最弱職業『料理人』だった俺が、実は世界最強のバフ魔法使いだった件
## 第一章 転移と絶望
俺の名前は田中健太。ごく普通の高校二年生だった。
それが今では、見知らぬ世界の石造りの神殿で、光る魔法陣の中央に立っている。
「勇者様、ようこそ我が王国へ!」
眼前には豪華な衣装を纏った初老の男性が深々と頭を下げていた。どうやら王様らしい。そして俺の周りには、同じように召喚されたらしい同級生たちが困惑した表情で立っている。
「皆様には魔王を討伐していただきたく、我が国の秘術によってお呼びいたしました」
王の説明によると、この世界『アルトリア大陸』では魔王の復活により各地でモンスターが暴れ回り、人々が苦しんでいるという。そして俺たち異世界人には特別な力『ユニークスキル』が与えられているらしい。
「では、皆様の職業を確認させていただきます」
宮廷魔術師らしき老人が水晶球を取り出し、一人ずつ職業を調べ始めた。
「山田君、あなたは『勇者』ですね!素晴らしい!」
「佐藤さんは『大賢者』!これまた素晴らしい!」
「鈴木君は『聖騎士』!頼もしい!」
同級生たちが次々と華々しい職業を告げられ、歓声が上がる中、ついに俺の番が回ってきた。
「田中君は……えーっと……」
魔術師の表情が曇る。
「『料理人』……ですね」
場が静まり返った。
「料理人って……戦えるんですか?」王が困惑した表情で尋ねる。
「申し訳ございません。料理人は……その……生産職でして……」
俺は頭が真っ白になった。みんなが勇者だの賢者だのといった戦闘職なのに、俺だけ料理人。しかも魔術師の反応を見る限り、相当な外れ職業らしい。
「まあ、食事の準備などで後方支援をしていただければ……」王は苦笑いを浮かべながら言った。
その夜、城の一室で俺は一人落ち込んでいた。同級生たちは明日から本格的な冒険者訓練を受ける予定だが、俺には料理の基礎を教える料理長が付けられただけだった。
「なんで俺だけ……」
## 第二章 料理人の真実
翌朝、城の厨房で料理長のガストンと会った。
「よろしくお願いします、田中様」
ガストンは50代くらいの恰幅の良い男性で、なぜか俺に対してとても丁寧だった。
「あの、そんなに畏まらなくても……どうせ料理人なんて……」
「何を仰いますか!」ガストンが驚いた表情で俺を見た。「料理人は素晴らしい職業ですよ!」
「でも戦闘には役立たないでしょう?」
「とんでもない!料理人の作る料理には特別な効果があるんです。まずは基本の『体力回復スープ』を作ってみましょう」
ガストンに指導されながら、俺は生まれて初めてまともに料理を作った。不思議なことに、手順を覚えるのが異常に早く、まるで体が勝手に動くような感覚だった。
完成したスープを飲んだ瞬間、体が軽くなった。
「これは……!」
「どうですか?体力が回復したでしょう?料理人の作る料理には魔力が込められ、食べた者の能力を向上させるんです」
ガストンの説明によると、料理人の作る料理には様々な効果があるという。体力回復、魔力回復、攻撃力上昇、防御力上昇……まさにバフ効果だった。
「でも、料理って戦闘中には使えませんよね?」
「確かに戦闘中は無理ですが、戦闘前に食べておけば効果は持続します。特に高レベルの料理人が作った料理は、効果が数時間続くこともあるんです」
俺の心に希望の光が差し込んできた。
## 第三章 才能の開花
それからの一週間、俺は料理の修行に明け暮れた。そして異常なほどの成長速度を見せた。
「田中様……信じられません」ガストンが震え声で言った。「わずか一週間で上級料理を習得するなんて……私が10年かけて覚えたレシピを……」
俺が作った『戦士の心得パイ』は、食べた者の攻撃力を50%上昇させる効果があった。通常の料理人が作ると10%程度らしいが、俺の場合は50%だった。
「しかも効果持続時間が6時間……こんな料理人、伝説の中にしか存在しないはずです」
どうやら俺は、とんでもない才能を持った料理人らしかった。
そんな時、城に緊急事態が発生した。
「魔王軍の先遣隊が城下町を襲撃しています!」
兵士の報告に城内が騒然となった。勇者パーティーはまだ訓練中で実戦には出られない。
