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第6話:電法省の事業仕分けと公共財の適正化に関する中間報告

年末ですね

みなさん年末してますか

今日は官公庁のお掃除です

年度が変わる前に片付けないといけませんよね

【シーン:電法省・第一会議室】

薄々感じていたのだ。終わりが近いことを。

大臣が不在のまま、予算管理を情動省に頼らざるを得ない歪な構造。ルーカスがどれだけ効率化を訴えても、情動省の文官たちは「あちらの感情が優先だ」と予算を削り、軍事省は「国防の資材だ」と人員をむしり取っていく。

電法省は、最初から二大省庁に食い荒らされるための、ただの「備蓄庫」に過ぎなかったのだ。


交渉、マニュアルの修正、フローの見直し。

ルーカスが一人でそれらを背負い、純利益2%を100年維持するという死守ラインを、血を吐く思いで守り抜いてきた。けれど、仕事が楽になった実感はなく、誰に感謝されるわけでもない。


(……見慣れたはずの場所なのに。なぜ、こんなに知らない場所のようだろう)


彼が走り回って作成したあの膨大なフローやマニュアルは、すでに「軍事省への移管」という名目で、跡形もなく書き換えられていくのだ。

自分が必死に守り抜いてきた「電法省」という器は、すでに中身を抜かれた抜け殻になって死んでいく。


「……結局、私一人が踊らされていただけか」

手元の資料に目を落とす。


【電法省の資産区分、及び執行官個体U-001の共同財指定に関する確定会議】


前執行官は、ただ自分の研究を邪魔されないための「器」として、この省を、そしてルーカスを使い捨てていただけなのだ。


年末の凍てつく空気の中、メインサーバーが発する排熱だけが不気味に唸っている。

ルーカスは、アレスの大きな手によって背中を押され、かつて自分が主として座っていた円卓の会議室へ足を踏み入れた。


ざわ、と会議場がわく。


視線がルーカスとアレスに向く。

何名かは顔を赤らめ、何名かは恐怖を顔に浮かべた。

おおよその意味を察して、ルーカスは暗澹たる表情になる。


「……顔色が悪いな。朝の中和が足りなかったか?」

アレスの低い囁きが、凍てつく会議室に響いた。

ルーカスは、自分の椅子がアレスの「真横」に、まるで大型犬の待機場所のように密着して配置されているのを見て、奥歯を噛み締めた。

首輪(軍事省指定装飾)の革が、歩くたびに微かに軋む。


今朝5時に叩き起こされ、アレスの[検閲済]を終えたばかりのレシーバーが、室内の敵意に満ちた魔力波動を過剰に拾い上げ、脳の奥を直接掻き回す。


会議が始まった。

アレスの秘書官ガウェインが立ち上がる。


「お集まりの皆様、配布した記憶媒体をご覧ください。このたびは電法省が事業仕分けを受けるにあたっての会議を始めさせていただきます。

主としましては電法省の資産配分、およびエルミタージュ公爵様の資産価値減少を防ぐための管理名:執行官個体U-001を共同財指定とするために行われます」

ルーカスは手を白くなるほど握りしめた。


「個体U-001がこれまで主張してきた『2%の純利益』は、資産価値の維持としては不十分です。今後はその『身体機能』を直接、軍事省の魔力触媒として転用することで、400%の効率向上を見込みます」


「……緊張しているな、ルーカス。これを飲め」

アレスの手元から差し出されたのは黄色い瓶だった。


「頭が冴えるぞ」


拒否権など最初から存在しない。ルーカスは震える指でそれを受け取り、一気に喉へ流し込んだ。

昨日の劇薬のような、脳を直接焼くような熱さはない。むしろ、冷ややかなまでの静謐さが全身を巡る。


ルーカスはもはや、毒を盛られることへの恐怖よりも、「早くこの茶番を終わらせてほしい」という諦めが勝っていた。


(……薄い?)

そう思ったのは、最初の一分だけだった。

この薬は、意識を奪わない。むしろ、「外界の刺激に対する解像度」を極限まで引き上げる代物だった。


十名の部下たちが放つ冷徹な魔力波動、会議室の空調の音、そして隣に座るアレスの体温。それらすべてが、針のようにルーカスの皮膚を突き刺す。

理性が、鏡面のように研ぎ澄まされる。

自分が今、首輪を付けられ、元部下たちの前で所有物として座らされているという「羞恥」が、高解像度の映像となって脳を焼き尽くす。


ルーカスは立ち上がろうとしたが、膝が微かに笑う。薬の影響で、衣服の布地が肌に擦れるだけで、背筋に甘い痺れが走るのだ。


「では、電法省の解体資産リストについて、個体U-001──ルーカス、君が読み上げろ」


「っ……、はい」

資料を持つ指先が震える。

十名の部下たちは、無言のまま、ルーカスの「異常」を検分するように見つめている。彼らの目には、公爵としての威厳を失い、薬の微かな作用に耐えかねて頬を染めているルーカスの姿が、克明に映し出されているはずだ。


