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私が婚約者とか、何かのマチガイです!  作者: 高山千穂


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2/3

 13歳になって学校の中等部に入学した時、レジーの婚約者として私の存在が知られると、私に対して難癖をつけて来た人たちがいた。私より先にレジーとお見合いして、断られたお嬢様方だ。

 貴族の婚約は政略的な意味合いが強く、一族の利益の為、本人の意思など関係なく取り決められることも少なくない。レジーが気に入ったという理由だけで婚約を決めたシャーネット公爵家の方針は、かなり珍しいのだ。だから私が政略による婚約者であり、政略なら自分の方に利があるから挿げ替えも可能だと思っているのだ。


 学校でレジーが私をエスコートしてくれていると、あからさまに値踏みするような視線を向けられた。中には私とレジーの顔を見比べた後、嘲笑する人もいた。



「シャーネット公爵家の領地の鉱山では良質な宝石が搬出されるとか?私の家は商会を営んでおります。シャーネット公爵家の商会と業務提携を結べば、更に商会が発展すると思います。その伯爵令嬢の家より、私の家とつながりを深くした方がよろしいかと思います。」


「私の領地ではアクセサリーの工房を多数抱えております。シャーネット公爵家の鉱山より搬出された宝石を美しく細工してくれる細工師がおります。我が家とつながりを深めるべきでは……。」



 などなど、様々なアピールをしてレジーの目を覚させようとする令嬢の多いこと多いこと。レジーがエスコートしている私がいる前で、わざわざアピールをしてくる。誰しもが家の財力で化粧もアクセサリーもこだわり美しく飾り立て、煌びやかで華麗だ。

 私もシャーネット公爵家が運営する商会の化粧品を使って、その商会のアクセサリーを身に着けて飾り立ててはいるけど、如何せん、ゲームの攻略相手となるほどの美少年の隣に立ってしまえば、誰だってモブ中のモブに成り下がる。自分のアピールに余念がない令嬢達に対して、レジーは機嫌の悪さを隠そうとせず、舌打ちした。



「がたがたうるっせぇな……。お見合いの席で俺にビビって震えてただけの癖に、何がつながりを深めるべきだよ。今さら遅えよ!」



 そりゃ、これだけの美少年に不機嫌な態度を取られたら、純粋培養で上位貴族ってだけでちやほやされてきたお嬢さんなら、怖くて何もできないと思う。

 現に今も令嬢達は、悪態をついて睨みつけるレジーの剣幕にひっと声を上げて少し距離を置き、先ほどまで別々にアピールしたあっていた癖にくっつきあって小さくなり、ぶるぶると震えている。

 私は前世に成人女性だった記憶があるから、小さな子どもが不機嫌そうにしてたくらいで怖いと思うことはないけど。私の存在を無視してアピールしてきた令嬢達を睨みつけるレジーの頬を両手で挟むと、ぐいっと自分の方に向けた。



「だめよ、そんなこと言っちゃ。ほら、そこの侯爵令嬢をご覧なさい。あの頭につけているリボンはシャーネット商会の新作よ。あちらの伯爵令嬢の耳のイヤリングも、シャーネット商会が先月売り出したもの。相手は貴方が今後引き継ぐことになる商会のお客様なの。顧客なのよ。相手に苦手意識があったとしても、そう言うのもちゃと考えて交流しないとだめなの。それが社交よ。」



 令嬢達はシャーネット商会の商品をきちんと購入してアピールしていた。商会の商品管理しているのは公爵夫人の方なのでレジー自身は気づいてなかったみたいだけど、私は公爵夫人に商品カタログを見せてもらっていたから気づいていた。

 流石にイヤリングからは遠目には確認できないけれど、侯爵令嬢が身につけているリボンにはブランドロゴがついているからわかりやすい。


 私がめっ!と人さし指を立ててレジーを注意すると、レジーは私に対してもぶすっとした顔をするけど、怒ってどこかに行ってしまうこともなく、私の後ろに立ってそっぽを向いた。仕方なく、私が彼女達に深々と頭を下げる。



「レジーが申し訳ございません。代わりに謝罪いたします。シャーネット商会の扱う商品は素晴らしい物ばかりです。今後とも益々のお引き立てを賜りますよう、心よりお願い申し上げます。」



 レジーの婚約者で未来の公爵夫人としては、間違った対応なのかもしれない。それでも目の前の彼らは商品を買ったお客様だ。ヒロインが現れてレジーが攻略されてしまったら、私の婚約者としての立場は危うくなるかもしれない。ならばそんな危うい土台に頼ってばかりいられない。


