夢と現実の境界線 宇宙編
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また、作品中で二人の名前が出てきていませんが、主人公の名前は清隆で、女性の名前はさよりです。
――正夢。いや、予知夢とでも言うのか。俺は昔から、その類のことが良く起きる。もちろん普通の夢も見るが予知夢になる夢の前兆は簡単だ。なんども同じ夢を見る。
俺は、ここ最近も予知夢の前兆である同じ夢を見始めていた。
なんで、俺はこんなことが良く起きるのか全然分からなかった。以前に一度だけ友達に話してみたが笑い話やら、変な奴扱いされるだけで、信じるわけもなくなんの得にもならないので、他の人には話すのをやめた。それでもやはり良く予知夢を見る俺の身体はきっと特別なんだと思うようになっていた。そして――。
きっとなにか意味があるのだと。
もちろんそうは思っても、その意味が分かるはずがなく、ましてや所詮夢なので深く考えることもなかった。
今回の同じ夢は、夜のかなり遅い時間の電車に乗っている夢。恐らく最終電車だろう。内容はなんてことはない普通に電車に乗って、ガラガラの席の一番隅に座り、電車に揺られている自分。その対角線にいる一人の女性。名前なんか知るわけもないが、その車両にはその二人だけが乗っている。しかし、最初はなにもないのだが、突然電車は大きく揺れ、窓ガラスは割れ、電気が消えるのだ。そこで夢は終わる。
考えると怖いことだが、恐らく電車の事故ではないだろうか。脱線でもして、電車は横転、窓ガラスは割れ、電気が消える。恐らく乗っていたら死んでしまう。ほんとに恐ろしいことだ。でも悪夢のような夢の内容でもはっきり言って平気だ。
以前にも似たようなことがあった。車に轢かれる夢だが、僕はこの予知夢の利点に気が付いた。簡単なことだ。その場面を覚えておけばいい。そうすれば夢での出来事は簡単に回避できる。車に轢かれることもその利点に気が付いたおかげで回避できた。
今回の場合もそうだ。電車が事故を起こすならその電車に乗らなければいいだけのこと。それで簡単に回避出来る。
つまり今俺の前にある電車に乗らなければいい。
時間は深夜0時30分。最終電車。一番前の車両には女性が一人だけ乗っている。間違いなくこの電車だと確信した僕は、電車に乗るのをやめ、タクシーで帰るため駅から出ようとした。
でも、そこであることに気が付いた。俺は自分で予知夢を見ていて、何度も体験しているからこの夢は絶対に起きる自信がある。そして、これを乗り越えることで俺は死ぬこともなく、いつものように普通の生活に戻れるだろう。
――でも。
あの女性は、そんなことも知らない。つまりこの電車に乗ることで確実に死ぬことを意味している。
俺は、自分の腕時計を見た。発車まで少しだけ時間がある。俺は、再び電車の場所へと戻り、一番前の車両へと乗り込むと、一人座っている女性に声をかけた。
「あのー、すいません」
「はい?」
携帯を操作していた女性は、俺の存在に気が付くと手を止め、俺のほうを見る。
「実は、この電車はいまから事故を起こすので降りたほうがいいですよ」
「は?」
女性は不思議そうな顔をしている。無理もない。いきなり知らない男にそんなことを言われたのだ誰でも不思議に思い、意味が分からない顔をする。でも一から説明している時間もない。まもなく電車は発車する。
「とにかく降りてください。詳しくは、後で説明します」
そう言うと、僕は女性の腕を掴んだ。その瞬間、女性は驚いたのか。少し悲鳴を上げて、俺を睨みつけた。
「ちょっと、離して下さい! 車掌さん呼びますよ!」
「いや、ごめんなさい。でもとにかく早く降りないとまずいんですって。ほんとに事故が起きるんです。信じてください」
僕は女性の叫びに手を離したが、それでもあきらめずに女性に頼みこんだ。このままではこの人は死んでいまうからだ。
「いいかげんにしてください。人呼びますよ」
女性は明らかに俺を不審者扱いしている。もしこの場が満員電車なら誰もが、俺のほうを見てヒソヒソ噂立てして俺を不審者と見るだろう。でもここで一人残して電車を降りれば俺はこの女性を見殺しにしたことになる。それはいくらなんでも後味が悪いというものだ。
でも女性は信じてはいない。むしろ変質者レベルの扱いだ。でもいざとなれば力づくでも降ろすしかないと考えていた。今は疑われていても実際に電車事故が起きれば女性も信じるだろう。そんなことを考えていると、電車の中に機械音が鳴り響いた。それはドアが閉まる合図と、電車のドアが閉まる合図だった。