会議室に並んだ十名の補助執行官。

彼らは五大公爵家のスパイであり、魔術波動に極めて敏感な高位貴族たちだ。

彼らは兼任で電法省に勤務していた。

今や彼らの瞳にあるのは、首に軍事省の刻印を巻いた「元上司」への、嘲笑と隠しきれない好奇だ。

彼らは嬉々として元の省庁に帰っている。


「……電法省、第一種……魔力増幅、……っ、資材……」

言葉を発するたびに喉が震え、その振動すらも薬で増幅された[検閲済]と羞恥となって脳を焼く。


ガウェインがペンを走らせる音が、ルーカスの耳には「断頭台の音」のように巨大に響く。


「個体U-001、声が小さい。記録アーカイブに支障が出る。もっと明瞭に、自分たちの『解体』を宣言しろ」


アレスが、机の下で、ルーカスの膝の裏を「つっついた」。


[アレス公爵がアーカイブしました]


ルーカスは咄嗟に口を抑えたが、遅かった。理性が保たれているがゆえに、「今、自分が何をしたか」を完璧に理解してしまった。

部下たちの視線が、軽蔑と、抗いようのない「興味」へと変質する。


「個体U-001、今の発声は解体リストの項目にありません。不要なノイズをアーカイブに混ぜないでください」


ガウェインが冷たい声で注意する。


「は・・いっ・!」


ルーカスは歯を食いしばる。

アレスは隣で、満足げに目を細めて笑っていた。


「どうした、ルーカス。続きを読め。君が自分の手で、この省を終わらせるんだ」


アレスは満足げに、しかし冷酷に笑った。


理性が残っているからこそ、崩壊はより深く、よりドロドロとしたものになる。

ルーカスは、自らの唇を噛み切る。


ルーカスは、アレスに「書き換えられた」手首の激痛と、喉元を締め付ける首輪の重みを感じながら、自分の「解体」を受理し始めた。

理性を保とうと唇を噛み切り、滲んだ血が黄色い薬の残香と混ざり合う。


歪んだ視界で震える声で資料の続きを読み上げ始めた。


1.資産の「仕分け」と略奪


「電法省の全データのうち、軍事的に有用な4%を除き、残りの96%を『ノイズ』としてパージします・・!?」

ルーカスは震える声で、自分が積み上げた歴史を否定する資料を読み上げた。


「そうだ」

アレスの低く、楽しげな声が響いた。

ルーカスは立ち上がろうとしたが、膝が微かに笑う。薬の影響で、[検閲済]。


「待て……、A01! その96%には、前執行官が残した一億年分の対話記録や、民間の生活ログや、歴史的な──」


ルーカスの悲痛な叫びに、A01は事務的なトーンすら変えずに答え、さらには隣に座る情動省の出向官によって遮られた。


『回答不可。旧執行官の記録は「不必要なキャッシュ」と定義されました。……また、個体U-001。貴方の管理者権限は、先ほどアレス・クロノス・ヴァルキューラ閣下へと正式に移譲されています。』


「生活ログ? それらはすべて、我が情動省の『感情資源』として既にバルクで買い叩かせてもらったよ。なあ、個体U-001?」


「……買い、叩いた……?」

ルーカスの視界が、屈辱と薬の熱で白く濁る。

一億年分の対話記録。名もなき民たちが紡いだ喜びや悲しみのログ。電法省という器が、人々の「記憶」を保護するために存在していたことさえ、情動省の連中にとっては「効率よく回収すべき資源」に過ぎなかったのだ。


「管理番号U-001。私語を禁じます。リストの読み上げを続行してください。次は……『個体U-001の運用権限の再定義』の項目です」

ガウェインの催促が、鋭い針となってルーカスの鼓膜を突く。

震える手でページをめくると、そこには目を疑うような文言が並んでいた。


【項目:個体U-001(戸籍名:ルーカス・エルミタージュ・エルミタージュ)の公共財としての再評価】


【定義:軍事省直轄の『高感度魔力増幅炉』および『情動観測用サンプル』への転換】


【特記事項:所有権はアレス・クロノス・ヴァルキューラ公爵に帰属。メンテナンスの名目による肉体的・精神的干渉を全権委任する】


「……っ、そんな、……これは、事業仕分けの範囲を、越えて……!」


「越えていない。適正な資産運用だ」

アレスが、ルーカスの背後からその細い腰を大きな手で抱き寄せた。

首輪がジャラリと鳴る。

十名の元部下たちの前で、アレスはルーカスの耳元に唇を寄せ、会場全員に聞こえるような声で囁いた。


「君はもう、省を運営する『脳』である必要はないんだよ、ルーカス。これからは、私の魔力を受け入れ、蕩け、その『反応』をアーカイブに残すだけの、極上の『触媒』になればいい」

