第十五話 種まきすぎ
「あやーーーー!!!」
「ハナ! どうした!」
ハナちゃんの叫び声を聞いてヤナさんおうちから飛び出し来ました。
どこかで見た光景ですね。
「お父さん! あれ! あれ! いっぱい居るです~!」
ハナちゃんが指さす先、そこはハナちゃん菜園がありました。
そしてそこには――。
「ばうばう」
「ば~うばう」
「ばう~」
「ばうう」
「ぴゃう」
――なんと、フクロオオカミの群れが居るでは無いですか!
オマケに子供のフクロオオカミも居ます。
「うわっ! フクロオオカミがなんでこんなに沢山!」
「昨日は居なかったです~!」
ハナちゃん良くわからない事態に「あえ~? あえ~?」と右往左往。
ヤナさんも「えええ? えええ?」と右往左往しています。
「ギニャ」
右往左往する二人にフクロイヌがなにやら呼びかけました。
一体今度はなんでしょう?
「あえ? キャベツです?」
「ギニャ~」
フクロイヌが畑に大量に残っているキャベツをつんつんしています。
この前ハナちゃんが量産しすぎて、埋もれちゃったあれですね。
収穫しなければ新鮮なまましばらく置いておけるので、そのままにしてあった物です。
「……キャベツを食べに来たです?」
「ギニャ」
「ばう~!」
「ば~うばう!」
「ばうばう!」
ハナちゃんが問いかけると、皆こくこく頷いています。
どうやらこのフクロオオカミ達、キャベツ目当てでやってきたようですね。
しかし畑の作物を食べずに、きちんと待っていたようです。
「ギニャッ」
「もしかして、勝手に食べないように言ってくれてたのかな?」
「ギニャン」
ヤナさんがつぶやくと、フクロイヌは「そうだよ!」と言わんばかりに顔をあげました。
その目からは、ほめてほめて光線が出てますね。
「あや~。偉い子です~。くすぐっちゃうですよ~」
「ギニャッ! ギニャッ!」
フクロイヌが止めていてくれたようですね。
ハナちゃん思わずフクロイヌをくすぐり倒しちゃいます。もうフクロイヌは大喜び!
そんなハナちゃんとフクロイヌを微笑ましく見つめながら、ヤナさんが言いました。
「ハナ、この子達にキャベツをあげても良いかい?」
「あい~! 足りなかったらまた作るです~!」
「ばう~!」
どうやらキャベツを食べに来たようなので、あげちゃうことにしました。
それを聞いていたフクロオオカミ達も大喜び。
さっそくキャベツを食べ始めます。
「ばう~ん」
「ばうばう」
「ばう~ばう~」
美味しそうにキャベツを食べるフクロオオカミ達、畑にはまだまだ沢山キャベツが残っています。
たんとお食べ。
「おーい、叫び声が聞こえたけどなんかあった――すげえいっぱい居る……」
「なんじゃあこりゃあ」
「群れじゃないか!」
叫び声を聞きつけて集まってきた皆さん、やっぱりビックリです。
そしてマイスターは興味深々。特に子供のフクロオオカミに目が釘付けです。
「子供のフクロオオカミって、めったに人前には出てこないんだけど……フクロからなかなか出てこないんだ」
「子供と言っても割とデカイんだな」
「子供もキャベツを食べるのね。……そのために出てきたのかしら?」
「かもな」
どうやら、子供のフクロオオカミが外に出ているのは珍しいみたいですね。
マイスターはふむふむと観察を始めました。
「ぴゃう」
「ぴゃう~」
「あれ? キャベツじゃなくて葉っぱを食べてる子オオカミも居るな……」
葉っぱを食べている子オオカミに注目するマイスター。
そして、その葉っぱは何処か見覚えのある感じが……。
「おわっ! 俺の葉っぱ基地が食われてる!」
子オオカミ達が食べていた葉っぱ、それはマイスターの葉っぱ基地の葉っぱ外壁でした。