 私の実家の糸も商会で使ってくれている。レジーの態度で商品が売れなくなって、シャーネット商会(ほんしゃ)が立ち行かなくなって、ローナン伯爵家(したうけ)も総崩れなんてことになっては困るのだ。つまりこれはシャーネット商会の為の謝罪ではなくて、裏を返せば実家の為の謝罪なのだ。


 彼女達は私の謝罪に毒気が抜かれたようで、困ったように顔を見合わせた。その隙をついてレジーが無言で私の腕を引くので、そのままその場を離れた。そんなことが何度も続いたところ、次第にレジーに自分をアピールする令嬢が減っていった。


 裏ではレジーが公爵夫妻に訴えて各家に苦情を言ってやめさせるよう手配していたみたいで、そのおかげだと思うけど。

 そんな裏事情を知らない人たちからは、レジーが悪い態度をとるたびに代わりに前に出て事を収める姿ばかりが目についてたみたいで。

 この世界では私も同じ年齢なのに、レジーのお母さんなんてあだ名がついてしまっていた。解せぬ。

 シャーネット商会の商品も、何故か少し売り上げがあがったらしい。

 キゾクヨクワカラナイ。



 中等部に入学して長い年月が過ぎ去った。

 3度目の冬を迎え、まもなく春が近づきつつある。学校の庭の木々の枝も未だ寒々しく茶色い素肌を見せたままだが、よくよく見れば小さな木の芽が膨らみ、まもなく綻ばんとしているのかわかる。

 私がレジーにエスコートされて学校に登校し、自分のクラスに足を踏み入れると、同じクラスで授業を受けている同級生に声をかけられた。



「シャーネット様、アビゲイル様、おはようございます。もしやアビゲイル様が身につけていらっしゃるネックレスはシャーネット商会の新商品ですか?もしかしてそちらの髪飾りも……?」


「あら新商品なら私も見せていただきたいですわ。」


「それでしたらシャーネット公爵夫人より商会のカタログを預かっておりますので、後ほどご覧になられますか?」


「まぁ!」



 私の身につけている装飾品は、すべてシャーネット商会の物。中等部3年間で私がレジーの婚約者であるとこは深く浸透し、もはや私自身がシャーネット商会の商品を身につけることで広告塔になりつつあった。レジーの存在を気にしつつも、私の提案に周囲に集まりつつあった数人の女生徒達の頬がぱっと明るくなり、歓声があがる。

 そんな周囲の様子を見て、レジーはエスコートしていた私の腕を軽く引いて私の注意を引いた。



「じゃあ、俺は自分のクラス行くね。またランチタイムに迎えに来るから。」



 レジーはクラスが違うのに、わざわざ私のクラスまでエスコートしてくれている。レジーは国宝級の笑顔でそう言うと、私の赤茶の髪を一筋すくい上げて口づけした。途端、私の心臓が跳ね上がりヒュッと妙な息が漏れ、周囲の人たちからは先ほどとは違うキャアッと黄色い声があがる。

 私の変な反応にレジーがニヤニヤ笑うのがわかったので、軽く二の腕あたりをつねっておいた。



「みんな、アビーのこと、よろしくね。」



 レジーは私の周囲にいた令嬢達にも微笑みを浮かべて手を振ると、クラスから出ていった。その行動にまたもや黄色い悲鳴があがる。

 レジーは随分と丸くなったと思う。ずっと私以外の人間に対してきつくあたる姿しか見なかったのに、先ほどのような笑顔を浮かべるようになっている。夜会でも私をエスコートしながら笑顔で振る舞い、評判は上々。

 貴族としては当たり前の態度なんだけれど、それが寂しいような、少し胸の奥が苦しいような気持ちになる。自分以外の人に懐かない猫が、他の人にも懐くようになったのを見せられているような気分だった。

 声も若く高めだったのに、成長して声変わりし、低く甘く響く声になり、その声を耳元で聞くたびに胸がしめつけられる。身長も私も同じくらいの高さだったのに、いつのまにか見下される身長差になっている。


 婚約者として一緒にいることが当たり前になり離れがたい気持ちが強くなっている。それでも高等部にあがってレジーがヒロインに攻略されたら……それを思うと憂鬱な気持ちにもなる。

 レジーがヒロインを選んだら、私はどうすればいいんだろうか。最推しのレジーの幸せを想って、その隣の位置をすんなりと譲ることはできるのだろうか。

 明日から春休みになる。

 ヒロインが編入してくる高等部入学まで、あと一ヶ月。覚悟を決めるまで、あまり時間がない

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