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目覚め

巨大な満月、


心地よく聞こえる潮の満ち干き、


砂浜をうつ向き歩く男。


ビチビチ、ビチビチ。


男の腰に付いている(かご)から、


活きのいい魚の声が聞こえる。


…。


一太刀「あ〜、疲れた。


今日の収穫はイマイチだったな~。


腹へった〜。


早く母屋に帰ってめし食おう。」


…。


一太刀がいつもの様に、一日の作業を終わらせ、


晩ご飯のおかずの焼き具合を想像していた、その時だった。


…ゴソゴソ、ゴソゴソ。


ゴソゴソ、ゴソゴソ。


???「ウ、ウッ…。」


ゴソゴソ、…ゴソゴソ、ゴソゴソ。


一太刀「!!??」


砂浜の暗闇の中から、


人間のうめき声のようなものと、


何かがうごめく物音が聞こえた。


…。


しーん。


…。


一太刀「…ん??


…。


気のせいか?」


と、


一太刀が勘違いだろうと思った瞬間、


一太刀「おや!?


アレはなんだ!?」


!!?


一太刀は暗い波岸で動めく、


何かの黒い(かたまり)を見つけてしまった。


一太刀「!!?…。


なんだ!!?


誰か居るのか!!?」


…。


???「ウ、ウッ…。」


ゴソゴソ、


ゴソゴソ…。


一太刀「(誰かいる!!)」


暗い波岸で何かが動めく場所から苦しそうな声と、


やはりゴソゴソと動く音が聞こえて来る。


一太刀「…(誰だ?こんな更けた夜に…。)


…。


一太刀「おい!!


ちょっと待っていろ!!


…。


今、助けてやる!!!」


一太刀は小さな籠と釣り竿を右側にほうり出し、


小さな心臓がドクンドクンと身体に響きながら、


おおよそ人間かと思えるモノに、


…急ぎつつも且つ慎重に、おそるおそる近づいた。


…。


一太刀「…。


…どうしたんだ!?


大丈夫か!!?


…おま…え。」


一太刀の目の前には、


この「浮き世絵国」では、


一切、見たことがない服を来た、


かなりの長身の男が、


苦しそうに腹を押さえてうずくまっていた。


???「Hey You…。


Help…。


ウ…。


Help…me.」


一太刀「へ?…。へる??


…。


…。


…ぬあ〜、


わかった!!


わかったよ!!


…もう喋るな!!


オレの母家で休んで行け!!


…。」


一太刀は、覚悟を決めて、


このかなりの長身の男をかつぎ籠と釣り竿を拾って、


一太刀のあばら家へと男を、


引きずり歩いて行った。


数十分後…。


一太刀は母屋に帰宅し、


長身の男をなんとか壁際に持たれかけさせた。


ドスン!!


???「…。


ウ、ウッ…。」


一太刀「…。


…。


ほ、ほら、おかゆでも食え。


どこが悪いのか!?」


???「…。


ウ、ウッ…。」


しかし、


長身の男はおかゆを一口も食べようとしない。



???「…。」



一太刀「あ〜、どうしたものか。


おい、お前…。


お前は、異国の者なのか??」



???「……。


He…lp…。」



一太刀「あ〜。


分からん!


何を言ってるか、わからん。


拉致があかん。


よし!!


いいか、お前は少し眠るんだ!」


一太刀はおやすみの素振りをおおっぴらにして、


苦しんでいる長身の男を、


母家の(すみ)に横倒した。


…。


一太刀「暇だ…。


そうだな。


外にでも出て気分転換でもするか。」


そして一人、


一太刀は外へと続く戸を横に動かした。


コトコトコトコト。


…。


…。


そして、


一太刀は引き戸を左に静かに戻し、少し前に歩き、外の景観をながめた。


改めて眺める今宵の巨大な満月、大海原の潮の干渉。


普段とは違う海浜の景色に一太刀は見惚れてしまった。


今宵の外の景色はいつもの風景とは、


ともかく違う。


口で語るにはおこがましいほど、


美しき巨大満月と、


その満月を映し出す広い大海原がただただ広がっていた。


今宵の満月はそれはでかかった。


…。


一太刀「お…。


…おお…。」


一太刀は産まれて初めて見たかもしれない、迫力のある巨大な満月の美しさに口を空け、


目をうつろわせ、


その月を眺める行為に、長く心から酔いしれていた。


すると、後ろの母屋から、


コトコトコトコト…。


コトコトコト…。


と、


引き戸を引く音が聞こえ、


一太刀が遠い目で満月を見据えている背中越しから、


かすかに音が漏れ始めた。


…。


一太刀「……。」


もはや一太刀は、


何かが引き戸を動かし終わった小さな音も、


ザシュ…!!ザシュ…!!ザシュ…!!


