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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第九章  エルフ観光
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第五話 ダメルフ量産システム


 村に観光地としての機能が色々揃ってきた。

 観光客の皆さんも、のんびりと村を満喫している。

 そんな中、元族長さんから相談があると聞いて、集会場で話を聞くことになった。


「それで、ご相談とは?」

「おみやげにかんするはなしなのですが、たまごをおみやげにしたいな、というはなしがでてまして」

「卵をお土産に、ですか」

「そうなんです。かぞくへのおみやげにしたり、ごきんじょさんや、しんせきにもくばりたいそうで」


 なるほどお土産か。卵は彼らにとってごちそうなだけに家族やご近所さん、それに親戚にもお裾分けしたくなるのも、気持ちは良く分かる。

 それと、お土産の話が出てきたってことは……そろそろ帰還も考え始めたって事だな。


 しかし、卵をお土産にしたいというのは若干難しい面もあるな。

 一応、火を通す前提なら常温でもそれなりに保存は出来る。

 あっちの温暖な気候でも、一週間くらいなら何とかなるだろう。

 ただ……親戚にも配るとなると、いよいよ消費期限が怪しくなる。

 運搬の時に割れたりもするだろうけど、損耗率も読めない。


「卵をそのままお土産にするのは、なかなか難しいのではないかと」

「それでですね、かんづめならいけちゃうのでは、とおもったのですよ」


 確かに、卵をそのままではなく、調理済みとは言え缶詰なら問題ないね。

 年単位で保存できちゃう。


「別に卵をそのままでなくても良いのなら、十分可能ですね」

「やっぱり! ……それでですね。もうしわけないのですけど、たまごのかんづめがあったらほしいなあとおもってまして」

「問題ないですね。それでは、加工済みになってしまいますが、卵の缶詰をご用意しましょう」

「ありがたいです。おねがいいたします」

「いくつか種類もありますので、気に入った物を選んで貰いましょう」


 さて、ちょっくらネットで検索して、どんな物があるか調べよう。

 よさげな製品があったら、ついでに注文もしてしまえば良いかな?



 ◇



 ――と言うわけで翌日、もう届いちゃいました。

 業務スーパーにも卵の加工品缶詰があったので、併せて調達してみた。

 軽く試食して貰って、気に入った物を発注して貰いましょう。


「お土産に出来そうな卵の缶詰を、いくつか用意しました。よさげな物が決まったら、発注して下さい」

「「「おおおお!」」」


 広場にテーブルを置いて、卵の缶詰をお披露目してみる。

 業務用水煮鶏卵と、うずらの卵の缶詰がメインだ。

 他に、だし巻き玉子缶詰やらおでん缶なんかも用意した。

 元族長さんにあげた、鶏肉と卵と大根が入ったおつまみ缶もある。

 これだけあれば、何とかなるだろう。


「これは缶詰といって、詰めた食品を長期保存できます。一周(いちねん)くらい持ちますかね」

「たまごだ~!」

「ながもちするって!」

「おいしそ~」


 皆さんテンション上がりまくりだね。存分に選んで下さい。


「タイシタイシ、これたべていいです?」

「いろんなのがある~」

「おれはこっちがきになるな~」


 ハナちゃんはだし巻き玉子に首ったけだね。

 一応観光客向けに買ってきた物だけど、良い機会なので村の皆さんにも試食頂きたい。


「もちろん皆さんもご試食下さい」

「「「わーい!」」」


 試食オーケーを出すと、皆さん興味のある缶詰に手を伸ばす。

 ……おや? うずらの卵が人気だね。

 うずらの卵って、鶏卵に比べるとちょっと癖があるけど大丈夫かな?


