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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第一章  難民支援
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第七話 これから始めよう


「皆さん食べられましたか?」


 ヤナさんがようやく泣き止んだので、話しかけてみる。


「ええ、みんなたべおわったようで、だいぶおちつきました」

「なんとか一息つけたようで、良かったです」

「おなかもいっぱいになりまして、ちからがもどってきました。ありがとうございます」


 ペコペコするヤナさんだ。

 しんなりしていた耳も、心なしか張りが出てきた感じがする。

 ……あくまで、心なしかだが。

 まあ、落ち着いたようなので、これからの話でもするか。


「では、立ち話もなんですので、集会場で皆を集めて話をしましょうか」

「はい。おねがいします」

「では、私に付いてきてください」


 集会場を指さして歩き出すと、ゾロゾロとエルフ達が付いてくる。


 しばらく歩いて集会場に到着し、鍵を開けて皆を招待した。

 そして靴を脱いで建物に入ると、ヤナさんが靴を見て質問してきた。


「あの、それははきものですか?」

「そうですよ。山登り用の履物ですね」

「がんじょうそうですね」


 履物と聞いて、ほかのエルフ達は興味深々だ。

 靴下にも注目が集まっている。


「べんりそう」

「はきもののしたに、さらにはきものとか、すてき」

「おれのしっているはきものは、ただのくさのかたまりだったのだ……」


 草の塊? 草鞋(わらじ)みたいなものかな。

 履物自体は知っているようだから、常に裸足という事も無いんだろう。

 いずれ、草鞋でもなんでも自作してもらおうかな。

 今は履物を履いている人は居ないようで、足拭きマットで足を綺麗にしてもらってから畳の間に案内した。

 初めて建物に入ったエルフ達は興味深々で、あちこちキョロキョロしている。


「これはなんです?」


 ハナちゃんは興味深そうに畳を観察している。

 簡単に説明しておこう。


「これは畳って言ってね。草を編んで床を作っているんだ」

「いいしごとしてますです。すごうでです」


 渋い意見が出てきた。でもこれ機械織りだから。

 ハナちゃんだけでなく、ほかのエルフ達もわいわいやっていたが、とりあえず話を切り出そう。


「それで、森が無くなってしまったという話でしたか」

「そうなんです。こんなことがありまして……」


 ヤナさんは身振り手振りを交えながら、ここに来るまでの顛末を話し始めた。



 ◇



 儀式の話の所で、ハナちゃんの踊りの部分がやけにぼかされていたような気がしたけど……気のせいだろうか。

 ハナちゃん以外のエルフ達も目をそらしていたし、気になってしょうがない。

 ハナちゃん当人も、一番の見せ場が曖昧に説明されてしまい不満だったのか、踊って見せようとしてカナさんに止められていた。

 ……何故止めるのだろうか。


 ……それはともかく、洞窟を抜けてきたという話は、かつての高橋さんと同じだ。

 爺さんの時もそうだったと聞いた。

 この村に来るためには――洞窟を抜けるのが定石のようだ。


「それで、ここにでたはいいものの、みたこともないものばかりで……」


 そして、ヤナさんは話を続けたが、まあ見たこともない物ばかりというのは、そうなんだろうな。

 なんせここは彼らにとって――異世界だからね。


「まぁそうでしょうね」

「それでしばらくあるきまわっても、なにもわからない。ここはどこなんだろうってみんなではなしていたときにあのじどうしゃ、というやつがきてびっくりしてかくれたわけです」


 ちょうど来たところに俺がやってきた、もしくは、俺がやって来る瞬間に合わせてあっちの神様が時空のアレやコレをソレしたって感じなんだろうな。

 言葉も通じるようにしてあるしで面倒見が良い、良い神様じゃないか。


「聞いた感じだと、神様のお導きがいい感じになってますね」

「そうみたいですね。たすかりました」

(それほどでも~)


 ん? 今なんか聞こえた? 気のせいかな?