電車は俺と、女性を乗せたまま発車した。俺はやってしまった。
「うわっ! 発車しちゃった。やばい」
女性は、相変わらず俺を睨みつけている。俺はそんな女性の顔を見るとすぐに目線を逸らし、電車の後ろを見た。二両編成のこの電車は、すぐに後ろを確認できた。後ろを見た理由は車掌を呼ぶためだ。しかし、田舎の二両の最終電車には車掌はおらず、運転手だけがいる。
それを確認した俺は女性から離れ、運転手のいる運転席のドアを必死に叩く。しかし、運転手は反応しない。たまにこういう輩がいるのだろうか。仕事の邪魔をするなとでも言わんばかりに無視する。
そして、電車はぐんぐんスピードを上げる。いつもこの路線に乗っている俺は記憶を探っていた。確かもう少し行ったところにはカーブがあった。それも少し下り坂になっている状態でのカーブだ。電車が事故を起こすならそこしかない。運転手はそんなことを知るよしもなく運転している。
俺は、自分の予知夢に絶対の自信を持っている。それは過去に何度も起きているから、たとえ他の人がそれを信じなくても俺は信じる。今回も例外ではないだろう。俺は深夜の最終電車に乗り、俺のいる場所の対角線上には女性が座っている。
そして俺が予知夢を見るのは、自分の命を守るためだと思っている。
でも、本当は俺が何度も同じ夢を繰り返すのも、そして過去の経験からなんの疑いもなく予知夢が実際に起きることだと分かるのも全てが、この場所に集中しているなら俺がやるべきことは一つしかない。
俺は再び、女性へと近づく。女性は俺が近づいたことで俺を再び睨みつけた。
もうすぐカーブへと差し掛かる。もうすぐ大事故が起きるだろう。覚悟をしなければならない。俺の目の前には見ず知らずの俺を変質者だと決め付けている女性がいる。夢の中で見た光景は凄まじかった。あれだけの事故ならまず人間は生きることはできないだろう。だから、どうせ死ぬならやるしかない。
俺は、睨みつけている女性の目を見た。そして、覚悟を決めると俺は女性に抱きついた。当然それに驚いた女性は、思いっきり叫びながら暴れる。それでも俺は女性に抱きついたまま決して離さない。離すわけにはいかない。
その瞬間、電車は大きく揺れた。そして電車の窓ガラスは全て割れ、車内の電気系統はすべて消えた。消えた後も、電車は激しく揺れる。俺は、その勢いで電車の車内で激しく揺られいろいろなところに討ちつけられる。それでも俺は決して女性を離そうとはしなかった。しばらくして、電車はついに止まった。
電車の中は悲惨だ。電気は消え窓ガラスは全て割れ、いろいろなところがひしゃげて形をなしていない。なにか爆発でも起きたような状態だ。それでも俺は生きていた。
俺はすぐに抱きしめていた女性を見た。女性は傷を負い意識を失ってはいるものの生きていた。ホッとした俺は肩をなで降ろし、その場で気を失った。
次に俺が目が覚めたのは病院のベッドの上だった。俺は三日も気を失っていたらしい。身体もいろいろな所が折れていて退院するまでは時間がかかるようだ。これは俺が後から聞いた話なのだが、電車はスピードの出すぎによる脱線で、一番前の車両は衝撃で切り離され回転しながら、線路の横の立体駐車場にぶつかったらしい。その後も立体駐車場の柱を突き破りながらようやく電車が止まったのは立体駐車場の一番奥の壁に当たってからだった。それは線路から実に300メートルも飛ばされていて、生きてること事態が奇跡に近いものだった。
俺の見舞いに来てくれる人の中に、一人女性がいる。あの時電車に乗っていた女性だ。彼女は、軽傷で済んだため三日で退院。その後からほぼ毎日俺の見舞いに来てくれている。医者はいつも言う。あの状態で二人が助かったのは、俺が彼女に抱きついたことにより衝撃が分散されたからだと。
今にして思えば俺が予知夢を見ることに意味があるなら、それは彼女を助けるためだったのかも知れない。そのために何度も同じ夢を見てシュミレーションを重ねることが出来、覚悟も出来た。だってもしあの時、俺が彼女を見殺しにしていれば、今見ている内容の予知夢の前兆である同じ夢を何度も見ることなんてなかったんだから。
だからこの夢の内容は必ず起こることを意味している。
――その夢の内容は、彼女と結婚する夢だ。
了
読んでいただきありがとうございます。今回のはなかなか話が出来ず難しかったです。時間はかかりましたが頑張りました。感想などいただけると幸いです。