アレスの指が、ルーカスの服の隙間から、薬で過敏になった首元へと滑り込む。


「ひ、ぁ……っ! 閣下、……皆様の、前で……っ」


「いいじゃないか。彼らは君の元部下だ。君がいかにして軍事省の『資産』として再構築されるのか、その初期稼働テストを『検分』する義務がある」


ルーカスは、涙に濡れた瞳で、自分を「モノ」として処理していく周囲の冷徹な眼差しを見上げた。

彼らは、ルーカスを助けない。

この凍てつく年末の会議室において、彼らはただの「査定官」であり、ルーカスは解体を待つ「中古の備品」に過ぎなかった。



2.公開蹂躙と親族の簒奪


会議は続く。

情動省と軍事省。二つの巨人が、ルーカスが必死に守り抜いた成果を、目の前でハイエナのように食い散らかしていく。


「公爵、あなたのやり方は古すぎた。君が守ってきた2%の利益は、我々からすれば『誤差』だ。維持コストの方が高くつく。君自身も電法省の備品(公共財)だ。年末だし、古い型(純血でない部分)はスクラップ、あるいは再資源化(アレスによる汚染)するのが適正な処理だろう?」

そう言い放ったのは、アルフレッド伯父の後継者従兄弟のアリアン・セレネ・アルビオンだった。彼は手元の資料を放り出すと、隣の補助執行官──五大公爵家の縁者たちと顔を見合わせ、隠そうともしない嘲笑を漏らした。


「それにしてもルーカス、その……あまりに『なか』がうるさすぎて、会議に集中できないんだが? 朝から随分と、閣下に情熱的な『メンテナンス』を施されたようだな」


補助執行官たちがクスクスと肩を揺らす。高位貴族にとって、ルーカスの[検閲済]から漂うアレスの濃密な魔力──[検閲済]の劇薬の残香を察知するのは容易なことだった。


「なっさけな……。電法省を私物化して守っていたつもりが、自分自身が一番の『私物』に成り下がるとは。朝から[検閲済]て登庁とは、元上司ながらその忠実な『ペットぶり』には恐れ入るよ」


「っ……、あ……」

ルーカスの顔が、羞恥で真っ赤に染まる。否定したくても、アレスの薬のせいで解像度が上がりすぎた脳は、[検閲済]を強制的に再認させられ、反論の言葉を奪われる。

彼らの嘲笑の一つ一つが確かな鋭利な刃物のように正確に拾い上げられ、突き刺さる。


かつての部下たちの視線は、もはや「元上司」を見るものではない。アレスの所有印を首に巻かれ、内側まで「汚染」された、ただの便利な「[検閲済]」を見る、下劣な好奇に満ちていた。


アレスが、凍りついたルーカスの首筋に、所有権を誇示するように大きな手を添えた。


「諸君、あまり彼を揶揄わないでやってくれ。これでも今朝は、私の『メンテナンス』に必死で耐えていたのだからな」

その言葉が、トドメだった。

ルーカスは、アレスの傍らで、かつての部下たちの嘲笑の渦に呑み込まれながら、自分の尊厳が「[検閲済]」という一点において、完全に、事務的に、徹底的に解体されるのを味わい続けた。


「どうした、U-001、すごい顔してんな。この『処置』の報告書には、君の伯父上も、アルビオン家の名誉のためにと二つ返事でサインしてくれたんだぞ?」

アリアンが揶揄するかのようにいう。


「……え?」


「伯父様が、私を……? 嘘だ、伯父様だけは……」


「当然だろう、ルーカス。今朝5時、君が軍事省の馬車で連行されたと知った時点で、父上(アルフレッド伯父)はすべてを『受理』したのさ。軍事省と事を構えて共倒れになるより、君という『不適格な負債』をアレス閣下に差し出して、家の安泰を図る方を選んだんだ。……現に、君がこうして閣下の匂いを撒き散らしながら辱められているのに、父上は一度も止めに来ないじゃないか」


たった数時間前。朝靄の中で馬車に押し込まれた時、伯父は助けてくれなかった。それが、アルビオン公爵家としての「決済」だったのだ。


「……あ」

アレスの大きな手が、ルーカスの腿裏を、弄るようになであげる。


[アレス公爵がアーカイブしました]


視界に異父弟のランスロット・グラディウス・ヴァルキューラが見えた。


アレスの長男であり後継者だ。

歳の差はわずか24歳下で,竜としては年子な程度の差だった。


彼は少し離れた長卓の端で、背もたれに深く寄りかかっていた。

彼は直接言葉をかけることすらしない。ただ、歪んだ笑みを口元に湛え、指先で卓をトントンと規則正しく叩きながら、ルーカスの「崩壊」を一つの娯楽として網膜に焼き付けていた。


(ランスロットまで……笑って、いる……っ)

白濁する視界の端で、蔑みと愉悦に満ちた顔が見える。

その視線が、まるで「お前はもう、こちら側の種族ではない」と宣告しているようで、ルーカスは魂が削られるような孤独に突き落とされた。

無職:「気づいたら無職に!!!え?そのまま?はぁ、ありがたいですが」

(ゴソゴソ)

軍事省電法検閲官:「よし。アーカイブ整理してきます!!仕事!!」

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