マイスターが森の中に作った、あの葉っぱのおうちが子オオカミ達に食べられちゃいましたね。
しばらくキャベツは待てが入っていたので、我慢できなかったのでしょう。
高い枝ではなく地面に葉っぱがあるわけで、子オオカミ達にはお手頃だったのでしょうか。
「割と苦労して作った俺の基地が、美味しく頂かれてる……」
「また作れば良いじゃ無い」
「そうよ~」
「ただの葉っぱ乗せだしな。すぐに作れるだろ」
ガックリ膝をつくマイスターを、ステキさんと腕グキさんが慰めていますね。
マッチョさんもぽんぽんとマイスターの肩を叩いています。
まあそれはそれとして。
「しかし、何でまたこんなに沢山居るんだろ」
「わかんないです~」
「謎だらけね……とりあえず写真撮っちゃいましょう!」
フクロオオカミが突如群れで現れた理由が、誰も分かりません。
カナさんはもう考えるのを止めて、パシャパシャ写真を撮り始めちゃいましたね。
「……まあ、せっかく来てくれたんだからのんびりさせとこう」
「そうするです~」
「賑やかで良いわね」
考えても分からないので、好きなようにさせることにしたみたいですね。
ちゃんと畑の作物を勝手に食べないで待っていたので、問題は無いでしょう。
「キャベツ、どんどん減ってくです~」
「沢山作らなきゃな。一段落ついたらにょきにょきしようか」
「あい~! キャベツ、沢山にょきにょきするです~!」
村の皆は、キャベツを美味しそうに食べるフクロオオカミの群れを、にこにこして見ていたのでした。
◇
――翌日。
「オオカミさん~、元気してるですか~」
ハナちゃんやっぱり朝早くに起きて、フクロオオカミの様子を見に行きます。
昨日はキャベツをたらふく食べた後、森でくつろいでいました。
今日も何事も無ければ、森で過ごしていることでしょう。
「仲良くなって~背中に乗せて貰うです~」
おや、フクロオオカミと遊ぶつもりなんですね。
もう既にかなり仲良しさんかと思いますが、もっともっと仲良くなろうとしているのでしょうか?
なんせ、平原にすむフクロオオカミです。森にすむエルフ達では、なかなか接点がありません。
沢山遊びに来ている、いまが大チャンスです!
フクロオオカミと仲良しさんになるために、ハナちゃんはぽてぽてと森に向かって歩いていきました。
「ばう?」
果たして森には、昨日と同様フクロオオカミがくつろいでいました。
葉っぱを食べたり寝そべったり、のんびりまったりですね。
「オオカミさん~お腹空いてないですか~?」
「ばう~」
首を横に振っていますね。まだ大丈夫なようです。
「お腹へってないですか~。じゃあ、これならどうです?」
ハナちゃんは何処からか、ぴょいっと袋入りの飴玉を取り出しました。
今度は甘いもので仲良くなる作戦ですね。
「誰か、ハナを乗せてくれるです? 乗せてくれたら甘い物あげるです~」
「ばう~!」
「ばうばう!」
「ば~うばう!」
「あやや! 皆来ちゃったです~!」
甘い物と聞いてフクロオオカミが殺到しちゃいました。
作戦は大成功! もうフクロオオカミに乗り放題ですね。
「あや~皆にあげるから、並ぶです~」
皆甘い物が食べたいようなので、ハナちゃん全員にあげちゃうことにしました。
飴玉をぽいぽいとフクロオオカミ達の口に放り込んでいきます。
「ばう!」
「ばうばう!」
「ば~う!」
飴玉を貰ったフクロオオカミ達、大喜びでハナちゃんにすりすり、すりすり。
ハナちゃんふわふわに囲まれちゃいました。
もうすっかり仲良しさんです。
「あやや! ふわふわです~」
そうしてしばらくふわふわを堪能していると、一頭のフクロオオカミがハナちゃんの前で腹ばいになりました。
この中で一番立派な毛並みをしていて、体も一番おっきいですね。ボスかな?
