第六話 はじめてなのに乗れちゃった!
三日してようやくママチャリと子供用自転車、さらに馬具もそろった。
早速高橋さんと、リアカーに連結部を溶接してハーネスが取り付けられるかを試してみた。
結果はけっこう良い感じになった。
これで必要な道具は全部揃ったので、検証を一気に進めてしまうことにする。
まずは二輪車講習をしようということで、何時もの畑のそばにある平地に皆に集まって貰った。
二輪車講習の後は馬具の検証も行うので、フクロオオカミ四頭も一緒である。
しばらくフクロオオカミ達にはのんびりと過ごして貰って、こっちはこっちで自転車講習を始めよう。
◇
「それでは、いよいよ二輪車の講習を始めたいと思います」
「いよいよですね」
「のれるかな?」
「がんばるです~!」
乗り物の楽しさを知った皆さん、並べられたママチャリやら子供用自転車をみて、わくわくしている。
八台のママチャリと六台の子供用自転車が用意してあり、これで平行して練習ができる。
練習方法は三段階を想定しており、まずはそれを説明しよう。
「二輪車に乗れるようにするため、三段階にわけて技術を習得するようにします」
「さんだんかいですか?」
「そうです。まず第一段階は、このペダルのない二輪車に乗れるようにします」
「ペダルがない、ですか」
ペダルのない自転車は、両足で地面を蹴って進み、バランス感覚を養う訓練だ。
この車体で緩やかな坂を惰性で下り、ブレーキをかけられるようになれば合格になる。
実はこれが出来る時点で、ほぼ二輪車は乗れるようになっている。
「このペダル無しの自転車でバランスをとれるようになれば、ほぼ技術は習得できてます」
「ほほう」
「ただ、いきなり漕ぎ出すのは怖いと思いますので、この補助輪付の自転車でちょこっと練習してもらってから、本番の補助輪無しに挑戦してもらう流れですね」
「なるほど、そういうことですか」
「まずは実演しますので、私と同じようにして練習してみてください」
ペダル無しの自転車にまたがって、足でけってちょこちょこ進み、緩やかな坂を惰性で下り、ゆったりと止まる。
なんてこと無い動作だけど、これが重要だ。
「こういう感じです。足でけって進むのに慣れたら、次は坂道を下ってブレーキです」
「いけそう」
「あしがすぐにつくっていうのは、あんしんかんあるわ」
「がんばんべ」
難しい事ではないので、皆さんもこれなら出来そうと思ってくれたようだ。
実際これでほとんどの子供が二時間か三時間もあれば自転車に乗れるようになるという。
上手くすれば、今日中に自転車に乗れるようになる人も出てくるはずだ。
それじゃさっそく、ヤナさんにやってもらおう。
「ではヤナさん、お願いします」
「やっぱりわたしなんですね……」
「ハナちゃんにいいとこ見せる良い機会ですよ?」
「おとうさん、がんばるです~!」
「やります!」
猫背のヤナさん――背筋がしぴっと伸びた。
やっぱりヤナさんもお父さん、可愛い我が子に良いとこ見せたいのである。
◇
「やったー! のれましたよ!」
「おとうさんすごいです~!」
「ヤナさんかっけえ!」
「のれちゃった!」
手こずるかと思っていたら、ヤナさんあっさり乗れちゃった。乗れちゃった。
あれ? 俺の予想ではもうちょっとドラマがあるはずだったんだけど……。
「タイシさん、これでいいんですよね?」
「おとうさんかっこいいです~」
「ハナ、ありがとー!」
軽快に自転車にのって戻ってきたヤナさんが確認してきた。
ハナちゃんにも褒められて、うれしさを隠せない様子だ。
ヤナさんまたもやでれでれのえびす顔になっている。
そして、実際問題ヤナさんの自転車操縦は問題が無い。
良く出来ましたという感じだ。
「ヤナさん良く出来ました。もう十分乗りこなせてますね」
「やった! これでいいんですね!」
「おとうさんがんばったです~!」
ヤナさんとハナちゃんがキャッキャしている。
こっちにも嬉しさが伝わってくるはしゃぎようだ。
しかし、エルフ達の中でも割と平均的というか、普通な感じのヤナさんがこれなら……他の人も大丈夫かな?
さっそく他の人にも順番で練習してもらおう。
「それでは他の人も試してみてください」
「わかりました」
「おれやりたい」
「わたしも」
そうして、皆練習を始めた。マッチョさんなどはいきなり乗れている。
……皆結構慣れているな。なんでだろ?
