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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第一章  難民支援
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第九話 これからやること沢山ですよ

 

 ――翌日、午前七時に目が覚めた。

 起きるには普通の時間ではある。


 窓から外を見てみたが、エルフ達はまだ起きていないようだ。

 えらく苦労してここまで来たようだから、疲れていたのだろう。

 昼前まで寝かせてあげようと思い。特に起こして回ることはしないことにする。


 外に出てみると、無人で若干怖かったこの村の雰囲気が、明るくなっているのを感じた。

 家に人がいるだけで、ここまで雰囲気が変わるのかと驚く。

 皆が起きてきたらもっと賑やかになって、もっと明るくなるだろう。


 皆が起きてくるのを楽しみにして、炊事場の掃除を始めようか。



 ◇



 しばらく一人で掃除をしていると、カナさんとハナちゃんがやってきた。

 エルフ達の中で今日一番の早起きは、この二人かな?


「おはようございます」

「おはよ~です~」


 二人とも眠そうな様子もなく、元気にあいさつしてくれた。


「お早うございます。よく眠れましたか?」

「はい、ぐっすりねむれました。ヤナなんかはぴくりともうごかなくなってます」


 それヤバくないか?


「そ、それは何よりです。食事の用意をされますか?」

「いえ、それはぜんいんがそろってからしたいとおもいます」


 昨日と同じく、皆で食べようってことかな。

 まとまりのある集団だったし、それもいいだろう。

 調理が一回で済むので、負担が減るし、何より皆でワイワイ食べるのはより一層食事が美味しく感じる。良いんじゃないかな。


「じゃあ準備だけはしておきましょうか」

「そうですね。おてつだいします」


 皆そろってからだと朝飯兼昼飯ってことになりそうだな。


 俺は、んしょんしょと作業を手伝ってくれる二人と一緒に、炊事場の掃除を再開した。



 ◇



「おはようございます」

「すてきなおうちだから、よくねむれたわ~」

「あらいもの、おてつだいします」


 しばらくしてぽつぽつとエルフ達が起き出してきて、調理器具洗いを手伝ったりしてくれた。


「皆がそろったら食事をしましょう」


 そう伝えると皆うれしそうな顔をしてくれる。

 今出せるのは卵入りのインスタントラーメンだけだけど、そのうちもっと色んなものを食べさせてあげよう。

 美味しい物を食べれば、それだけで力になるからね。


 ……それにしても、ピクリとも動かなくなったらしいヤナさんが気になるな……大丈夫だろうか。


 しかし、俺の心配をよそにヤナさんは昼前には起きてきた。

 無事で良かったです。うん。


「おそくなってすみません」


 申し訳なさげに言うヤナさんだけど、三十人の命運を背負ってあれだけの重責に耐えたんだ。

 疲れていても無理はない。むしろ、良く起きてきた方だと思う。


「いえ、ここに来るまでも、来てからも大変だったでしょうから、むしろ今の時間に起きてこれたのが凄いですよ」

「そういっていただけると、ありがたいです」


 良く眠れたのか、ヤナさんは昨日はだいぶしなしなしていたけど、今日は若干張りがある。

 体力も回復はしてきているのかな?

 ……しかし若干張りが戻っただけなので、相変わらずしなしなしているのには変わりがないな。

 ……誤差か。


 ヤナさんがこれだけしなしなしているので、その娘のハナちゃんはどうかな?