「あえ? 乗って良いです?」
「ばう」
ハナちゃんの問いかけに「いいよ」というように頷きました。
「それじゃ乗るです~!」
ハナちゃんはんしょんしょとそのボスオオカミ? の背中に乗りました。
ハナちゃんが背中に乗ると、ボスオオカミはゆっくり立ち上がります。
「あや! 高いです~」
牛くらいの大きさがあるので、立ち上がると結構な高さになりました。
ハナちゃん大喜びでキャッキャしちゃいます。
「ばう~」
そして乗せてくれたボスオオカミは、首を捻ってハナちゃんを見つめています。
どうしたのかな?
「あえ? どこに行きたいかです? ……村を一周するです~!」
行き先を聞いていたのですね。
ハナちゃんは背中に乗りたかっただけなので、特に目的地はありません。
でもせっかくなので、村一周をしてみることにしました。
「ばう」
ボスオオカミは返事をすると、トテトテと村を歩き回り始めました。
さあ、村一周のちょっとした冒険の始まりです!
「楽ちんです~!」
「ばう~」
ボスオオカミの背中に乗って、快適な村のクルージングを堪能するハナちゃんです。
田んぼに行ったり、温泉に行ったり。
川に寄ってボスオオカミの喉を潤したり、いろいろなところに連れて行って貰います。
「高くて見晴らしが良いです~」
「ばうばう」
見晴らしの良い背中で、自転車位の速度で移動しています。
これは快適、景観もばっちりでハナちゃんご機嫌になりました。
「洞窟にも行くです~」
「ばう~」
そして、勢い余って洞窟をくぐり抜け、あっちの世界に来ちゃいました。
灰色の森ですね。
でも、そこもう村じゃないですよ?
「あや。この辺で良いですよ? 村に帰るです~」
「ばう~」
ちょっと遠出しすぎちゃいましたね。
ここでやることは特にないので、すぐさま引き返そうとしたとき――。
「あえ?」
ハナちゃんの耳がぴこんと立ちました。
どうしたのかな?
「なんだか、ガタガタって音がするです?」
「ばう」
どうやら聞き慣れない音がするようですね。
ハナちゃん耳をぴこぴこ動かして、音を探ります。
やがて――。
「あや! これリアカーの音です!? ……元族長が来たですか?」
ハナちゃんは謎の音をリアカーの音と特定したようです。
そういえばそろそろ元族長が来訪する頃合いですね。
ちょうどその場に居合わせちゃったのかも知れません。
「ばう~ん!」
そしてボスオオカミが遠吠えのように吠えました。
すると。
「ばうばう」
「ばう~」
「ば~う」
どこか遠くから、同じようにフクロオオカミの遠吠えが聞こえてきました。
仲間に呼びかけたのかな?
「あえ? 返事したですね~」
「ばう~」
ハナちゃんもその遠吠えは聞こえました。
どうやら数頭のフクロオオカミが近づいてきているようですね。
リアカーの音もするので、やっぱり元族長かもしれません。
今こっちの世界でリアカーを持っているのは、元族長と平原の人達だけですからね。
特定は簡単なのです。
「近づいてきたですね」
「ばうばう!」
どんどん音が近づいて来ました。間違いなくこっちに向かってきているようです。
「おーい!」
そして相手もこっちを見つけたようで、手を振っています。
「やっぱり元族長です~!」
ハナちゃんの視線の先には、三頭のフクロオオカミを連れた元族長がいました。
三輪自転車に乗って、ぶんぶんと手を振っています。
そのフクロオオカミは、三頭ともリアカーを引いていますね。
確定です。元族長さんの来訪です!
「ようこそです~! 皆待ってたですよ~!」
「今行くぞ~!」
ハナちゃんも手を振り返して、元族長さんの到着を出迎えました。
「ハナちゃん久しぶりだな! ……でもどうしてこっちに居るんだ?」
「フクロオオカミと遊んでたら、ここまで来ちゃったです~!」
「ばう」
「そうなのか。もうすっかり仲良しさんだな。……あれ? あの村にフクロオオカミって居たっけか?」
「昨日沢山遊びに来たです~。キャベツを食べに来たみたいです~」
「そうなんだ」
ハナちゃんと元族長さん、十数日ぶりの再会を喜び合います。
「それじゃ、村に行くです~」
「あ……そうだな。村に行かなきゃな……」
そしてハナちゃんが先導して、村に戻ろうとしました。
でも、元族長はなんだかもごもごしていますね。どうしたのでしょうか?