「皆さん結構こなれてますけど、一体どうしたのかと」
「あのキックボードがよかったんだとおもいますよ」
「たおれないようにするの、いっしょです~」
「あれでさんざんあそんだら、なんかわかったかんじ」
……なるほど。
キックボードでバランスを取って乗ることを練習していたから、自転車にも取っつきやすかったんだ。
ペダルを外した自転車でやるような練習を、もうすでにしていたのと同様だったんだな。
「とりあえず持ってきたキックボードですけど、意外なところで役立ちましたね」
「そうみたいです。あれがあれば、じてんしゃにもとっつきやすいですね」
キックボードで二輪車とはどういう乗り物かを理解できていた皆さんだった。
実際に放っておいても順調に自転車をマスターしていっている。
「おっとっと!」
「あ、こけた」
「みごとなうけみ」
しかし苦手な人も居るようで、マイスターがすっこけていた。
綺麗に受け身を取っているので無傷だけど、上手くいってないようだ。
「あら~」
「よっと」
「ありがとうね~」
腕グキさんも転びそうになって、マッチョさんに支えられている。
どうやら、マイスターと腕グキさんは自転車が苦手のようだ。
ただまあ……二人だって初めて乗ったにしては良い線行ってるから、練習を続ければいずれ乗れるようになるだろう。
この辺りは自主練になるかな?
さて、大人組はこれでいいとして、ハナちゃん達子供組はどうかな?
ユキちゃんにお任せしていたけど、乗れるようになったかな?
「はーい、良く出来ました!」
「おねえちゃんありがと~!」
「さて、次の子は誰かな?」
「わたしー!」
様子を見るために子供達が練習している方へと移動すると、ユキちゃんが子供達をなでくりしながら指導していた。
……髪の毛がボッサボサになっている子が、指導が終わった子だな……。
……まあそれは置いといて、どんな感じか聞いてみよう。
「ユキちゃん、子供達の様子はどう?」
「皆すぐに乗れてますね。バランス感覚抜群ですよ。ほら、ハナちゃんもすぐに乗れました」
ユキちゃんが指さす先には、自転車をもう乗りこなしているハナちゃんが居た。
やっぱりハナちゃんの髪の毛もボッサボサになっていた。物凄いなでくりされたようだ……。
そしてハナちゃんもこっちに気づいたのか、すいっと自転車を走らせてこちらにやってくる。
「タイシタイシ~、いきなりのれちゃったです~!」
危なげなくブレーキを使って俺の前に停車すると、喜びいっぱいの様子で報告してくれた。
いきなり乗れちゃったんだね。ここは褒めてあげよう!
「ハナちゃん乗れるようになったんだね。凄いね!」
「あい~! かんたんです~!」
もっと自転車に乗って居たいのか、うずうずしている様子だ。
俺も初めて自転車に乗れたときはそうだったから、気持ちは良く分かる。
もう少し乗らせてあげよう。
「それじゃハナちゃん、もう一週しておいで」
「わーい! いっしゅうしてくるです~!」
「あんまり遠くへ行っちゃだめだよー!」
「わかったです~!」
そうしてハナちゃんは自転車を漕ぎ出して、一週コースに入った。
風を切って走るハナちゃんの顔は、本当に楽しそうだ。
「タイシタイシ~、じてんしゃたのしいです~!」
「上手に乗れてるねー!」
「あい~!」
上機嫌で自転車を走らすハナちゃんを、しばらく眺めたのであった。
◇
二輪車講習は、マイスターと腕グキさんがあとちょっとという以外は、滞りなく終了した。
残る二人は、自主練するとのことだった。頑張って頂きたい。
とりあえず二輪車講習はこれで終わりにして、次に移ることにする。
そして引き続き平地で、今度はフクロオオカミ関連の検証を行う。
持ってきた馬具が使えるかどうかと、リアカーをけん引できるか等だね。
まずはフクロオオカミに鞍を付けてもらって、装着できるかと乗り心地を確認しよう。
「これより、フクロオオカミでたくさん輸送できるかな? 計画の検証をしたいと思います」
「かわいいけいかくめい」
「かな? ってところがてさぐりかんでてる」
「だんげんしないところがいい」
今適当につけた、全然自信が無い感丸出しの計画名がなにやらウケた。
ふわっとした言い方がエルフ達の琴線に触れたようだ。
……それはそれとして、説明を続けよう。
「フクロオオカミと馬具、それとリアカーの運用これが初めての実験になりますので、上手くいくかはよくわからないです」
「やってみるしか、ないですね」
「基本は変わらないと思いますので、そうそう変なことにはならないと思いますが……違う動物の手法がどこまで通用するかがわからないですね」
馬具だからね。ウマと全く生態の違うフクロオオカミに対して、どれほど有効かはやってみないと分からないところが多い。
「うまくいくといいな」
「ささ、やってみましょう」
「ばう」
元族長さんと平原のお父さんも、自分が使うことになるので積極的だ。
気のいいフクロオオカミたちも、四頭みんなが協力してくれている。
皆やる気十分なので、有り難く実験につきあってもらおう。
まずは、馬具の装着からだね。
「それじゃ、馬具を装着してみましょう」
「おてつだいします」
「ばう」
一頭のフクロオオカミがこっちにやって来たので、彼? 彼女? に装着してみることにする。
「え~っと……まず鞍を載せてからベルトで固定、っと」
「おおきさは……わりとあってますね」
「緩くも無く、キツくも無いですかね。いい感じです」
とりあえず鞍を乗っけて固定してみたけど、それなりに装着することはできたみたいだ。
フクロオオカミ的には付け心地はどうかな?
