表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第九章  エルフ観光
115/448

第二話 最初のイベント


 宿泊施設の設置はお手軽ポンと終わったので、次はアクティビティの方に移る。

 まずは釣りだ。

 今回は便乗イベントとして、釣り大会を開催するところまでは決まっている。

 観光客の皆さんにも、参加を募ろう。


「今度この村では釣り大会を催すのですが、皆さんもよろしければ参加して下さい。道具は全て無料で貸し出しの上、釣った魚はその場で焼いて食べられます」

「おさかな? いいかも!」

「やるやる! たのしそう!」

「しお、かわなきゃ!」


 あっちの森のエルフ達も魚は好きなようで、乗り気だね。

 あと、川魚を焼くので調味料は必要だね。

 これも無料で良いかな。


「塩等の調味料も、無料で提供しますよ」

「やるー!」

「しおだー!」

「わー!」


 というわけで、調味料を無料にしたら皆さんのテンションが最高潮に。

 そういえば、あっちの森では塩が貴重品だったな……。

 そりゃ盛り上がるのも当然か。


「たくさんつるわよー!」

「おさかなのしおやきだ~!」

「いつやるの? いつやるの?」


 ……観光客の皆さんに取り囲まれてしまった。

 調味料無料、これがぐっと皆さんの心を掴んだようだ。

 それじゃ話はまとまった。道具を用意して釣り大会を始めよう。



 ◇



「やったー! つれたですー!」

「わたしもつれたわ!」

「ふたりとも、すごいじゃないか!」


 ライフジャケット装備のエルフ達、釣りに興じる。


 というわけで観光客に便乗した釣り大会が始まったけど、みなさんまあまあの釣果だ。

 ハナちゃんは割と釣っているけど、イワナが多いね。

 ちなみにヤナさんはいまだボウズである。


「このつりざお、べんりだな~」

「てもとでいとがまけるとか、すてき」

「おれのじまんのつりざおは、きのうじさくしちゃったんだぜ」


 他の皆さんもすぐさま釣り道具の扱いを覚えたようで、のんびり釣り糸を垂らしている。

 おっちゃんエルフは釣り竿を作りたいと言ったので、釣竿用の竹を通販で購入して渡したらあっさり作ってしまった。

 今は貸し出した釣り竿と自作の釣り竿の、二本体勢で釣りに挑んでご機嫌だ。

 ちなみに釣果は芳しくない。


「わー! つれたー!」

「けっこうでかいな」

「やかなきゃ!」


 観光客の皆さんも、まあまあ釣れている。

 早く食べたくてしょうがないのか、もう焼く準備をしている人もいるけど……。

 もうちょっと釣れてからにしましょう。


「ふが」

「ひいおばあちゃん、すごいです~!」

「あらあら?」

「けっこういけるな」


 そして、今のところ最も釣果が出ているのはお年寄り組だ。割と釣れている。

 のんびりじっくり待つのが得意だからかな?


「ぜんぜんつれないじゃん……」

「おれも」

「なんでですかね?」


 そんな中、マイスター、マッチョさん、ヤナさんはボウズ組だ。

 ピクリともしていない。三人とも、焦ると釣れないですよ……。

 魚はそういうのを敏感に察知するもので……。


「俺はこんなに捕れたぜ。ほらもういっちょ」

「なんでそれで、おさかなとれちゃうの?」

「おさかなてづかみとか、すてき」

「それでとれちゃうのがすげえ」


 高橋さんはそういったボウズ組の為に、川の中に入って手づかみで魚を捕っている。

 釣りではなく漁という感じだ。

 まあ、リザードマンだから魚を捕ることに関してはこの中で一番だ。

 ひょいひょいと魚をびくに放り込んでいる。


「あや! タイシ~! たすけてです~!」


 と、そんな皆の様子を見ていると、ハナちゃんから救援要請が!

 ハナちゃんの方を見てみると、大物がかかったのか釣り竿が凄くしなっている。

 ハナちゃん頑張って踏ん張っているけど、魚に負けそうだ。

 手伝ってあげないと!


