~bottomup2~
その時ヤシンの端末から通話の連絡があった。ヤシンが
端末をとって,タラさんからの電話と確認した。
『はい..今どこですか?...ええ‼今帰るところ?
もう二時間以上経ってますよ。...分かりました。
皆に言っておきます。早く戻って来て下さいね』
タラさんとの通話の後,ヤシンはメンバーに向かって
『今タラさんから電話が来ました。今こちらに向かって
いるようです。後伝言ですが"帰って来るまでに零細企業
の設立までにいくらかかるかを纏めといて欲しい"だ
そうです。皆自分のデスクで仕事を始めて下さい』
するとダビドがメンバーを見渡して
『そういえばさ~新しくきた人いないよ?』
そう言われて残りのメンバーは周りを見渡してみたが確かに千尋の姿はなかった。
『どこにいったか分からないの?』
『さあ..誰か聞いていませんか?』
『そういえば..図書館に行くって言ってたな』
ミーシャがそう興味が無さそうに呟いた。
『うーん。千尋さんは余り私達と関わりたくないんで
しょうか?向こうの反応がいまいち悪いですね。私達から
関わった方がいいんでしょうか』
『何であいつだけ特別扱いしなきゃいけないんだ?
本来なら向こうからコミュニケーションを取りに来る
はずだろ』
『そもそもさ~あの人ってどんなことしたんだろうね』
『分かんない,見た目では余り悪事何か出来そうには
見えないけど。まあ外見だけじゃあね』
『もうすぐタラさんがこちらに着くと思うので向かいに
行きたいのですが,生憎私はこれから収益率をグラフ化する
仕事を来るまでにしておかないといけないので...誰か
行ける人はいませんか?』
『僕も周辺の3D統計マップを作らないと~』
『私も商品のデザインとか成分レシピを考えないと...』
それを聞いていたミーシャは場が悪そうに
『分かったよ!俺が行くよ。だからそんなにさあ
いかにもな"私達仕事あるので行けません"オーラ出すなよなぁ』
(図書館っていったらこの辺りじゃ区立図書館しか無いからな)
『じゃあ行ってくる』
結果的にはミーシャが千尋を迎えに行くことになった。
ミーシャが千尋を迎えに行く間、考えていた。
(なんなんだあいつは...全く...本来チームプレーなのに
どうしてこう...ああもう!さっさと済ませちまおう)
区立図書館に着くとパスを通して図書館の室内に入った。
(えーと。何処にいるんだ?日本語しゃべれないから
利用者に聞くわけにもいかねえし...案内のアンドロイドも
いま近くにいないしなあ)
暫く室内を歩き回っていると"科学"の本棚の前まで来た。
(此処にはいるのか?)
すると奥の座席の方で微かに聞き覚えのある声が聞こえた。
(あっちの方か)
声の聞こえている方に向かうと小さな声の内容が段々と
聞こえてきた。
「はぁはぁ...凄いよぉ♡...これがこうなって拡散したら
...そう♡...凄いなぁ♡」
その声は間違いなく千尋の声だった。
ミーシャが近づいていくが千尋は全く気付かずに読書に
没頭していた。ミーシャは千尋が何を言っているのかは
分からなかったが千尋の様子を見ていると,ミーシャは
千尋の異常な妖気を感じていた。
(なんだあれ...おいおいありゃあ"変態"どころじゃねえ
まさしく魔女じゃあねぇか!)
ミーシャは恐る恐る千尋の近くまで近づいていくと,千尋は
荒い吐息をしながらかなり興奮している様子だった。
そしてミーシャが千尋の真後ろまできたが,千尋は全く
気付かず相変わらず興奮した様子で楽しいのか時々
微笑みながら頬が赤くなっていた。
『お,おい...』
ミーシャは千尋に声を掛けてみたが今の千尋にはミーシャ
の声は聞こえていなかった。
『おい』
声をかけただけでは意味がないと感じたミーシャは千尋の
肩に触れた。その途端に、
「ふひあぁぁ!!」
少し触れただけで異様にびっくりしたようで,周りの利用者
にも聞こえる程の声をあげた。利用者が何が起きたのか
わからない中,見回りをしていた図書館のアンドロイドが
声に反応してこちらにやって来た。
《お客様,大きな声は周りの方々へのご迷惑になります》
「す...すみません...」
軽く注意を受けた後ようやく千尋はミーシャに気付いた。
『はぁ♡はぁ♡..,あれ?いたんですか?』
ミーシャは千尋の変わり様にかなり引いていた。何しろ
見た目や受け答えを聞いていた限りでは小動物系といった
感じで余り恐怖心を感じなかったのだが,今の千尋は若干
息が荒くなっており,頬を紅潮させていた為,ミーシャは
昔絵本で読んだ魔女の姿を思い出さずにはいられなかった。
『おい,戻るぞ。休憩時間は終わりだ』
ミーシャにそう言われた千尋は急にしょんぼりとして
素直に首を縦にふった。
戻る途中,ミーシャは何を見ていたのか聞いてみた。
『なあ,"変態"は一体何を読んであんなに興奮してたんだ?