「誰か迎撃できる者は……」
「俺が行きます」
俺の言葉に皆が振り返った。
「田中君、君は料理人だろう?危険すぎる」王が心配そうに言った。
「大丈夫です。料理で皆さんをサポートします」
## 第四章 初陣
城下町では、オーク10体ほどが暴れ回っていた。住民は避難済みだったが、このままでは町が壊滅してしまう。
迎撃に向かったのは王国騎士団の精鋭10名。しかし相手も手強く、苦戦を強いられていた。
「みなさん、これを食べてください!」
俺は事前に作っておいた料理を騎士たちに配った。
『勇気のシチュー』(攻撃力+80%、恐怖耐性+100%)
『鉄壁のパン』(防御力+70%、HP+50%)
『疾風のサラダ』(敏捷性+90%、回避率+40%)
「これは……体が熱くなる!」
「力が湧いてくる!」
「体が軽い!」
騎士たちの能力が飛躍的に向上した。今まで苦戦していたオークを一刀のもとに切り伏せ始める。
「すげえ!こんなに強くなるのか!」
「料理人様万歳!」
戦闘は騎士団の圧勝で終わった。
「田中様……」騎士団長が涙を流しながら俺の前に跪いた。「あなたは我々の救世主です」
## 第五章 噂の拡散
料理人田中の活躍は瞬く間に王都中に広まった。
「あの料理人の作る料理を食べれば、どんな魔物も倒せる」
「伝説の料理人の再来だ」
「料理人様に料理を作ってもらいたい」
城には連日、料理を求める冒険者や騎士たちが押し寄せた。しかし俺は全ての依頼に応えるわけにはいかなかった。材料の調達にも時間がかかるし、一日に作れる料理の量にも限界があった。
「田中君、君の料理のおかげで王国の防衛力が格段に上がった」王が嬉しそうに言った。「是非とも勇者パーティーのサポートもお願いしたい」
勇者の山田は複雑な表情だった。
「田中……お前、すごいじゃないか」
「ありがとう、山田」
「でも俺は勇者なんだ。お前に頼ってばかりいるわけにはいかない」
山田のプライドも分からなくはなかった。しかし、俺には俺の戦い方がある。
## 第六章 真の力
ある日、城に重大な知らせが届いた。
「魔王軍の四天王の一人、『破壊公ベリアル』が王都に向かっています!」
ベリアルは魔王軍でも最強クラスの将軍で、一人で軍隊を壊滅させる力を持つという。
「勇者パーティーはまだ経験不足……」王が頭を抱えた。
「俺がなんとかします」
俺は決意を固めた。今こそ、料理人の真の力を見せる時だ。
「田中様、無謀です!」ガストンが止めようとしたが、俺の決意は固かった。
俺は今まで温存していた最高級の料理を作り始めた。
『覇王のフルコース』
前菜:『闘神のカルパッチョ』(攻撃力+200%)
スープ:『不屈のコンソメ』(HP+200%、状態異常無効)
魚料理:『疾風のアクアパッツァ』(敏捷性+150%)
肉料理:『鉄壁のステーキ』(防御力+180%)
デザート:『英雄のティラミス』(全能力+50%、効果時間延長)
この料理を作るのに丸二日かかった。そして俺自身も、調理過程で大量の魔力を消費し、フラフラになった。
## 第七章 決戦
ベリアルが王都に現れた時、迎撃部隊は既に俺の料理を食べて準備万端だった。
王国騎士団精鋭50名、宮廷魔術師10名、そして勇者パーティー。全員が俺の『覇王のフルコース』の効果を受けている。
「何だこの力は……」山田が驚いていた。「体の中から力が湧いてくる」
「これが田中の本当の力か……」賢者の佐藤も感嘆していた。
ベリアルは身長3メートルを超える悪魔で、全身から禍々しいオーラを放っていた。
「人間ども、我が前に膝を着け!」
しかし、俺の料理を食べた戦士たちは怯むことがなかった。
戦闘が始まると、ベリアルは驚愕した。
「馬鹿な!こんな人間どもが、なぜこれほど強い!」
騎士たちの攻撃は確実にベリアルにダメージを与え、魔術師たちの魔法は威力を増していた。そして勇者山田の聖剣は、いつもの3倍以上の輝きを放っていた。
「これで終わりだ!」
山田の必殺技『聖光斬』がベリアルを貫いた。
「馬鹿な……この俺が……人間如きに……」
ベリアルは消滅した。
## 第八章 料理人の評価
ベリアル討伐の功績により、俺は『英雄』の称号を与えられた。