「ハナちゃん手伝うよ!」

「あい~! いっしょにつるです~!」


 慌てて駆け寄って、釣り竿を保持してあげる。

 ちっちゃな手で一生懸命引きに耐えていたけど、もう大丈夫だ。

 ――と、かなり強い引きがある。これはでかいぞ!

 ハナちゃんよくこれ、一人で耐えてたな。


「ハナちゃんけっこう力持ちだね! これは大物だよ!」

「あい~。ハナ、わりとちから、あるほうです~!」


 そうして二人で、引いたり緩めたりをして魚と勝負をする。

 相手もなかなかしぶとい!

 これは期待できるぞ。


 ――そうして暫く駆け引きをしていると、だんだん引きが弱まってきた。

 ……弱って来たな。

 よし! 引き上げるぞ!


「それじゃハナちゃん、引き上げよう。せーのでいくよ。せーの!」

「せーの!」


 二人でせーのと引き上げると、魚がとうとう釣り上げられる。

 ――でっかいイワナ、釣れたぞ! 尺イワナだ!


「あや! でっかいおさかな、つれたです~!」

「すげえ~!」

「きょういちばんのでかさ!」

「おいしそう~」


 かなりの大物が釣れた様子を見て、皆さんもテンションが上がる。

 こんなのが居るんだというのが、見て分かったからだろう。

 ハナちゃんの釣った大物を見て、ワイワイキャッキャと自分のことのように喜んでくれている。


「ハナ、すごいじゃないか!」

「あい~! タイシといっしょにつったです~!」

「しゃしんとるわよ! ほらおさかなもって! はいにっこり~!」


 ハナちゃん一家はもう大盛り上がりで、我が子の釣果にニコニコ顔のヤナさんだ。

 尺イワナを掲げてにぱっと笑顔のハナちゃん、嬉しさのあまり耳がぴこぴこしていて可愛らしい。

 そしてカナさんは、そんなハナちゃんの写真をパシャパシャ撮りまくっている。


「大志、魚拓とろうぜ魚拓」

「あえ? ぎょたくってなんです?」

「ぎょたくって、なんぞ?」

「おいしいの?」


 そんなキャッキャしているエルフ達の間を縫って、高橋さんが紙と墨汁を持ってきた。

 この尺イワナの魚拓、さぞかし良い物になるだろう。

 しかし、魚拓という言葉に心当たりがないのか、ハナちゃんと他の皆さんは首を傾げている。

 あっちじゃ魚拓とかは取ってなかったのかな?

