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最初の記憶
ユリの最初の記憶は痛みと混乱の入り交じった光景だった。
暖かさや笑顔で満ちた家庭のイメージなど彼女には存在しない。
あるのは父親の荒々しい声だけだった。
まだ小さな体でユリは手に小銭を握りしめ、近所の煙草屋に向かっていた。
父親に命じられたのだ。
「これを買ってこい」と言われたが、店員はそんな幼い子供に煙草を売るわけがなかった。
彼女は手ぶらで帰るしかなかった。
「なんで買ってこないんだよ!」
家に着くなり父親の怒鳴り声が彼女を迎えた。
次の瞬間、何かが飛んできた。
避ける間もなくそれはガラスの扉を突き破った。
ユリの体は恐怖で固まり、目には涙が溜まっていった。
泣いてはいけないと思いつつ抑えられなかった。
涙が頬を伝う感覚だけが現実の痛みを思い出させる。