「このちっちゃいの、いがいとおいしいわ~」

「たべやすいな」

「しおかけると、もっとうまい」


 ……皆さんは平気みたいだね。

 うずらの卵が大丈夫なら、他のも問題ないだろう。


「タイシタイシ~、これおいしいです~」

「これって、オムレツ?」

「なんだかまいてあるっぽいわね」


 ハナちゃんは目を付けていただし巻き玉子を食べて、にこにこ笑顔になっている。

 木製のスプーンに乗せて、ちまちまと食べているね。

 他の方々も、ハナちゃんが美味しそうに食べているのを見て興味が出たようだ。

 同じようにスプーンに取り分けて、ちまちま食べ始める。


「お、これうまいじゃん」

「オムレツとはちがうのね~」

「ほのかにあまい」


 これも割と好評だね。あとは、おでん缶も結構人気がある。

 卵が入っていれば何でも良いような気もしなくもないけど……。


「タイシさん、これってこんなにはいってるの?」

「よんじゅっこくらいあるわ」

「たくさんはいってて、いいな」


 観光客の皆さんの方は、沢山入っている業務用缶が人気のようだ。

 業務用缶なので一缶に四十個くらい、ゆで卵が入っている。

 これちょっと大量すぎてどうかな? と思っていたけど……逆にそれが良いみたいだ。


「この卵は味付けされていない、ただのゆで卵です。ですので、他の料理に付け合わせたり入れたりできます」

「それはいいわね」

「このままたべてもいいし、おりょうりにもつかえるんだ」

「これはおみやげにしたい」


 一端開けちゃうと食べきるしかないけど、大勢が集まったときのご馳走として出す用途とかに使えるね。


「ちなみに、このような缶詰は他にもいろんな種類があります。卵以外にもお魚とか焼き鳥とか、甘い果物もあります」

「ほんと!」

「みたいみたい!」

「おもしろそう」

「くだものです~」


 他にもあるよと言うと、観光客の皆さんずずいと迫ってきた。

 缶詰に凄く興味がわいたみたいだ。

 ハナちゃんも混ざっているけど、甘い果物と聞いてもの凄い食べたそうな顔だ。


 それじゃ、いろんな缶詰を用意してみるか。

 スーパーに行けば大体あるから、ちょっと行って買ってこようかな。



 ◇



「大志さん、これなんてどうでしょう?」

「桃缶か。ハナちゃんきっと喜ぶよ」

「それなら買っていきましょう!」


 とりあえず最寄りのスーパーにユキちゃんと来て、適当に缶詰を物色中だ。

 ツナ缶、サバ缶、それにおつまみ缶をぽいぽいとカゴに放り込んでいく。


 ……おつまみ缶を見ていると、酒が飲みたくなる。

 今日の仕事を終えてユキちゃんを家に送った後、一人酒でもしようかな?

 そうしよう。それじゃ、ビールでも買っていくか。


「あれ? 大志さんどちらへ?」

「いやね、ちょっと今日の夜に一杯やろうとおもってさ、ビールでも買おうかと」

「ビールって美味しいんですか?」


 ビールを買うと告げたら、ユキちゃんから質問が来た。

 飲んだことないのかな?


「ビール飲んだことないの?」

「飲んだことはありますけど、苦くてちょっと……。そもそも、余りお酒は飲まないんですけどね」


 なるほど、余りお酒を飲まないから、ビールもあんまりなじみがない訳か。

 ビール独特の苦みを美味しいと感じるようになるには、慣れが必要だとは思う。

 そういう意味で、なじみがないなら美味しいと思えなくても無理はないか。


「……慣れると美味しいんだけどね」

「そういう物なんですか?」

「多分。いやでも……純粋に味として考えると、苦みが主体だから……微妙かも」


 俺も飲み始めの頃は、苦くて苦手だったな。

 何で親父は、こんな苦いのを美味しいと言っているのか不思議に思った事があった。

 それがいつの間にか、ビール美味しいなって思うようになってたんだ。


 ……なんでだろ?


「エルフさん達も、ビールはあんまり飲まないですよね? 苦いからだと思います」

「確かにそうだね。あんまり人気がないね」


 ユキちゃんの指摘通り、エルフ達もあまりビールは好んでいないな。

 大体果実酒か蒸留酒を好む傾向にある。

 苦いビールを避けているのかも。


 しかし、考えてみると不思議だな。

 確かに、体調によっては苦いだけで美味しく感じないときもある。

 でも、もの凄い美味しく感じて、これしかないと思う時もある。

 たとえば――。


 ――あ、そうか。俺がビールを好きになったのって、アレが原因だ。

 

