表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

A Spoonful of…【未来屋 環SS・掌編小説集】

『自分卒業式』は、晴れやかに

作者: 未来屋 環

 そして、私は生まれ変わるのだ。



「――以上、卒業生代表、佐倉(さくら) (さき)


 答辞を読み終えお辞儀(じぎ)すると、拍手の雨が降り注いだ。

 無事にミッションをやり遂げた安堵感(あんどかん)とあたたかい会場の雰囲気に、少しだけ涙が(にじ)む。

 頭を下げたままひとつ息を吐き、気持ちを落ち着かせてから顔を上げた。


 続いて卒業生全員での合唱。

 皆で声を揃えて歌うことが、こんなにも気持ちがいいなんて。

 これが最後だと思うと少し寂しいけれど。


「以上をもちまして、卒業式を終了します。一同起立――礼」


 アナウンス通り一礼した3秒後、もう一度会場は拍手に包まれた――。



「はい、カットです!」


 その言葉で周囲の空気が一変する。

 私以外の卒業生たちは笑顔で会釈(えしゃく)しながら部屋を出て行った。


「佐倉さま、おつかれさまです」


 振り返ると、そこにはプランナーが立っている。

 私が「お世話になりました」と頭を下げると、彼は「とんでもございません」と笑みを浮かべた。


「この度は弊社の『自分卒業式』サービスをご利用頂き、誠にありがとうございました」


 ――そう、今日は私の卒業式。

 但し、どこかの学校を卒業するわけではなく、『今の私』を卒業する日だ。



 生きるために仕事をしていたはずが、いつの間にか仕事をするために生きている。

 疲れ果ててとぼとぼ歩く帰り道、たまたまその広告が私の視界に飛び込んできた。


「弊社の主力事業は『自分卒業式』の企画です。日々息苦しさを感じている方々が気持ちの区切りをつけ、次のステップへと向かうお手伝いをさせて頂いております」


 プランナーの彼からは様々なスタイルの卒業式が提案される。

 体育館を貸し切る大々的なものから家族だけで行う小規模なもの、そして有休消化も兼ねた海外挙式まで……結果的に私は貸会議室を使用するリーズナブルなオーソドックス卒業式プランを選択した。

 思うままに答辞の原稿を書いていると、少しずつ自分の気持ちが見えてくる。

 式当日に近付くと共に、私の中の閉塞感(へいそくかん)は徐々に薄れていった。



「――私、明日辞表を出します。本当にやりたいことが見付かったから」


 そう伝えると、プランナーが笑顔で「ご卒業おめでとうございます」と筒を差し出す。

 式中に受け取った卒業証書を丸めて入れた時、確かに自分の中で覚悟が決まった。


 ――うん、頑張ってきた私、卒業おめでとう。


 プランナーの彼に見送られながら、店を出る。

 きらきらと輝く街並みを眺めながら、私は軽い足取りで一人打上げ会場のレストランへと向かった。

最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

『卒業』というテーマを見た時、折角だから明るく楽しい卒業式を描きたいなと考え、思い付いたのがこの話でした。

当初はもう少しコミカルに『卒業式プランナーの生態』とプランナー側視点で書こうと思ったのですが、念のため検索したらロ○ート秋山さんがまさに卒業式プランナーのネタで動画を上げていらっしゃいまして……!

結果的にこの形に行き着いております。

秋山さんとネタかぶりしたと思うと、なんだか嬉しいです笑。


お忙しい中あとがきまでお読み頂きまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とてもいい話でした。いろんなプランがあってリアルなのも世界観がしっかりしてて凄いですね。 胸にじんわりして、前向きになれる、素敵な話をありがとうございました。
∀・)面白い発想の作品でした。コレを形にするのはなかなか難しいかと思います。でも、ミクリヤ手法ならば見事なドラマにしあげることができるという。ミクリヤ手法ってなんやねんって思われるのかもしれませんが、…
 卒業式というかたちをとらなくても、なんらかの「儀式」——髪を切るとか——をもって、自分を変えようとする意思表明をすることはあるのでしょう。  卒業なのか、中退なのかは解釈が難しいところかもしれません…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