 魚拓とは何か、軽く説明しておこう。


「魚拓ってのは、釣れたお魚にこれを塗って、紙に写すんだ。記念になるよ」

「あや! きねんにのこすの、たのしそうです~!」

「ああ、わたしらはきのいたにうつしてましたね。『うつし』っていってます」


 似たような事はしてたんだな。「写し」か。

 やっぱり、大物が釣れたら何かに残したくなるよね。気持ち分かる。


「そっちではそう言うんですね」

「つりということでじゅんびしてきたんですよ。ほら、これがそうです」


 ヤナさんが、ひょいっと木の板を取り出して見せてくれた。

 でも、その大きさは明らかに大物用の大きさだ。

 ヤナさん、それ使う機会ないですね……。

 今日はずっと、ボウズだからね……。


「おとうさん。そのきのいた、いつつかうです?」

「ヤナ、それってかなりむかしに、おおものつるんだ~ってよういしたやつじゃない?」

「うう……」


 ……どうやら相当昔に用意したまんま、使う機会がなかったようだ……。

 ヤナさん、狩りだけじゃなくて釣りも苦手なんですね……。


 ちなみにその後、ハナちゃんの釣った尺イワナの見事な魚拓ができました。


「これ、きねんにするです~! タイシとつったおさかなきねんです~!」


 ハナちゃん、大物の魚拓を携え、キャッキャと見せて回る。

 裁判の後に「勝訴」とか書かれた紙を持って法廷から出てくる人みたい。

 もの凄い笑顔だ。キラキラしてる。

 そりゃあんな大物釣れたら、俺でも喜んじゃうね。


「やべえ、このまんまだとおれらなんもつれなくね?」

「まずいぞ」

「ちちおやとしてのいげんが……」


 そしてハナちゃんが大物を釣ったことで、さらに焦る三人組。

 ……ヤナさんを筆頭としたボウズ組の皆さんには、救済策を講じるかな。

 特にヤナさんはこのままボウズだと、父親としてのいろいろなアレがまずいからね。


「釣果がない方々には、特別装備をご用意してあります」

「え? とくべつそうびですか?」

「とくべつそうび、すごそうじゃん?」

「それでつれるの?」


 特別装備と聞いて、ボウズエルフの皆さんが集まってきました。

 それではそんな釣れない皆さんに、お披露目しましょう!

 その特別装備とは!


 ――ただの毛鉤! しかも沢山付いてる奴!


「……これ?」

「たくさんなんかついてる」

「これでつれるのですか?」


 ボウズエルフの皆さん、ちんまりした仕掛に首を傾げている。

 でもこれ、良く釣れるんです。なんたって沢山ついてるからね!


「まあまあ、いっぺんやってみましょうよ。釣り方は簡単、こうやって投げ入れて――流すだけ!」

「おお! かんたんそうですね」

「おれもやってみるじゃん」

「こうだな。それっ!」


 皆さん俺と同じように毛鉤を投げ入れ、流れに沿って竿を動かす。

 ――と、ほらもうアタリが。コツコツっと来たね!


「お? おお!? なんかきました!」

「これ、かかったってこと?」

「え? こんなあっさり?」


 三人組もアタリが来たようだな。ほんとあっさりなんだよねこれ。

 それじゃ、引き上げてみましょう。


「コツコツと来たらもうあげちゃって大丈夫ですよ。こんな風に」

「あ! かかってる!」

「ごひきつれた!」

「これ、かんたんでいいな!」


 小物だけど、毛鉤に複数かかっている。

 超お手軽毛鉤釣りだ。とっても良く釣れる。ほぼアブラハヤだけどね……。

 でも、これでボウズな人は居なくなった。

 

 ここら辺は水が綺麗だから、こういったアブラハヤやウグイでもちゃんと食べられる。

 獲物を選ばないなら、こういうことも出来る。


「やった! またつれた!」

「おもしろいじゃん!」

「いっぱいつるぞー!」


 そして三人組は大喜びで毛鉤釣りを始めた。

 たとえ小物でも、沢山かかるから手ごたえはあるんだよね。

 ……まあ、小物なので調理がめんどかったり、調理法によっては結構な癖が残るんだけどね……。

 でも、自分で釣ったお魚を食べるんだから、雰囲気とかも相まって美味しく感じるんじゃないだろうか。


「おとうさん、つれてるです~!」

「はっはっは! いっぱいつるからね~」

「がんばるです~!」


 ハナちゃんに良い所を見せられて、ヤナさんえびす顔だね。

 うん、良かったよかった。おとうさんの威厳は保たれた。

 特別装備、存分に活用してください。


「ヤナ、つりでおさかなをつったの、はじめてじゃない?」

「ふが」

「ヤナがおさかなつってきたこと、いままでなかったもんな」

「あらあら」


 後ろに居たヤナさんのご家族がそんな話をしているのが聞こえてきた……。

 ヤナさん……。あ、涙が……。



 ◇



 そんなこんなで、皆さんある程度の釣果が出たあたりで釣りは終了とした。

 この後すぐに焼き魚を始めても良いけど、これは一応大会なわけだ。

 なので上位五位の方々は表彰する用意はしてある。


「これは大会ですので、上位五位の方は表彰と記念品を贈呈します」

「タイシ、ほんとです!?」

「まじで」

「おれはじしんあるぜ~」

「わたし、にひきしかつれてないからだめね……」


 表彰と記念品贈呈と聞いて、にわかに活気づく皆さん。

 あまり釣れなかったのか、自信のなさそうな人もちらほら。

 でも、審査基準は独断と偏見、あとその場のノリ。

 そんなふわっとしたものだけど、とりあえず順位発表と表彰式をしましょう!