「あえ?」


 ハナちゃんはにこっと笑ってこちらを見上げてきた。可愛らしかったので頭を撫でておこう。


「えへへ」


 しかしハナちゃんは特にしなしなしているという様子は無いな。

 これが若いということなのだろうか。

 ヤナさんが重責による疲労の為、とびぬけてしなしなしているだけなのかもしれない。



 ◇



 しばらくして全員がそろったので、また昨日と同じようにラーメンの調理を開始する。

 今度はエルフの奥様方が集まって皆で調理するみたいだ。

 ワイワイキャッキャと賑やかに調理が進み、皆に配られていった。


「きのうもおもったけど、これうまいなぁ」

「ごちそうまたたべられるとか、すてき」

「よくねてからだのちょうしもいいから、いっそううまくかんじる」


 賑やかに食事が進んでいく。エルフ達はひとしきりラーメンを夢中で食べるけど、昨日よりは落ち着いた様子だ。

 やはり、昨日は相当切羽詰まっていたんだろう。

 今日はそれと比べると比較的、皆穏やかな様子で食事をしていた。

 そしてラーメンを食べ終えた者から、後片付けと食器洗いをしていく。


「やっぱりたべおえたあと、すぐにあらうのがいちばんらくよね~」

「んだんだ」

「おれのしょっきの、ここのよごれがどうしてもおちない……」


 そりゃ汚れじゃなくて木目(もくめ)だから落ちないよ。



 ◇



 腹ごしらえが済み、後片付けも済んだところで集会場に移動する。

 今後どうするか相談するためだ。


「では皆さん、これからどうやって食べ物を確保していくか相談しましょう」

「とりあえず、もりのなかでたべものをさがそうとおもってます」


 ヤナさんが答える。


「そうですね、食べられる物を教えますので、皆で手分けして探しましょうか」


 春の山菜ならそろそろ食べごろになるはずだ。

 まずはそれで凌いでもらおう。季節ごとに採れる物が変わるので、その都度教えて行かなくてはならないけど。

 まあ、食べられる品種と良く似た毒草もあったりするので、慎重に行こう。


「そうしましょう」

「あと、皆さん狩りは出来ますか?」


 山菜だけでは栄養が不足するので、食肉の確保もしてもらおうと思う。

 流石に肉類は高価であるので、毎回俺が買ってきて提供するのは苦しいものがあるからね。


「かり!」

「おにくとか、すてき」

「……おれのかりのうでを、みせるときがきたようだ」

「おまえのかりがせいこうしたの、みたことないんだが」


 狩りと聞いて、エルフの皆さんハイテンションだ。

 まあ、狩猟することは問題ないようで、よかった。

 植物しか食べない、という一般的なエルフのイメージとは違い、肉の話をしたらやる気あふれる感じだね。

 昨日は卵も抵抗なく食べていたしで、動物性タンパクや肉食に抵抗は無いみたいだ。

 これならタンパク質の摂取にも大きな制限が出ないので、選択肢が広がってこちらも助かる。

 それじゃ、話を進めよう。


「この山にはいろいろ動物が居まして、それらを狩って肉を確保して頂きたいのですね」


 主なところは鹿と猪、それと鳥類だけど、鳥獣(ちょうじゅう)保護法があるのでなんでも良いわけではない。

 狩猟してよい動物といけない動物はしっかり教えないといけないので、いずれ勉強会を開く必要があるかな。


「おにくです~」


 そして、ハナちゃんがまたもやどこからか弓を取り出して弦をびよんびよんさせている。

 やる気満々だなあ……。

 まあ、割と作りの良い弓なので、十分狩猟に使えるだろう。


 ただし本来は狩猟免許が必要なのだけど、そこは目を(つむ)るしかないかな。

 彼らは狩猟免許を取るために、試験と講習を受けることなど出来ないのだから。


 ――実は弓矢を使って猟をするのも、鳥獣保護法で禁止猟法として指定されていたりする。

 でも、どうしようもなければ使うしかないよね。何せ、そうしなければ飢えてしまうんだから。

 狩りに関しては、狩猟免許持ちの俺がしっかり監督すればいいんじゃないかな?

 そういうことにしとこう。

 

 狩猟はおおむね問題なさそうなので、次は農業の話をしようか。

 炭水化物と食物繊維、ビタミンを安定的に摂取するには農業をしないとどうにもならないからね。


「さらにですね、狩猟採集だけでは心もとないので、農業もしたいと思います」

「のうぎょう? ですか?」

「ええ、自分で植物を育てて、実を沢山栽培するんです。それを農業って呼んでます」

「わたしらも、きのみをうえてふやすというのはやってました。それとにたようなことですか?」


 お、それなりには栽培はしてたみたいだな。

 なら話が早い。果樹を育てるには非常に時間がかかり根気と手間がかかる。

 野菜や穀物の栽培は、果樹と比較すれば楽ではある。

 だから、果樹栽培をやっていたのならエルフ達もそれほど辛い思いはせずに、農業を始められるかもしれない。


「ええ、木の実を植えて木を増やすよりもっと効率よく、とても沢山の食べ物を作れます」

「そんなことがかのうなのですか?」

「育てる植物を選んで、育て方さえわかれば誰にでもできます。時間はそれなりにかかりますが」

「「「おおおお」」」


 エルフ達がざわめいた。食べるもので困っていただけに、沢山作れるという点に関心が湧いたのかな?


「そうすればたべものがなくてこまる、ということはなくなるのですか?」

「お天気の影響もありますので、完全になくすことはできないかもしれませんが、おおむねは安定して食べ物を作れますよ」


 日照りや冠水、台風等の災害で作物が全滅する可能性だってあるので気は抜けないけど、ある程度対策もできる。

 この村なら最悪外から買って来ればいいので、飢饉(ききん)に陥ることは無いんじゃないかな。

 

「おおむねでも、ありがたいことです。もしかして、きのうハナにあげていたしろいたべもの、あれもその、のうぎょう、とやらで?」

「ええ、あれも農業をして大量に栽培したやつです。自分一人では食べきれないくらいに」

「あのしろいごちそう……あれたいりょうにつくれちゃうの?」

「しろいたべもの、たべきれないほどたくさんとか、すてき」

「おれがうえたきのみ、ぜんぜんはえてこなかったいやなおもいでが……」


 突然エルフ達がざわつき始める。

 半信半疑だったりトラウマが蘇ったり様々だけど、まぁやってもらわないことには冬を越せない。

 なんとかしてそれなりの量を作ってもらおう。


 しかし、白いご馳走か。確かに白い食べ物は狩猟採集ではなかなか手にできない。

 おまけに、農業をやっていたとしても、小麦や米でも製粉や脱穀、精米など手間がかかる。

 それでも白い主食を人は好む傾向がある。

 色が付いていた方が栄養価が高い場合が多いのだけど、そんなことは承知のうえ。

 それでも白いものを、苦労して栽培してきたんだよね。


 そしてその理由は簡単だ。

 雑味が少ないからなんだよね。

 色のついた主食は独特の風味があるものが多く、おかずの味も損なう場合がある。

 そういうわけで、常食は厳しいものが割とあったりする。


 毎日食べるものが美味しくないのはキツイので、この気持ちは良くわかる。

 雑味が少ない淡泊な味であるからこそ、毎日食べられる。

 そんな理由で、白い主食が好まれてきたわけだ。


 まあ、栄養が不足する分は副菜で補えば良いので、そのあたりも考えて栽培するものを選んで行こう。


「まぁそのあたりはおいおい教えて行きます。何よりそれをしなければ、冬は越せません」

「そのときはがんばっておぼえます。……ところで、ふゆってなんですか?」


 ん? 今なんと?


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