と、大胆不敵に砂を踏みしだく大きな足音も、


…。



自然の芸術に陶酔している一太刀の耳には、いっさい入って来なかった。



ザシュ…!!


ザシュ…!!


ザシュ…!!


ビタッ…!!


その場の時間と空気が一瞬、凍ったかと思うと、


暗闇で笑う大きな影が、


背後から一太刀を覆い隠し、飲み込んだ。


ガバッ!!!


一太刀「…うん??」


一太刀は闇にのまれた事にきづいていなかった。


漆黒が一太刀を包んだ時、


初めて、その恐怖と激痛に、直接、


相まみえるのであった。


ババッ!!

(布が視界をふさぐ。)


???「GAVOOOOOOH!!」


ドブシャッ…!!!

(何かを突き刺す音。)


ブシューーーーーッ!!!

(血が吹き出す音。)



一太刀「…。


ウアッ!!?


アアアアーーーッ!!!


ガッアアア!!!」


なんと、その漆黒の闇は、


先ほど一太刀が懸命に介抱していた異国の男が、


鋭く図太い巨大な牙で、


一太刀の右首すじの血脈に、


その物騒な牙を突き刺さしていたのだった。


ザシュ!!ザシュ!!


ブシューーーーーッ!!!


一太刀「ウガアアッ!!!


アガアアアッーーーー!!!


…ウアアアアッーーーー!!」


???「Tasty!!!…Tasty!!!」


一太刀が得体の知れない化け物に、


後ろから強襲を受け、激痛を味わっている最中、


おそらく吸血行為されているその流れの中で、


一太刀の意識下におもむろに訴える、


この恐ろしい男の様々な記憶の断片が、


強引に逆流して来る感覚を、


一太刀は覚えた。


一太刀「……。


ア…ア…アア…。」


…。


???「オレは異国の兵士…。


母国の戦争の最中、


ある洞窟に逃げ込み、


コウモリの群れに襲われた。


…。


コウモリ達はオレの血を吸血し、


それと同時にオレに吸血の遺伝子を与え、


瞬く間に、


オレは吸血鬼となり果てた。


が、


かすかに人間の意識は残っていたオレは、


おぼつかない足取りで、


洞窟から抜け出し、


朝日が照らす中、


頭の記憶が薄らいで行くにも関わらず、


最愛の家族の元へ帰ろうとした。


…。


が、


時すでに遅し、


吸血鬼と化したオレの身体は、


太陽の光には到底耐えられない身に、


なり果てていた。


すぐさま太陽を避ける様に、


洞窟の近くの海に飛びこみ、


時間を忘れるくらい海の波にもまれ、


そして、


この場所へと打ち上げられた。


…。


後はお前の知っての通りだ…。」



吸血鬼はその思念を、


一太刀に強引に流し込むと、


名も語らず、


何匹ものコウモリに姿を変え、


美しい満月の方角へ飛び去ってしまった。



…。


…。



一太刀は魂いのぬけがらのように、


美しい巨大な満月の前に立ち尽くし、


一太刀「…。」



一太刀は、しばらくの間、


満月の光を浴び続けていた。


むしろ、


棒立ちの状態で、


絶命したと言っても過言では無かった。


そして、夜の時間がしばらく立ち、


満月の光が乏しくなった頃合い、


突然、


そう、


突然に、


一太刀の意識は回復しだしたのだった。



一太刀「…ぐうぅっ!!?


…オ、オレは!!!??…。」



一太刀の急に回復されたその意識野には、


いまだ理性と本能が共存し、


満月の光を浴び続けた「月光浴」と言う行為が、


一太刀に両極性の思考を、


残したと考えられた。


一太刀「オレは一体…。


…ガッ!!」


一太刀は体中にみなぎる、


ほとばしる力を感じ、何も語らず、


不意に、


美しい満月が映える妖しげな夜に、


忽然と消えた。

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