「まずは五位から始めます。五位の方は――ヤマメを釣り上げたこの方です!」

「え? わたし? にひきしかつれてないですけど」


 さっき諦めがちだった、観光客のお嬢さんだ。

 自分が入賞したことが意外だったのか、目をまん丸にして驚いている。


「この魚は、釣り上げるのがかなり難しいのです。それを二匹は結構凄いんですよ」

「そうなんだ! うれし~!」


 観光客のお嬢さんはヤマメを二匹釣り上げている。一匹は釣った人が他にも居るけど、二匹はこのお嬢さんだけ。

 繊細な釣りにて、見事難しい獲物を釣り上げたその腕に対して表彰だ。


「はい。入賞記念の表彰楯です」

「キャー! きれいなこうげいひん~!」


 エルフ達は透明な人工物が珍しいようなので、クリスタル楯を贈呈だ。

 まあ、ぶっちゃけそんなに高い物でも無い。

 これは無料イベントだから、記念品の楯もそんなにお金はかけられない。

 でも、お嬢さんは凄い喜んでくれた。飛び跳ねている。


「あんなんもらえちゃうの!」

「いいな~」

「あれもおみやげに、できるかな?」


 透明な表彰楯、まあ置物を見て皆さん目が釘付けに。

 ……これ系統のお土産、お店に用意しようかな?

 観光地なのに、そういう小物全然用意してなかったなそういや。

 ……まあ、後で考えるとして、続きだ。


「では次は四位です――」


 こうして入賞者に表彰楯を贈呈していく。

 この表彰楯、順位が上がるにつれ、ちょっとずつ大きくなっていく。


「やったー! にばんめだー!」


 二位の方の楯になるとそれなりの大きさで、贈呈されたエルフは大喜びだ。

 上から下から眺めて、透明素材の珍しさを堪能している。

 意外とこの記念品、ウケたな。今後も使えそうだ。


 それはさておき、二位まで表彰は終わった。残るは優勝者だ。

 優勝はもちろん――。


「――それでは最後です。本日の優勝者は――ハナちゃんです!」

「あや! ハナがゆうしょうです!? やったです~!」

「おめでと~」

「おおものだったもんな~」


 尺イワナを釣り上げたのはハナちゃんだけなので、優勝はハナちゃんで決まりだ。

 正直俺でもあんなの釣り上げたこと無い。

 そんな大物を釣り上げたのだから、皆納得の優勝だ。

 それでは、ハナちゃんを盛大に表彰しましょう!


