表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三月の風

作者: はじめ

 三月のある夜。


 ぬるむ空気は幾億もの生物の吐いた蒸気に満ち満ちて、緑のもの等を沸きたたせます。一葉漏れなく沸きたたせます。沸いた緑もまた蒸気を吐きます。それら蒸気の混ぜ物は、私の吸気となって、湿った鼻腔の道すじを、ほんの一時のうちに吹き抜けます。

 冬の間、氷のにおいにすっかりしめられた鼻腔の回路の道々に、それら蒸気がふれますと、回路の道は、いっせいに、めいっぱい膨張し、膨張した回路の道の隅の隅の隅にまで、ぬるい蒸気が満ちてゆくのです。

 これらはほんの、零コンマ零三秒ほどの、一瞬とも言える時間のうちに起こることです。

 主要な感覚器官の回路において、このような急激な変化をいっぺんに起こされてしまっては、私などの、いち生物に、何かしらの対抗策をこうじられるわけなどないのです。

 しかし私もまた季節に依る生物であるため、ぬるみにさらわれ、回路の隅の隅の隅まで蹂躙されようとも、多くの生物がそうであるように、生物である限り、そうして沸きたたせられることに、さして抵抗する気持ちも無いのです。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