「どこか気持ち悪い所はないかな? 一か所ずつ触っていくから、気持ち悪い所で返事をしてね」
「ば~う!」
「わかったみたいです~」
ハナちゃんも通訳してくれて、フクロオオカミと意思疎通を取りながらさらに鞍を固定していく。
二、三か所キツイところがあったようで、ばうばうという返事のもと調整していく。
「よし、これで良いかな?」
「ばう~!」
「いいかんじみたいです~」
調整し終わって確認すると、フクロオオカミはご機嫌で返事をしてくれた。
よし、装着はこれでいいな。きっちり固定もできたから、乗っても大丈夫だろう。
「さて、これで装着はできました。今度は乗って確かめてみましょう」
「わたしがのるわ~」
「お願いします。何かあったら遠慮なくいってください」
「わかった~」
平原の娘ちゃんが試乗してくれるようで、自分の身長より高い位置にある鞍にひょいっと乗った。
うん、慣れてるな~。さすがはフクロオオカミと家族関係を築いているだけあるな。
「わあ~! のりごこちいい~」
「ばうばう」
娘ちゃんは危なげなくフクロオオカミに乗れており、鞍も鐙も安定しているように見える。
まずは第一段階クリアという感じかな?
「乗り心地は問題無いですか?」
「だいじょうぶ~」
「ば~う」
念のため聞いてみたけど、今のところ問題は無いみたいだ。
それじゃ次は、移動してもらおう。
「乗るのは問題ないみたいですので、次は軽く移動してみてください」
「わかった~。オオカミちゃん、あっちにあるいてね~」
「ばう」
娘ちゃんがフクロオオカミに指示を伝えると、トコトコと歩きはじめる。
乗っている娘ちゃんも上下に揺さぶられている気配が無い。
安定した歩きで、娘ちゃんをいたわって歩いているのが分かる。優しい動物だな。
そして鞍のずれもないみたいで、これも問題なしだ。
「タイシさん、そくどをあげてもいいかな~?」
「ばう~」
お? 娘ちゃんとフクロオオカミが増速を提案してきた。
彼ら的には、問題なしと判断したのかな?
ここはお任せしてみようか。
「問題なさそうですか? 使ってみた感じは」
「だいじょうぶ~。これならはしれるかな~」
走れるという感触を得たようだ。
――それじゃ、いっちょやってもらいましょう!
「それなら、危なくない範囲でお願いします」
「わかった~。それじゃいくよ~! おもいっきりはしってー!」
「ばうー!」
娘ちゃんが指示を出すと、フクロオオカミがじょじょに速度を上げ始めた。
最初は小走り、次に普通の走りになり、どんどん速度が上がっていく。
――結構速い! 原付くらいの速度がでている!