「ハナちゃん、表彰するからおいでませ」

「あい~!」


 ぽてぽてと俺の前に来て、にぱっと笑顔で見上げている。

 さて、一番おっきな表彰楯を渡そう。


「ハナちゃんは一番大きなお魚を釣り上げました。実は自分もこの大きさはつり上げたことがありません。正直羨ましい!」

「あや! タイシでもつりあげたことないです!?」

「それが無いんだよ。だから、あんなの釣り上げちゃったハナちゃん、ホント凄いよ!」

「うふ~」


 褒められて嬉しいのか、ハナちゃんの顔が段々でれ~んとしてきた。

 耳が段々とたれ耳になるから、見ていてほんわかするね。

 たれ耳ハナちゃんだ。


「それでは優勝したハナちゃんには、いちばんおっきな表彰楯を贈呈します!」

「あや! これもおおものです~!」

「重いから気をつけてね」

「あい~! きをつけるです~!」


 笑顔で両手を差し出したハナちゃんに、表彰楯を手渡してあげる。

 手渡す際に、ハナちゃんのちっちゃな手がひしっと表彰楯を持って、大事に大事に胸に抱えた。


「タイシ。これ、だいじにするです~」

「良い思い出になったかな?」

「あい~! たのしかったです~!」


 でれんとたれ耳ハナちゃん、大喜びの釣り大会になった。

 観光客をもてなすイベントでもあったけど、ハナちゃんをもてなしちゃったな。

 でもまあ、これほど喜んでくれるなら、良いかな。


「かわいらしいわね~」

「こどもががんばっているのは、いいもんだね」

「あのこのおとうさん、かおがもうでれでれよ」


 観光客の皆さんも、微笑ましい光景が見られたのでそれで良いようだ。

 こういうことに理解のある方々で、良かったな。



 ◇



 楽しい表彰式も終わり、いよいよ本日のメインイベント、焼き魚に移る。

 お魚を下ごしらえして、バーベキューコンロも準備しなきゃね。


「塩は使いたい放題なので遠慮なさらず。ひれには塩をたっぷり塗ると、ひれが焦げるのを抑えられます」

「ぜいたく~」

「こうすればいいのね」

「こんなにしおをぬったこと、ないんだよな。これはおいしそうだ」


 俺が見せた手本に従って、魚に塩をまぶして串を打っていく。

 背骨を回すように串に刺すのがコツだけど、皆さん教えるまでも無くやっている。

 この辺り、手慣れているね。魚の串焼きは良くやっていたんだろう。


 さて、観光客の皆さんは大丈夫そうだ。

 大物を釣り上げたハナちゃんはどうかな?


「ハナちゃん、下ごしらえはどうかな? 大物は大変だと思うけど」

「だいじょうぶです~。このおっきなおさかな、ハナがしたごしらえするです~!」

「お、ハナちゃん魚捌けるんだ」

「あい~。おかあさんにならったです~」

「ハナ、けっこうじょうずなんですよ」


 俺とハナちゃんで釣り上げた尺イワナを、ハナちゃんはんしょんしょと捌いていく。

 ……確かに上手だな。

 切れ味ほどほどのステンレス包丁だけど、すいすいと下ごしらえしていってる。


「あのどうぐ、べんりそう」

「ぴかぴかしてるわ」

「よくきれそう」


 観光客の皆さんが使っている道具は……石包丁かな?

