買い物をするときは預かり分から引くという事もできます」
前回元族長さん達が沢山来てくれたとき、全部硬貨で用意するのは大変だった。
今回はその反省を活かし、全額現金で渡すのを止めにして、こちらの買掛金としたいわけだ。
手形を発行するのも良いかもしれない。
まあ、どちらも信用がないと出来ないけど、果たして平原の人達は受け入れてくれるだろうか……。
「どうでしょう。お預かりした金額は支払い保証をしますので、お願いしたいのですが」
「それでもんだいありませんよ。タイシさんは、しんようできますから」
「おまかせするかな~」
「みんなも、それでいいわよね?」
平原のお三方は、俺のお願いを快く受け入れてくれた。
他の皆さんもこくこくと頷いているので、これで一安心だ。
あとは、彼らの信頼を裏切らないようしっかりやろう。
「皆さん有り難うございます。それでは早速、当座の現金をお渡しします」
そうして話がまとまったので、早速当座の現金を皆さんに配布した。
査定のお仕事はこれでひとまず完了だね。
「なにをかおうかしら~。カメラはまずかうわよね」
「じてんしゃとリアカーをかわなきゃ」
「わたしはおさけ」
そして、活動資金を得た平原の皆さんは大はしゃぎしている。
それはもう、存分に使って下さい。
なお、村にあるお店が修羅場になったのは言うまでもない。
当然お料理傭兵カナさんが募兵されたため、やっぱり地図造りは進まなかった。
地図造りが出来ないため、俺も遠慮無しに屋台を出して平原の人達を風呂上がりのビール沼に沈めまくった。
その結果――酔っ払いダメルフが村に溢れ、道ばたで寝る人も出る始末。
そんなダメルフ達を、家や宿まで運搬するのは大変だった。
――まさに自業自得。でも反省はしていない。