 まあいいか。とりあえず、ここはどういう場所なのかを説明しよう。


「ここは俺の家が所有する山の一つで、皆さんのようにたまにお客さんがやってきましてですね」

「わたしたちのように?」

「ええ、そのお客さんと交流したり、手助けしたりする所なんです」


 あなた方は異世界から来たんですよ、といっても理解できないだろうから、この程度の説明に留めておく。

 そのうち、ここが自分たちの居た世界とは別だと自然と理解できるだろうから、今はこれでいい。


「やまをもっているというのもすごいですが、おきゃくさんをてだすけするところ? とはどういうことですか?」


「凄いのはそちらの神様だと私は思いますが、それは置いておいて」

(それほどでも~)


 またなんか聞こえたけど、気にしないことにする。


「先祖代々、ここに来る人はお客さん、という感覚で応対して来てるんですよ」

「せんぞだいだいですか」

「ええ、割と何度も皆さんのような方が来てまして。それでそのお客さん達は割と困っている人達が多くてですね」

「こまっている……」


 というか困っていない人が来たという話は、聞いたことが無い。

 大体何かしら困っていて、こちらの世界に来てその問題を打開している。

 ここは――避難所のようなもの、なのかもしれないな……。


「そうです。それでほっとけなくてですね。せっかくだからなんとか生活できるくらいまで手助けをしよう、というのが代々やってきた仕事なんです」


 ヤナさんはそれを聞いて難しい顔をした。

 何か対価を要求されるのでは、と思っているのかもしれないな。


「むかしからですか」

「ええ、ですから今回が初めてではないので、遠慮することも無いですよ」

「しかし、たすけていただいても、わたしたちはいまのところなにもおかえしができません……」


 ヤナさんは申し訳なさそうな顔で言った。

 助けてもらったとして、お礼が出来ないから困ってるって感じなのかな?


「おれはかたもみがとくいだぜ」

「おれはあしもみがとくいだな」

「じゃあおれはあしつぼ」


 ムキムキマッチョのエルフが、手をわきわきさせながら自己主張してきた。

 うん、そのお礼は……遠慮しときます。

 というか、最後のエルフの「じゃあ」って。

 単なる対抗心で言っただけでは。

 おまけに他のエルフと違って、得意だとは一言も言ってないあたりが怖い。


「……ま、まあこっちからは特に要求することはありません。あるとしても作業のお手伝いをお願いする位ですね。手助けも俺ができる範囲くらいで、大したことはできませんし」

「でも、それではタイシさんがそんするだけなのでは」


 確かに金銭的な面では、損をするかもしれない。

 でも――どれほど金があっても得られない体験をすることができる。


「強いて言えば、皆さんとあれこれわいわいやるのが私にとっての報酬みたいなものです」

「そんなことで?」

「実の所、皆さんのような人たちと会話をすることさえ、こっちではものすごい貴重な体験なんです」

「うーん」


 いまいちピンと来ていないようだけど、まあ事実だ。

 エルフとラーメン食べるなんて体験を――いったいここ以外の何処でできるか、俺は知らない。


「皆さんとラーメン作って食べたのだって、あれ私にとってはすっごく楽しかったんですよ?」

「ほんとですか? すっっごく?」

「ええもう。ものすっっっごく」


 今思い出しても満面の笑顔になっちゃうよ。喜んで貰えたし。


「……そうなんですね」


 俺が楽しそうにしているのを感じ取ってくれたのか、何とか納得してもらえたようだ。

 エルフ達の表情も、俺に釣られて笑顔になっている。


「ハナもたのしかったです~」


 ハナちゃんも笑顔で答えてくれた。

 ……思えば、この子がきっかけを作ったようなものだ。

 ハナちゃんのお蔭で、衝突することなく他のエルフ達と交流を持てたのだから。


「ハナちゃんのお蔭だよ。ありがとう」


 思わずハナちゃんの頭を撫でてしまう。


「えへへ」


 ハナちゃんも嬉しそうだ。

 そんな様子を見ていたヤナさんも、疑問が解けたのか安心した様子で聞いてきた。


「それでは、ほんとうにてだすけいただける、と」

「それはもう。できる範囲でですがお手伝いしますよ」

「ありがたいことです。おねがいします」


 ヤナさん始めエルフ達がペコペコ頭を下げる。

 釣られてこっちも頭を下げてしまう。日本人の性だ。


 しばらくペコペコし合ったけど、ここらでエルフ達を労っておこう。

 それと、改めて協力を約束しよう。


「皆さんここまで良く頑張りました。これからも割と大変だと思いますが力になります。よろしくお願い致します」


 俺の言葉を聞いて、エルフ達もやる気が出たようだ。笑顔で返答が帰ってくる。


「こちらこそ」

「がんばんべ」

「なんとかしちゃる」

「みんなでなんとかできたら、すてきよね」

「よろしくおねがいします!」

「よろしくです~」


 全てはこれから。


 ――これから、始めよう。



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