「田中殿は間違いなく、この戦いの最大の功労者です」王が宣言した。「料理によって全軍の力を底上げし、四天王討伐を可能にした」
しかし俺は複雑な心境だった。
「俺は直接戦ってない。みんなが戦ったんだ」
「何を言ってるんですか」ガストンが笑った。「料理人の戦い方は、皆を強くすることです。田中様は立派に戦われました」
山田も俺の肩を叩いた。
「田中、お前のおかげで俺たちは勝てた。ありがとう」
「いや、みんなが頑張ったから……」
「そうやって謙遜するところも、お前らしいな」
## 第九章 新たな目標
その後、俺は王国専属の料理人として正式に任命された。給料も爵位も、他の勇者たちと同等かそれ以上だった。
「でも、まだ魔王が残ってる」俺は王に言った。「魔王を倒すまで、俺も戦い続けます」
「頼もしい限りです」
俺は更なる料理の修行を始めた。ガストンからは「もう教えることがない」と言われたが、まだまだ成長できる気がしていた。
古い料理書を読み漁り、伝説の食材を求めて各地を旅し、時には危険なダンジョンにも潜った。料理人だからといって安全な場所にいるつもりはない。
そして俺は気づいた。料理人は決して弱い職業ではない。使い方次第では、勇者以上の力を発揮できる職業なのだ。
## 第十章 真の料理人
数ヶ月後、ついに魔王城への侵攻が始まった。
俺が作った『魔王討伐弁当』を食べた勇者パーティーと騎士団は、魔王城の守備隊を次々と突破していく。
そして魔王の間で、ついに魔王と対峙した。
「ほう、料理人がここまで来るとは珍しい」魔王が興味深そうに俺を見た。「その料理で我が軍を苦しめたのは貴様か」
「そうです」俺は堂々と答えた。「俺は料理人、田中健太。あなたを倒すために来ました」
「料理人如きが魔王に挑むか。面白い」
魔王は強かった。俺の最高級料理を食べた勇者パーティーでも苦戦するほどに。
しかし、俺にはまだ秘策があった。
戦闘の最中、俺は最後の料理を取り出した。
『奇跡の最後の晩餐』
これを作るために、俺は自分の生命力まで材料として使った。食べた者の全能力を一時的に10倍にする、まさに奇跡の料理だった。
「みんな、これを食べて!」
勇者たちが料理を食べると、体から光が溢れ出した。
「この力は……」
山田の聖剣が今まで見たことのない輝きを放った。その一撃で、魔王は完全に消滅した。
## エピローグ 帰還、そして
魔王討伐後、俺たちには元の世界に帰るか、この世界に残るかの選択が与えられた。
多くの同級生が元の世界に帰ることを選んだが、俺はこの世界に残ることにした。
「なぜです?」王が尋ねた。
「ここが俺の居場所だから」俺は微笑んだ。「料理人として、みんなの力になりたいんです」
その後、俺は王都で『英雄食堂』を開いた。冒険者たちが依頼前に食事をとり、力をつけてから出発する場所として親しまれている。
店は連日大盛況で、予約は数ヶ月待ちだった。
「田中様の料理を食べれば、どんな依頼も成功する」という噂が広まり、遠方からも客がやってくる。
でも俺は、決して偉ぶることはない。
「いらっしゃいませ。今日も美味しい料理を作らせていただきます」
最弱と思われた料理人が、実は最強のサポート職だった。
それが俺の物語だ。
料理を通じて人を幸せにし、人を強くし、世界を救う。
これからも俺は、料理人として戦い続けるだろう。
【完】
## あとがき
異世界で料理人として成り上がる田中健太の物語、いかがだったでしょうか。
最初は最弱職業と思われた料理人が、実は最強のバフ専門職だったという設定で、仲間を支援することの大切さと、どんな職業にも価値があることを描きました。
主人公が直接戦うのではなく、料理という形でサポートに回ることで、従来の勇者ものとは違った角度からの冒険譚をお楽しみいただけたかと思います。
料理の描写にもこだわり、読者の皆様に「美味しそう」と思ってもらえるよう心がけました。また、バフ効果の数値化により、ゲーム的な要素も取り入れています。
主人公の成長、仲間との絆、そして最終的な居場所の発見まで、王道的な展開を意識しつつ、料理人という職業の特色を活かした物語構成にいたしました。