あそこに興奮できる様な本なんてないだろ』
『...オパーリンの研究論文を読んでたんです。オパーリン
って凄いんですよ!殆ど独自にコアセルベートの考えを
思い付いたんですから。この考えは原始生命の考え方を
変えたんです。今では熱水噴出口からでる元素イオンが
周りの低温の海洋深層水中にブラウン運動拡散係数で
グラフ化させると...』
『あ-分かったよ!俺にそんなこと言われても専門外
なんだからわかるわけないだろ』
すると千尋は迷惑をかけたことに気付いたようで、
『あ,すいません。今度から気を付けます...』
とまたしおらしくなってしまった。
(正直こいつのことなめてたぜ...こいつは気持ち悪いな..
こりゃあマジもんの"変態"ってやつか。さすがボスだな。
こんな人間の裏の顔すら見ただけでわかるなんて.,.)
ミーシャの気持ちは千尋に対して軽蔑から恐怖心へと変わった。
午後3時15分 電子災害研究所
俊哉はみたび所長である那智の前に立っていた。しかし今回は俊哉の隣に人影があった。那智が俊哉に
「紹介するよ。今回事件を担当する公安局内事課捜査官の
和泉圭さんだ」
「こんにちは。今回のご協力感謝致します。私緊急対策室室長の
安達俊哉と言います。よろしくお願いいたします」
俊哉が捜査官に挨拶すると,
「挨拶の必要はありません。時間の無駄です」
と一蹴されてしまった。
「事件の詳細は頭に叩き込んで来ました。早速捜査に合流
したいのですが?」
圭は冷たい眼光を俊哉に向けた。
那智はその様子を眺めつつ,2人に対して警視庁に協力を仰いだ
事を伝えた。
「本当ですか。所長,有難うございます」
警視庁所属である科捜研の資料を使えることで捜査が進むと
素直に喜ぶ俊哉に対して,圭は
(ちっ...余計なことを...)
と、自らの捜査範囲に警視庁が入ってくることに不満だった。
「成る程,英断です。こうゆう事件は模倣犯が現れる前に
迅速に対処する必要があります。そうすれば警察の手を
煩わせることはないですからね」
しかし、心の中では
(絶対に警視庁に弱みを作ることはしない。あくまで警察庁
公安局のみで仕留める)
「じゃあそろそろ捜査に合流してもらおうか。緊急対策室は
1階にあるから」
「教えて頂き有難うございました。それでは失礼します」
そうして俊哉と圭が所長室を出ていった後,
(いよいよ本格的に犯人探しが始まる...犯人は一体
何が目的なんだ?)
那智は自身の部屋で1人考えていた。
俊哉と圭が緊急対策室に着くと,すでに捜査が始まっていた。
研究員はそれぞれの担当に別れている。俊哉が1人の研究員に
「"黒客万来“の流通ルートはどんな感じかな?」
「ああ,室長。ソフトウェアは圏外に本部を持っている
マフィアがロシアから基礎のソフトウェアを輸入した後,
自らの下請けに改造させていたものが一般的のようです。しかし
もともとは中国からきた様に見せかけた国内産のソフトウェアのようですね」
「誰が購入したかはわかるかい?」
「はい,リストを見てみますか?」
「お願い」
研究員が俊哉と圭に購入者リストを見せると,研究員のデバイス画
面に一覧が写し出された。
「ふん..,やっぱり公安がマークしてるマフィアが購入者の
大部分を占めてるみたいだね。和泉さんはどう思いますか?」
「やっぱり..ある程度は予想道理ですね。ところで...いくつか
全く関係ない所が購入してますね」
「ええ。何人かは個人名で買っていますね。CIPで買い物をした以上,偽名は使えないので。捜査官に聞きたいことがあるんですがこの名簿にある名前に見に覚えはありませんか?」
すると圭は
「見たことあるもなにもここにあるのがハッキングのもと犯罪者ばかりだから全員我々がマークしてます。しかしここ一週間は彼らは特に怪しい行動は報告されていません。この名簿だって記録がもう一年以上前が最新ですよ。いくらなんでも彼らがやったとは私は思いません。これは公安の人間として保証します」
「う-ん。そうですか...」
圭にきっぱりと言われてしまい研究員は頭を抱えてしまった。
次に二人はエンベロープの解析作業をしている女性研究員の所に向かった。
「どうだろう,順調かな?」