「はやいです~!」
「フクロオオカミて、あんなはやくはしれるんだ!」
「かっこいい!」
軽快にフクロオオカミを走らせる姿を見て、他の皆さん大はしゃぎだ。
「まだまだいけるよねー!」
「ばーう!」
トトトトっと原付並の速度で走るフクロオオカミは、まだまだ余裕そうだ。
息切れどころか、思いっきり走れて嬉しそうな感じすらしている。
何もフクロに入れず本気で走ったら、地球のウマくらいはいけてしまうのかも知れない
「そろそろもどるねー!」
「ばう!」
しばらく軽快に走っていたけど、確認は終わったのか戻ってくるようだ。
すぐさまトトトっとこっちに戻ってきて、娘ちゃんがフクロオオカミからひょいっと降りた。
早速感想を聞いてみよう。
「使い心地はどうですか?」
「あんていしてて、べんり~。これはいいものね~」
よし、フクロオオカミと馬具は相性が良いようだ。お墨付きをもらえた。
「これがあると、のっているのがらくちんかな~」
「どれどれ、わたしもためしてみましょう」
今度は平原のお父さんが試すようだ。
軽快にフクロオオカミを走らせる様子を見て、自分も試したくなったのかな?
ものすごいワクワクした目をしている……。
そして、その後ろにはお母さんも並んでいる。
うん、存分に試してみてください。良ければ採用決定ですから。
「おお! これはすわりがいいですね!」
「ばう~」
「つぎはわたしね」
ひょいっとフクロオオカミに乗ったお父さん、感触は上々のようだ。
そうして、三人はじっくりと馬具の使用感を確かめていった。
◇
「いやはや、ちゃんとしたどうぐをつかうと、あれほどかわるとはおもいませんでした」
「これはほしいわ~」
「ほかのなかまにも、すすめたいくらいです」
「ばう~」
平原の皆さんはニッコニコで馬具を撫でている。フクロオオカミも撫でてもらってご機嫌だ。
気に入ってもらえて良かった。採用決定で良いかな?
「それでは、この道具は採用決定ということで良いですか?」
「ええ。これはいいどうぐです」
「のりやすい~」
「これがあるなら、ちょうきょりもらくちんです」
それじゃ、馬具は採用決定ということで。
次はハーネスでリアカーを牽引する実験をしてみよう。
「鞍は問題ないみたいですので、次は牽引をしてみましょう」
「そうですね。まあ、にぐるまをひくのとかわらないので、もんだいないきがしますが」
「多分そうだと思います。フクロオオカミが気に入ってくれたらいいですね」
「ばう?」
自分の話題が出たのに反応したフクロオオカミは、すりすりと甘えてきた。
うん、ふわっふわだね。背中をなでなでしてあげよう。
「ばう~」
背中をなでられて大喜びのフクロオオカミにハーネスを装着し、リアカーと連結していく。
リアカーにも固定具を取り付けてあり、連結は簡単だ。数分で作業を終える。
「とりあえず連結はできましたね。さっそく試してみましょう」
「それでは、こんどはわたしがためしてみます」
平原のお父さんが操縦をしてくれるようで、またもやひょいっとフクロオオカミに乗った。
「それじゃ、やってみます。ゆっくりあるいてね」
「ばう~」
お父さんの指示に従ってフクロオオカミがゆったりと歩きはじめ、リアカーを引っ張っていく。
実験としてリアカーには百キログラムの荷物を載せてあるけど、特に重そうな様子もなく牽引できているみたいだな。
「いい感じに引けているように見えますけど、どうでしょうか?」
「ばうばう」
「らくちんだっていってます」
「お! いい感じですか?」
「いいかんじですね。もっといけそうですよ?」
お、もっといけそうか。それじゃ……俺と親父で乗ってみるか。
そうすればこのリアカーの積載限界重量の三百キログラムに近づく。
「親父、二人でちょっとリアカーに乗ってみよう」
「あいよ」
親父にお願いして、二人でどっこらしょとリアカーに乗り込んでみる。
さて、これで引けたら十分だな。
ハーネスの強度的にも、フクロオオカミの馬力的にも。
「それじゃ、牽引お願いします」
「ばう~」
平原のお父さんが指示を出すまでもなく、俺のお願いを聞いてフクロオオカミが動き出す。
三百キログラム近い重量物を乗せたリアカーが、ぐいぐいと牽引されていく。
フクロオオカミの足取りもふらつくこともなく、安定しているな。
歩く程度なら問題無いようだ。凄い力持ちだね。
それじゃ次は、小走り程度に速度を上げてもらおう。
これが可能ならば、輸送を一気に高速化できる。
「それでは次に、小走り位に速度を上げられますか?」
「ばう~ばう~」
「まかせてくれっていってますね」
平原のお父さんが通訳すると同時に、ぐぐいっと速度が上がる。
自転車で軽く流す程度の速度は余裕で出ている。
そしてハーネスもリアカーも問題なしだ。
これは……成功、と言って良いかな?