 そういうことか。ビールは体の状態によって、激しく味の評価が左右される飲み物なんだ。

 どんなに美味しいビールでも、状況が整っていないと脳が美味しいと判断してくれない。

 最初に美味しいと思えるようにするためには、まず状況を整える必要がある飲み物なんだ。

 慣れが必要なんじゃなくて、状況が必要なんだ。

 ……多分。


 この仮説を実証するには、実験が必要だ。

 そして大変都合が良いことに、幸いビールが苦手という被験者が……今は沢山いらっさるわけで。


 ……実験、しちゃおうかな。


「ふふふふ……俺は恐ろしい事を思いついてしまったよユキちゃん」

「と、突然どうしたんですか? ……悪い人の顔になってますよ?」

「今日ユキちゃんは、ビール好きが量産される様を見ることになるであろう!」

「口調まで変わってる……!」


 戸惑うユキちゃんを尻目に、ビールをドカドカと買い込む。

 この日本には、恐ろしいシステムがあるのだ。

 日本のビール好きの何割かは、このシステムにやられた可能性がある。

 そしてあの村にも――それを実現するインフラは整っている。


 村の皆さんにも、このシステムの沼にハマって頂きましょう。



 ◇



 実験のため設備を揃え、村の入り口付近でエルフ達を待ち伏せする。

 これより、ダメ人間を量産する実験に入るのだ。


「おんせんあったまったな~」

「きょう、にかいもおんせんはいっちゃった」

「あったまったあと、からだをさますのがまたいいんだよな~」


 このポイントは、温泉帰りのエルフ達を捕獲するのに絶好の位置にある。

 今まさに、三人の獲物が通りかかろうとしていた。

 三人ともほかほかしていて、ご機嫌だね。


 さて、まずは彼らを標的にして、状況開始だ。


「――そこの温泉帰りの皆さん、ちょっとこちらにおいでませ」

「あれ、タイシさんどうしたの?」

「なんだか、やたいができてるけど」

「なにかのおみせ?」


 警戒心のないエルフ達、ふらふらと近づいてくる。

 罠にかかりました。


「ささ、そちらに座って下さい。良い物をお出ししますよ」

「いいもの?」

「なんだろ~」

「おいしいものかな?」


 罠にはまった事に気づかないエルフ達、ワクワクした様子だ。

 それでは、沼にハマって貰いましょう!


「温泉上がりで皆さん喉が乾いているご様子。そんなときにお勧めなのが――これです」


 ほかほかエルフ達の前に、すっと一つの缶を置く。


「……これ、もしかして――ビール?」

「にがいやつだよね」

「お? ひえてる?」


 そう、これはよく冷えたビール。

 冷たいわき水で、それはもうキンキンに冷やしてある。

 今実験しようとしているのは、数多くの日本人をダメにしてきた――恐怖のシステム。


 ――風呂上がりのビールだ。


 これに抗える人間が――果たして居るかな?


「皆さん喉が乾いていらっしゃるかと思います。そんな時に――よく冷えたお酒があったとしたら?」

「まさか」

「そういうことなの?」

「なんだかすごそう」


 俺の言わんとしていることが理解出来たのか、エルフ達の視線は缶ビールに釘付けになる。

 興味を持ってもらえたようだね。それじゃ話を続けよう。


「このお酒は苦くて敬遠されがちですが、よく冷えたこれを温泉上がりに飲むと――別格ですよ?」

「……ゴクリ」

「それをねらった、おみせか……!」

「おれたち、つかまった?」


 ようやくこれが罠だと気づいたようだ。

 でもね、この席に座った時点で、皆さんは――沼にはまっているわけで。

 もう逃れられないよ?


「それじゃ器に注ぎますので、まずは見た目で楽しんで下さい」


 有無を言わさず、用意しておいたコップにビールを注ぐ。

 ピルスナー特有の透き通った黄金色の液体が注がれ、ホップの効果でクリーミーに泡立つ。

 今までは缶のまま飲んで貰っていたけど、それが失敗だった。


 ――ビールは、グラスに注いでこそだ。

 グラスに注いで初めて、この飲み物は完成する。


「おおおお」

「あわだってる!」

「こういう、のみものだったのか……」


 液体七の泡が三。

 完璧な割合で注がれたそれに、エルフ達の目は釘付けになる。


「このお酒は、こうして飲むのが一番なんです」

「おお……」

「……つまりは、そういうことか」

「おれたちもう、にげられないんだな……」


 彼らの目はもう、諦めで満ちている。

 彼らは理解したのだ。逃げ場がないと言うことを。

 

 ――というわけで、飲んで貰いましょう!