 そんな彼らは、ハナちゃんの使っているこっちの調理器具を見て興味津々なご様子だ。

 ただ、皆さんが手にしている石包丁も、結構凝った作りをしているようだ。

 果物ナイフのような形をしていて、黒と青の層が文様となっている。

 見た目が――凄い美しい。これは聞いてみないと。


「皆さんの使っているそれは……石包丁ですか? 綺麗ですね」

「そう? よくあるやつだけど」

「いしをみがいてつくるの」

「おれのじまんのいしぼうちょう、みちゃう?」


 皆さん石包丁を見せてくれたけど、やっぱり見た目綺麗だよね。

 ……おっちゃんエルフが見せてくれたのは、包丁というよりナタだけど……。

 でも、見た目が本当に美しい。これ、家に飾りたいな。


「ユキちゃん。これ、飾り物としてウケるんじゃない?」

「これはウケますね。光にかざすと透過して、もっときれいですよ。ほら」

「おおっ! ホントだ。これは綺麗だ」


 ユキちゃんが石包丁を光にかざして見せてくれたけど、確かに光が透過して綺麗だ。

 内部の模様同士が様々な色に輝いて、万華鏡みたいで見ていて楽しい。


「これ良いな。俺ん所の奴らも欲しがるぜ」

「大志、売れるぞこれ」


 高橋さんと親父も、エルフ包丁の美しさに目を見張っている。

 確かに売れるな、これ。


「皆さんの石包丁、こっちだと見た目が綺麗で価値が出そうですよ」

「まじで」

「そこらへんにある、ふつうのいしをけずっただけだけど」

「でもまあ、きれいっていわれるとうれしいわね」


 エルフ達にとってはありふれた道具だから、ピンとは来ていないようだ。

 でも、自分達の工芸品が綺麗と言われて、まんざらでもない雰囲気だけど。

 これは後で譲ってもらおう。窓際に飾れば、太陽光で反射して綺麗だろう。


「良い物見れました。まあ、包丁の話はまた伺いますので、お料理を続けましょうか」

「したごしらえ、おわったです~」

「そうだそうだ、おさかなやこう」

「おしお~」


 包丁品評会はまたにして、お料理再開だ。

 ハナちゃんはてきぱきと下ごしらえをしていたらしく、もう焼ける状態だね。


「それじゃ、焼こうか」

「あい~! ひをつけるです~!」

「ハナちゃん、こっちもおねがい」

「あ、おれんとこもひをつけてほしいな」

「あい~!」


 他の皆さんも下ごしらえが終わったのか、バーベキューコンロの火付けをお願いしてきた。

 ハナちゃん大はりきりで、点火していってる。

 ――お、戻ってきた。


「タイシタイシ、おさかな、ハナがやくです~」

「ハナちゃんが焼いてくれるの?」

「あい~! おいしくやくですよ~」

「それじゃ、お魚はハナちゃんにお任せしちゃいましょう!」

「あい~! まかせるです~!」


 そうしてハナちゃんはお魚を焼き始めたけど、まあ問題ないだろう。

 魚の背中から焼き始めているし、川魚は皮から焼くってのを経験で分かっているようだ。

 この辺りは、俺よりエルフ達のほうが上手だろうから、お任せしましょう。

 あとは……。


「ヤナ、ちっちゃいのがたくさんでしたごしらえたいへんね」

「まだはんぶん……」


 ハヤ釣りで小物を沢山釣ったヤナさん、下ごしらえに苦戦中だ。

 カナさんに手伝ってもらっても、まだ半分位だね。

 ちっちゃいからしょうがないね。


「この小さいものは、良く塩でもんでから、素揚げにして食べると美味いしいですね」

「あげもの……おさけがのみたくなりますね」

「残り半分は取っておいて、夜お酒を飲むときのおつまみにしたらいいんじゃないですか?」

「あ! そのてがありましたね!」


 今全部仕込んで食べなくても良いからね。

 釣ったお魚は、ご自由にどうぞだ。


「やけてきたわ~」

「おいしそう」

「おさかなのしおやき、ひさびさだな~」

「あっちじゃ、おしおたりなかったものね」


 観光客の皆さん焼き始めたようで、川魚の塩焼きが焼きあがる様子を嬉しそうに見つめている。

 塩不足で苦労しているそうだから、こういった素朴な塩焼きでも喜びはひとしおだろう。

 たっぷり召し上がってください。


「タイシタイシ~、おさかなやけたです~。たべてほしいです~」

「お、お魚焼けたんだ。それじゃ、頂こうかな」

「たべるです~。はい、あ~ん」


 木のさじに身を取り分けてくれて、食べさせてくれるようだ。

 あ~んと口を開けて、食べさせてもらう。


 ――では、一口。

 口に入れると、パリッとした川の香ばしさを、ほのかな塩味が引き立てる。

 そしてふわっと火の通った白身の淡白な味に続いて川魚特有のちょっとした癖が加わり、旨味となって口に広がる。

 絶妙な焼き加減で、とっても美味しい。非常に丁寧に仕上げられている。


「――うん! とっても美味しく焼けてるよ! ハナちゃん良く出来ました!」

「うふ~」

「それじゃお返しに、自分も食べさせてあげよう。はい、あ~ん」

「あ~ん」


 今度は俺の方からハナちゃんに食べさせてあげる。

 ハナちゃんはお口を大きく開けて、ぱくりと一口、もぐもぐする。

 にこにこ笑顔で、可愛らしい。


「おいしいです~! おとうさんとおかあさんにも、たべてもらうです~!」

「どれどれ……おいしいね! ハナ、じょうずじゃないか!」

「さすがはわたしのむすめね」


 おすそ分けをもらったヤナさんカナさんも、ハナちゃんの焼き魚を美味しそうに食べている。

 可愛いわが子が一生懸命焼いたお魚だ。美味しさもひとしおだろう。


「あと、これはかみさまのぶんです~」

(やたー!)