「これ、上手くいったと思うのですが、どうでしょう?」
「いいかんじですよ、これくらいなら、ながいことはしれますよ」
「ばうばう」
平原のお父さん的にも、フクロオオカミ的にも大丈夫そうだな。
よし、実験は成功だな。検証を終了しよう。
「それではこれで実験を終了します。ゆっくり止まって下さい」
「ば~う」
フクロオオカミが俺のお願いを聞いてくれて、ゆっくりと速度を落としていく。
重量物の慣性があるので、すぐには止まれない。
じわじわと速度を落としていき、二十メートルほど進んで停止した。
牽引はカーブとブレーキで一番気を遣うけど、これも問題なしだな。
まあ、荷車を牽引するのと基本は変わらないから、荷車が牽引できるなら当然できるわけで。
こう言うのになれているフクロオオカミなら、なんてこと無い技術なんだろう。
「上手くいきましたね」
「そうですね。リアカーはひっぱるのがらくちんでした」
「ばう」
平原のお父さん的にも、フクロオオカミ的にも問題無しのようだね。
よし、これでフクロオオカミの検証も何とかなった。
馬具もよし、リアカーもよしだ。
以上で導入予定の乗り物や道具は、大体検証が終わったかな?
概ね問題なし、導入可能だね。
「これで大体の検証は出来たかなと思います。今まで試した道具の導入は、問題ないでしょうか?」
「ええ。いままでより、ずいぶんらくちんになります」
「たくさんものがはこべる~」
「いどうもはやくなるわね。たびにでるのが、たのしみです」
平原の人達に確認してみたけど、問題無しだね。
それじゃあ、ひとまずこれでこっちの道具の検証は完了だ。
残すは元族長さんの荷車を修理するのみ。
これは改良は施して性能はあげるけど、基本機能は元のままだ。
修理と改良が成功すれば、ほぼ問題なく運用できるだろう。
よーし、見えてきた見えてきた。
エルフ世界のロジスティクス導入の第一歩となる、交通革命のとっかかりがこれで実行出来る。
皆の協力のおかげで、一歩が踏み出せるようになった。
「ばう」
「ばうばう」
「ば~う」
「ばう~ん」
おっと、皆の中にはフクロオオカミも含まれている。
彼らの協力なしには今回の検証も出来なかったので、お礼をしなきゃな。
飴玉をあげてみようか。甘い物大好きみたいだし。
「フクロオオカミの皆さん。頑張ってくれたお礼に、甘い物を提供しようと思いますがどうです?」
「ばう!?」
「ばばう~!」
「ば~うばう」
「ば~う!」
甘い物を上げるといったとたん、四頭のフクロオオカミが皆やってきた。
頭をすり寄せてきて、おねだりを始める。
「あや! タイシもみくちゃです~!」
「めっちゃなつかれてる」
「なかよしさんね~」
大柄な動物四頭に甘えられたら、当然もみくちゃだ。
ふわっふわに囲まれて、結構気持ちよい。
「み、皆元気だね……。それじゃ、この飴玉をあげるよ」
「ばう~!」
「ばばう~!」
「ば~う」
「ばうばう」
フクロオオカミたちが口を開けて飴をおねだりして来たので、その口にひょいひょいと飴玉を放りこんでいく。
「ば~う」
「ばう」
「ばう~ん」
「ばう~」
フクロオオカミ達は、飴玉を貰って大喜びのようだ。
甘くて美味しいのか、うっとりとした顔で飴を舐めている。
「うれしそうです~」
「あまいものがすきなんだな」
「おれのあめちゃんも、たべる?」
「ばう~」
飴玉を食べて喜ぶフクロオオカミを見て、他の皆さんも和んだ。
自分の飴玉をあげたりして、フクロオオカミと遊び始める。
フクロオオカミも遊んで貰って嬉しいのか、ご機嫌の様子で村の皆にすりすりしている。
すっかり皆、仲良しになったようだ。
こちらの言葉を理解して、力持ちで優しいフクロオオカミ。不思議な動物だ。
君たちみたいな存在が居てくれて、良かった。
もしかしたら君たちの頑張りが、エルフ達の世界に大きな幸をもたらすかも知れない。
ちょっくら、今後ともよろしくの挨拶をしておこう。
「フクロオオカミの皆さん、これからもよろしくね」
「ばう~」
「ばばう」
「ば~うばう」
「ばうばう」
四頭にめっちゃ顔を舐められた。