「それでは皆さん、このよく冷えたお酒を――ぐいっと一気飲みして下さい!」

「「「いただきまーす!」」」


 言われたとおり、ぐいっとビールを煽るエルフ達。

 ごくごくと喉が上下し、コップに注がれたビールは瞬く間になくなっていく。


「ぐああー!」

「きくー!」

「やべえー!」


 あっという間にビールを飲み干したエルフ達だ。

 そしてコップをドン! と置いて温泉上がりのビールを堪能する。


「これやべえよ!」

「ダメになるわこれ……」

「あ、もういっぱいください」


 ――実験成功。

 風呂上がりのビールは、ビールが苦手だった人、しかもエルフにも通用することが証明された。

 実験自体はこれで終了だけど……これだけでは片手落ちだ。

 追加アイテムを投入して、さらにダメになるかも検証しなければならない。


 というわけで――おつまみも投入するわけだ。


「どうぞ。これは――おつまみの缶詰です」

「とどめきたわ」

「そんなん、ずるいわ~。かてっこないわ~」

「これ、ついかでおねがいします」


 なんだかんだ言って、皆さん俺のノリに付き合ってくれるね。良い人達だ。

 グイグイとビールをあおって、おつまみ缶をちまちまつついている。

 その顔はもうニッコニコで、風呂上がりのビールを堪能頂けたようだ。


「……こうして、人はダメになって行くんですね」

「ユキちゃんだって、ノリノリで協力してくれた癖に」

「ダメになる過程がどんな物か、興味がありましたので……」


 共犯のユキちゃんも、犯行現場を見て人がダメになっていく様を理解したようだ。

 ビールが飲める人なら、温泉とビールのコンボを食らってダメにならないわけがない。

 というか、せっかく温泉があるのに、このダメコンボを味わえないのは損だからね。


「大志ってさ、たまに変なことやるよな」

「親父さん……俺からすると、大志はしょっちゅう変なことやってるぜ」

「たまにはこういうバカやるのも、良いと思ったんだよ……」


 親父と高橋さんからはさんざんな言われようだけど、毎回真面目にやってたら疲れちゃうからね。

 こういうダメイベントも、たまには良いんじゃないかと思う。


「あれ? みんなどうしたんですか?」

「なんだか、そっちでダメなふんいきがただよってますけど……」

「にげたほうがいいかな?」


 はい、温泉帰りのほかほかエルフ追加だね。獲物は逃がさないからね。

 それじゃ、もっかいさっきのノリで行きましょう!



 ◇



 そうして日本の恐るべきシステム――風呂上がりのビールでダメルフを量産した。

 観光客も村人も、等しくダメにしていく。

 はっはっは。仮説は実証された。

 状況、終了!


