第11話: 行政処分の終焉:あるいは純愛という名の損壊
そろそろ行政処分とは何かわかってきましたか
「父上。……兄様を、僕が洗わせてもらってもいいですか? さすがにこのままでは、執務室の絨毯を汚してしまいます」
ランスロットは、ぐったりとしたルーカスを抱えて歩くアレスにそう「申請」した。
アレスは、ルーカスの乱れた軍服と、そこから漏れ出す「中古」の残滓、そして自分の「中和剤」が混ざり合った惨状を一瞥し、短く許可を出した。
「……構わん。だが、壊すなよ。深夜には、軍事省の本査定が控えている。動けなくなっては困るからな」
「あはっ! 分かっていますよ、父上。……さあ、兄様。父上の許可も出ましたし、徹底的に『綺麗』にしてあげますね?」
「ま、待っ……待ってくだ、さい……っ、ぁ、あぁぁぁっ!!」
[ランスロット侯爵がアーカイブしました。彼のコレクションで公開されます]
(ガウェインの回顧録)
執務室の振り子時計が、深夜の静寂を刻んでいる。
私は、主君であるアレス・クロノス・ヴァルキューラ閣下の背後で、冷めかけたコーヒーの温度を測るように、ただ静かに佇んでいた。
「……遅いな」
閣下が、短く、しかし苛立ちを含んだ声を漏らした。
デスクに置かれた指先が、わずかに革の表面を叩く。それは「検品」を待ちきれない子供のようでもあり、獲物の鮮度を気にする食通のようでもある。
「ランスロット様が、ルーカス様の『洗浄』を担当しておられますから。……あの方は、凝り性でいらっしゃる」
私の言葉に、アレス閣下は金眼を細め、フッと不敵な笑みを漏らした。
「……そうだったな。あいつは、他人の色が混じるのを極端に嫌う」
そのやり取りの裏で、私は浴室から微かに響く水の音を聞いていた。
あはっ、と。階下から響くあの不敗の戦神の笑い声が、私の脳裏に「不潔な想像」を強制的にインストールしてくる。
ランスロット様が仰る「洗浄」が、石鹸とタオルによる慈悲深いものであるはずがない。
あの方は、ルーカス様の胃の腑から、粘膜の奥底に至るまで、アレス閣下の『アーカイブ』を一度すべて剥離し、自らの魔力という不純物を混ぜ込んだ上で、再び「閣下の色」へと塗り替えるつもりなのだ。
それは洗浄ではない。
「管理者権限」と「干渉プロトコル(ランスロット)」による、ルーカス・エルミタージュ・エルミタージュという機材への、暴力的な再フォーマットだ。
「……ガウェイン、次の資料(中和剤)を」
「ここに」
私は、主君の前に「それ」を差し出す。
主君は、これから届くであろう「空っぽにされた在庫(ルーカス様)」を、どう汚し、どう検品し、どう損壊させるのか。
閣下の瞳の奥に宿る、あの冷徹な独占欲。
そして、浴室で今まさに「損壊」の悦びに浸っているであろうランスロット様の狂気。
……挟まれるルーカス様には、もはや一滴の救いも残されていない。
私は、主君の飲み干したカップを下げる。
「……そろそろ、扉が開く頃合いかと」
私がそう告げた瞬間、廊下からヨタヨタとした、おぼつかない足音が聞こえてきた。
「洗浄」を終え、もはや「中身」さえ持たない「空洞」へと初期化された、かつての公爵の、絶望の足音が。
軍事省電法検閲官:「いや、いいけどさぁ。えぇ....?」




