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挫折する

作者: 紺乃緋霞
掲載日:2026/03/12

それまでに書きたいと思ったことは何度かあった。

元々色んなジャンルのアニメや本を見てきて、なんとなくの物語のお決まりは知っている。

書こうと思えばどんな物語だって書けると思っていた。


1つの作品に人生で初めて熱烈にハマった。

なんて事ない普通の話だけど、何故か僕はそれに強烈に感情を動かされた。

そして思った。

この作品のような話が書きたい、と。

それは、人生で初めての挫折の始まりだった。




僕は大抵のことなら、ある程度できた。

勉強にスポーツに習い事。


でもコミュニケーションだけはどうしても出来なかった。

興味や話題が合わないのだ。

皆が盛り上がっている話題が、僕には全然わからない。

どうしようもないのでそこは諦めた。


だから僕はずっとひとりぼっち。

そのせいか、学校を卒業してからまともに働けたことがない。

今はニートをさせてもらっている。


アニメや漫画が好きなので、日がな1日中漫画を読んでいる。

その日も僕は漫画を読んでいた。

最初はアニメで見ていた作品で、続きが気になって漫画を買った。

そして僕は見事にその作品にハマった。


「な、なんだこれ...!面白い...!」


今まで多くの作品を好きになってきた。

でもこれは違った。

ページをめくる手が止まらない。


登場人物の心理描写が丁寧に描かれていて、僕は初めて泣きそうになるほどその登場人物が好きになった。

そして僕は思い立った。


「そうだ小説を書こう」


何故小説なのか。

漫画でもいいが、僕は絵がかけない。

コマ割りという物もある。

そういう勉強もしなければならないのなら、文字を打つだけの小説の方がコスパが良いのだ。

大丈夫だ。


僕はこれまでに無数のアニメや漫画を見てきて、物語のお決まりは知っている。

どういう展開が面白くて、どういう流れがつまらないのか。


早速僕は書き始めた。

結果は散々。

いきなり計画もなく書いたので話があらぬ方向に向かっていったりしてダメだった。


「やっぱりプロットというものを作らないとダメなのか」


そして僕はプロットを作った。

数ヶ月かけて、物語をちょこちょこ書きながら。


我ながらいい出来だった。

登場人物同士の複雑な関係性や、伏線等上手く織り込めたと思う。

お世辞だとは分かっているが、定期的に家に来る人にも褒められた。


そして小説投稿サイトにそれを投稿してみた。

結果は散々。

いや、当然のことか。

投稿サイトで新人の作品は読まれにくいように思う。

みんな大物の作品を読みにいくのだから。

仕方ないので色々な作品を書きながら、気長に誰かの目に留まることを期待することにした。


大丈夫だ。

僕には才能がある。

それに物書きは楽しい。

将来新人賞に応募して、書籍化されたらどうしよう。

楽しみだな。

僕の人生に無くてはならない物になった。

なってしまった。


そんなある日。

僕は同人誌を漁っていた。

プロではない、素人の作品だが、文章の拙さに目を瞑れば面白いものだ。

普通に上手い人もいる。


そこで見つけた。

文章が上手くて、登場人物の心理描写がとてつもなく上手い人。

僕は感銘を受けたのと同時に、絶望した。


僕には真似できない。

この人の登場人物の細かい心理描写は、とてもじゃないが真似できない。


いや、1度やってみないと分からない。

僕はその作品を何度も読み返した。

どうしてこんなに面白いんだろう。

登場人物が何を考えているのか、全部わかる。

怒りも、悲しみも、躊躇いも、全部。

僕は自分のメモ帳を開いた。

同じことをやってみようと思ったのだ。

登場人物の気持ちを書けばいい。

それだけのはずだ。

僕はキーボードを叩いた。


『彼は悲しかった』


違う。

これじゃない。


『胸が締め付けられるようだった』


違う。

全然違う。

あの人の文章は、こんなものじゃない。

僕は画面を見つめたまま動けなくなった。

さっきまで面白かった物語が、急にただの文字の羅列に見えた。

どう書けばいいのか、わからない。

いや。

最初からわかっていなかったんだ。


そして僕は、その人との力量差を自覚させられて、挫折した。

僕には無理だったんだ。

自惚れていた自分を恥じた。

何が才能だ。

ぽっと出の素人が何を口走っていたのか。

世の中にはこんなに才能のある人がいるじゃないか。


もう辞めよう。

物書きなんて僕がなっても仕方ない。

こんなこと続けても何にもならないのに。

それなのに、書きたくて仕方ない。

挫折しているのにこの手は止まってくれない。

しょうもないものしか書けないくせに。

書き上げた物を読んでは涙が出てくる。

書きたくないのに、書きたい。

どうして僕は物書きに執着しているんだ。


僕はわけも分からないまま、キーボードにまた手を置いた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


少しでも「面白い」と思ったら、下の星やブックマークを押していただけると励みになります。


どうかよろしくお願いします。

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