「どうしたです? 村はいつも通りですよ?」
「いや、村のことは心配していないんだけどな……」
「あえ?」
元族長さん、やっぱりもごもごしています。
ハナちゃん訳も分からず、首をコテンと傾げました。
「あ~なんというか、その……見て貰った方が早いかな……」
「あえ?」
元族長さん、連れてきたフクロオオカミの後ろ、リアカーを指さしました。
リアカーがどうしたのでしょうか?
「見てみるです?」
「ばう」
良くわからないので、言われたとおり見に行ってみることにしました。
ボスオオカミの背中に乗ったまま、トテトテとリアカーに近づいていきます。
すると――。
「ども」
「卵料理があると聞いて」
「来ちゃった」
「綺麗な石、沢山かき集めちゃったのよ」
「リアカー欲しい」
「俺はお酒」
――三台のリアカーには、あっちの森のエルフ達がすし詰めになって乗っていました。
「あえ?」
ハナちゃん、ぽか~んとしてしまいました。
そしてぽか~んとした顔のまま、元族長を見ます。
元族長、気まずそうです。
「あれだ……写真を見せて回ったらだな……皆来たいって言い始めてだな……」
「ということで伝統の儀式をやって勝ち残った俺らがね」
「第一陣として卵を食べに来たというわけさ」
「お肌すべすべの泉があるって聞いちゃったらね。トゥルットゥルになるんでしょ?」
「リアカーとかカメラとか欲しい」
「俺はお酒」
すし詰めリアカーに乗っている皆さん、ワクワクしたご様子です。
アレですね。沢山来ちゃいましたね。
「あえ?」
「そんなわけで……この人らも暫く村に置いて欲しいなってタイシさんにお願いを……」
「あえ? タイシ今居ないですよ?」
「え?」
「お仕事で暫く村に来れないです?」
「え? 村に来れないの?」
元族長さんとハナちゃん、固まりました。
リアカーにはすし詰めエルフ達。期待に満ちた顔の皆さんです。
そしてタイシはまだ村に来ておりません。
「……」
「……」
「ばう?」
顔を見合わせる元族長とハナちゃん。
次第に冷や汗が流れ始めます。
大勢の人を何とかするノウハウ、村のエルフ達は持っておりませんから……。
今一番そのノウハウを持っていて、こういう事態に慣れている人物は――大志だけなのです。
大志のお父さんも高橋さんも、あくまで大志のお手伝いですから。
ゼロから考えてPDCAを回している大志とは、やっぱりノウハウに差がでるのです。
「あやーーーー! どうするですーーーー!」
「タイシさん居ないのに、いっぱい連れて来ちゃったーーー!」
ハナちゃんと元族長さん、わたわたし始めました。
二人とも大慌て!
村の最高責任者が居ないのに、大量の客人が来ちゃったのですから。
「温泉卵楽しみだな~」
「お肌すべすべしちゃうから~」
「リアカーとかカメラとか自転車とか欲しい」
「俺はお酒」
「ばうばう」
慌てる二人をよそに、フクロオオカミ達とすし詰めエルフ達はのんびりです。
さて、彼らの地球滞在はどうなっちゃうのでしょうか?
「タイシ~! 早く帰ってきてです~!」
「どうしよ! どうしよ!」
カメラとリアカーの効果が出すぎちゃいましたね。
まさか、いきなり旅してくるとは……なかなか行動力のある方々です。
「あやややや……」
まあ、大志が帰ってくるまで大志のお父さんと高橋さんが応急処置はしてくれます。
大志が帰ってきた後で本格的に対処しても大丈夫ですから、ハナちゃんそんなに焦らなくても大丈夫だよ?
ても大志、早く村に帰って来てね。
村はとーっても、賑やかになっているよ。