「それじゃ、お供えしようか」

「あい~」

(ありがと~)


 そうして神様にもお裾分けしたりして、焼き魚を皆で食べる。

 どの魚もちゃんと焼けていて、やっぱりこう言うのはエルフ達の方が上手だな。

 伊達に狩猟採集文化だったわけじゃないのが、こういう所からもうかがえる。


「おさかな、おいし~」

「しおあじ、たまんないわ」

「しおやきなんて、ひさびさ」


 観光客の皆さんも次々に焼き上げ、美味しそうに食べ始めた。

 塩焼きは久々らしく、感無量のご様子だ。


「こっちも焼けたぞ。自分の釣れなかった種類の魚があったら、つまんでくれ」

「わーい!」

「おれ、これつれなかったんだよな~」

「どれどれ」


 高橋さんの方でも焼き上げて、釣れなかった種類の魚がどんな味かを体験させてくれている。

 これなら、釣果が芳しくなかった人でも、色んな種類の川魚を味わえる。

 主にヤナさん、マイスター、マッチョさんの三人組が食べているね……。

 三人とも、小物しか連れてないからね。沢山頂いてください……。


「タイシさん、おさかなつりって、いつでもやっていいの?」

「このどうぐとか、しおとかも、むりょう?」

「またやりたい」


 観光客の皆さん、ご満足いただけたようで道具の貸し出しや時間について聞いてきた。

 皆さんにこにこしていて、嬉しそうだ。

 

「道具は無料でお貸しします。塩や調味料も無料ですよ。ただ、夜中や川が増水しているときはご遠慮ください。危ないですからね。それと、必ず二人以上で釣りをしてください」

「わかりましたー!」

「あしたもおさかな、つるぞー!」

「しおやき~」

「その際は必ずこの装備を身につけてください。万が一があっても水に浮きますので」

「わかりました」

「これ、べんりよね~」


 ホントに無料ということが確認できたので、皆さんキャッキャと大盛り上がりだ。

 安全を確保して、存分に楽しんでください。


「うまくいきましたね」

「たのしかったです~」

「ひさびさに、おさかなりょうりしました」


 ヤナさんとハナちゃんも、イベントが成功して嬉しそうだ。

 もぐもぐと焼き魚や揚げた小魚を食べながら、今日のイベントを堪能している。


 周囲では、たまにピカッと光って魚が消えるけど、どうやら観光客や村の皆さんも、神様にお供えしているようだ。

 大勢からお供えされているから、今日は神様もお魚祭りだね。


「これ、わたしたちもおさかなつりしていいんですよね?」

「もちろん。夜中や増水中は避けて、安全装備着用の上二人以上で釣りをするのを守れば、問題ありません」

「これで、たべものふやせるな」

「おさかなのおりょうり、かんがえとかなきゃね」

「おれのじまんのはっぱのせやき、おさかなでもできるよ?」


 村の皆さんも魚釣りが思いのほか楽しかったようで、同じように釣りの話をしてきた。

 そもそも村人の為の釣りだったので、規則を守った上で、自由に釣ってもらって構わない。


「のこったおさかな、ゆうしょくにおりょうりしてもらおう」

「いいわね」

「おれもそうしよう」


 ……これ、今日のお料理屋さんは増員しないといけないな。

 きっとお魚を持った人たちが殺到して、修羅場になるぞ。

 予備の七輪も用意しておこう。


 ……まあなんにせよ、釣りアクティビティはいけそうだ。

 上手く釣れれば食糧調達にもなるし、おなかも膨れる。

 たまにまたこういった大会を開いて、盛り上がるのも良いかもしれない。


 それじゃ、この調子で観光客が楽しめるイベントを作って行こう。

 そういうイベントは、村のエルフ達も楽しめる物もあるだろう。

 他に何が出来るか、考えなきゃな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