木枯らしが吹いた、その後は…
昇降口を出た瞬間、頬を切るような冷たい風が吹いた。
そこへ待ち構えていたように、私の横に山田が肩を並べてくる。
「……お前、進学するんだってな。それなら俺も一緒に勉強しよっかな」
「今さらやっても、その頭じゃ無理でしょ」
言ってから後悔した。
就職組の彼が、一緒に勉強する理由なんてない。
そんなことくらい、分かっているのに。
素直に「いいよ」と言えない。
山田は苦笑して肩をすくめただけだった。
そのまま並んで歩くと、コンビニの前でクリスマスの販促旗がパタパタと揺れていた。
「どこもクリスマス一色って感じだな。駅前もイルミ始まってたし」
「ふーん」
「……冬だなって、思って」
その声がいつもより静かで、胸が少し痛む。
受験が終われば私は地元を離れる。
山田は春から働き始める。
同じ通学路を歩くのも、あとほんの少し。
それを思うと、木枯らしの冷たさが余計に沁みた。
歩道橋に差し掛かった途端、風が一段と強くなった。それにつられるように、二人の足取りも自然とゆっくりになる。
「……お前とこうやって言い合うのも、あとちょっとじゃん? だから……一緒に過ごしてやろうと思って」
息が詰まった。
……告白じゃない。
でも離れたくない気持ちが確かにそこにあった。
そんなこと言われたら、私はなんて返せば良かったのだろう。
「べ、別に……私は一人でも勉強できるし」
「知ってるよ」
そう言いながら、彼の指先がわずかに震えているのが見えた。
風のせいじゃない。
きっとこれ以上言ったら戻れないと、彼自身が分かっているからだ。
「……じゃあ、明日。いつもの時間でいいか?」
「勝手にすれば」
言いながら、足が少し震えた。
一緒に過ごしてやろうと思って──そんな言葉、反則みたいに優しい。
私たちの間を、木枯らしが吹き抜ける。
冬の気配が、否応なく迫ってくる。
離れる未来がすぐそこにあるのに、この瞬間だけは、春なんて来なければいいと思った。
【END】