「あや~。みんなダメになってるです~」

「あ! ヤナまでダメになってる!」


 そうしているうちに、ハナちゃんとカナさんもやってきた。

 温泉上がりだから、二人ともほかほかだね。


「カナさんもビールをどうぞ。ぐいっと一気に」

「ぷはあ~!」

「おかあさ~ん!」


 間髪入れずに、カナさんを速攻でダメにした。

 このコンボに抗えるのは、酒を飲まない人のみ。

 エルフ達に下戸は居ないようなので、全滅だね。


「ハナちゃんハナちゃん、子供にはこれね」

「あえ?」


 そして、ユキちゃんがハナちゃんにも魔の手を伸ばす。

 ユキちゃんが渡したのは、スポーツドリンクの粉の奴を、冷たい水で溶かしたやつだ。

 薄めに作ってあるので、吸収性の良い水分になっている。

 お酒が飲めない人には、これをお勧めとして出すようにした。

 子供達に大好評だったから、ハナちゃんも喜んでくれると思うけど……。


「これ、のみものです?」

「そうそう。美味しいから飲んでみて?」

「あい~!」


 ユキちゃんに美味しいと言われて安心したのか、ハナちゃんの警戒が解けたね。

 そしてハナちゃんぐいっと……あ、ちょっとずつ飲んでる。

 冷たい飲み物だもんね。賢い子だなあ。


「おいしいです~」

「まだあるからね。もっと飲みたい時は言ってね」

「おかわりです~!」


 お風呂上がりの薄いスポーツドリンク、ハナちゃんは気に入ってくれたようだ。

 本当はコーヒー牛乳ならもっと良いかも知れないけど、乳糖不耐性があるからね。

 水分補給に良い飲み物にしたわけだ。


「ハナちゃん、良く冷えたモモって果物の缶詰もあるよ。冷え冷えで甘くて美味しいよ」

「あや! たべたいです~!」

「はい、これが良く冷えたモモだよ」

「モモってくだもの、おいしいです~」


 スポーツドリンクと併せて、良く冷やした桃缶も気に入ってもらえたようだ。

 耳がぴこぴこ、ニコニコ笑顔で風呂上りの一杯を堪能してくれている。

 ご機嫌ハナちゃんだね。


「いや~。ビールはにがてだったのですけど、こんなにおいしいものとは」

「温泉上がりに冷えたビールを飲むと、美味しいでしょう?」

「おもしろいのみかたですね」

「まさか、おさけをひやすとはな~」


 そして、ヤナさん始め村の方々も、口々にビールの美味しさを称えてくれた。

 冬もなければ冷蔵庫もないエルフ達にとっては、お酒を冷やすというのも新鮮だったようだ。

 水が冷たくて少々困るこの地域でも、上手く使えばこんなことが出来る。

 この水が冷たいと言うのもあったからこそ、この村でもダメ人間量産システムが作れたわけだ。


「あ、もういっぱいいいですか?」

「こっちも!」

「おれはおつまみを」


 すっかりダメになった皆さんから、追加注文が来たね。

 それじゃ、とことん付き合いましょう。


 ――ちなみに、その日俺はお酒を飲めずに働きっぱなしでした。

 自業自得というのは、こういうことか。



 ◇



 村に新たな文化――温泉上がりにビールというダメな方の文化が加わった後のこと。

 お土産にビールが発注されるようになった。

 あっちには温泉がないけど、汗をかいたあと泉でそれなりに冷やしたビールを飲めば、似たような爽快感は味わえるだろう。


 そうして観光客はお土産を買いそろえ、お金が尽きた人から帰還を始めた。

 自転車にリアカーをくっつけ、お土産を満載して帰って行く。


「また、あそびにきたいな~」

「じゅんばんまち、すごいんだよな」

「おさけをかいに、またきます」


 帰還する方々は、皆満足そうにしていた。

 また来ると言ってくれているので、リピートも期待できるね。

 観光地としては、リピーターが来てこそ成功だと思う。



 ◇



「ライトをオマケしていただいて、ありがたいです」

「沢山買って頂けましたからね。消防団、頑張って下さい」

「それはもちろん」


 今日もまた、あっちの森に帰る人が居た。

 消防団長さんだ。


 団長さんは三輪自転車に連結されたリアカーに、マウンテンバイクを三台乗っけている。

 それと消防団活動に必要な装備等々。

 俺からは沢山買って貰ったオマケとして、ソーラー式の防災ライトを提供した。

 これらの装備、活用して頂きたい。


「それでは、またなにかあったらきます」

「お待ちしています」

「またくるです~」


 洞窟に入っていく団長さんを、ハナちゃんと見送る。

 村にいた観光客の殆どの人が帰ってしまって、残るは元族長さんと数名だ。

 村が、ちょっと寂しくなった。


「また来てくれると良いね」

「きっとくるです~。まちがいないです~!」

「そうだね。また来てくれた時は、歓迎しよう」

「あい~!」


 あっちの世界に帰って行ったエルフ達が、また訪れてくれる事を祈ろう。

 沢山リアカーと自転車を持って行ったから、彼らの交通は多少なりとも発達するはずだ。

 いつか、気軽に森と森を行き来出来るようになったら……良いな。

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