すると女性研究員は眠い眼を擦りながら答えた。どうやら仕事が
就業時間内に終わらずネットホストに引きこもりずっと仕事をし続けていたようにみえる。何しろサーバー同士が発する信号にも
複数のパターンがあり,それぞれに対応させるプログラムを組むにはそれなりの時間が掛かる。それを自動的に組んでくれるシステムが在ればいいのにと女性研究員は内心恨めしく思っているのだ。
「ふぁぁい。一応は...ただパターンがあまりにも多様化してるのでいっそのことファージのクロック信号そのものにエンベロープの予測パターンを組み込んだ方が早いと思ったので作業してるんですけどまだ終わらなくて..,」
俊哉はその様子を見て,
「そっか...信号そのものにね..確かにそっちの方が対策としては早いかも知れないね。大変そうだけど頑張ろう」
「はぁぁい..」
女性研究員は2人がいってしまった後も暫く作業を続けていたが
遂に限界を迎えたらしくデバイスの前に頭を沈めて夢の中に入ってしまった。
研究員達の様子を一通り見回った後,2人は室内の真ん中にある机に座ってこれからの捜査方針を話し合っていた。俊哉が
「どうでしょう?やはり警視庁の資料もあった方が私達としては
捜査がすすめやすいんです。今のところ何処から攻撃されたかも分かってませんから。それでもあなた方からしたらやはり警視庁との協力関係は煩わしいですか?」
「全く気に成らないと言えば嘘になりますね。それでもこの事件を解決するのが先ですし,余りこだわらない様にはしてます」
(いざと言うときはこの事件の責任はあなた方に押し付けさせて貰うけどね。警視庁にはこのまま国民のサンドバッグに徹して貰わないと困る)
圭がそんなことを考えていると,
「捜査官。これは一応推測する他ないのですが今回の事件を起こしたのはどんな組織だと思いますか?あなたにとっての仮定で構いません」
俊哉の言葉を聞いて圭はその言葉に違和感を覚えた。
「どんな組織って...まだ組織的犯罪か個人的犯罪かの特定も出来てないじゃないですか。どうして"組織"なんて言葉を用いたんですか?」
「いえ...あくまでこれは個人的な妄想でしかないのですが...
この攻撃が行われる数ヶ月前から圏内周辺部のクラッキングが発生していたんです」
「それは知っています。しかしそれだけでは組織が行ったとは断言できないでしょう?」
「勿論です。しかし今回の攻撃は攻撃方法として正し過ぎるんです。攻撃に最適な時間に正確に攻撃し,恐らくはクラッキングが行われたwifiスポットを使って最適なルートを確保しつつ,攻撃が行われる前にはマークしていなかったエンベロープでインターネットの免疫システムを正確に騙した。これだけ下準備をした上で個人デバイスの個人情報漏れにも対応している。これを個人で行うには相当のリソースが費やされるはずです」
俊哉の話した内容は公安がマークできていない犯罪組織が現に存在している可能性があるという社会人にとっては都市伝説レベルの話だった。しかし圭はその話を否定しなかった。それは圭自身が警察と公安が協力をお互い拒みあっている為に犯罪組織の調査が思うように進まないことを実感していたからだ。
「成る程,それではどこの犯罪組織が関わっていると言う可能性は
どのくらいありますか?」
「さあ...そこまでは...もし組織的犯罪であったとしてもそもそも別の組織が関わっているかそれともその組織が単独で行われているかまでは分かりません。僕よりむしろ捜査官の方がそういう
犯罪組織の協力関係とかは詳しいんじゃないですか?」
そう言われると圭は笑い出して
「ハハハ...そうですね。失礼しました。...じゃあ当分は組織による犯罪だと仮定した上で捜査方針を定めるんですね?」
「僕自身はそういう考えです。後は所長や僕の研究室の皆と意見を出しあってこれからの捜査を進めていく考えです」
「分かりました。私も戻って課長に報告して意見を聞いてみます」
そして2人は暫くの間,今後の行動計画を立てていた。
何とか7話までを書くことが出来ました‼
今回は千尋のもうひとつの顔を垣間見ることが出来ました。
ぶっちゃけどうですか?私は千尋の様な人間はいくら美人で可愛くてもお断りしますね()
いやぁ何か生理的に無料だなあ...