添い寝屋のサビ猫と勉強で忙しい受験生
カリカリとシャーペンを動かして、問題集を解いていく。そして難しくて頭もポリポリとかく。
「うー、難しいな」
パッと時計を見るとまだ眠るには早い時間だった。もっと問題を解いて、勉強しないと。
そう考えながら問題を解いた。するとパラッと小さな紙が挟まれていた。
「ん? なんだこれ?」
しおりではあるのだが、黒と茶色のサビ猫と【添い寝屋】と言う可愛らしい文字が書いてあった。
「なんだ、これ? 【添い寝屋】? あなたが眠るまで寄り添います?」
呑気に寝ている暇なんて僕には無いんだよ。
もうすぐ塾のテストだし、数か月後には本番でセンター試験があるのだ。こうしている間にも、時間は過ぎている。
一つでも問題を解いて、テストに挑まないといけないんだ。
そう思って問題を解こうとするとシャーペンを握る僕の腕にフサフサの黒い尻尾が撫でていた。
「もうやめません? もう遅い時間ですよ」
尻尾の先を見ると黒と茶色のサビ猫がちょこんと座っている。
僕と目が合うと首を傾げて、にっこりと笑った。
「こんばんは、添い寝屋でございます」
「え? 添い寝屋? 僕は頼んでいないぞ」
「おや、そうですか」
そう言って、サビ猫はノートと問題集の上にゴロンと寝っ転がった。
「ちょっと、邪魔なんだけど」
「えー、僕はこの上で寝ていたいんですけど」
くう……、猫ってこういう所があるよな。嫌がらせなのか、それとも何も考えていないのか、人間がやらないといけない事をこうして邪魔する。
問題集とノートの上のどこかいいのか、サビ猫は寝返りを打ってお腹を出した。
「僕のお腹、撫でてもいいですよ」
「撫でたら、どいてくれるの?」
「それは、分かりませんね」
情けない姿にちょっと笑いながら、僕はお腹を撫でる。気持ちがいいのか、尻尾がユラユラ揺れる。
「もう、寝ようかな」
「あ、寝ますか」
呑気なサビ猫の姿を見ていたら、勉強する気が無くなってしまった。だって、問題集の上からどいてもらうのも大変そうだし。
「もう勉強はやめる」
そう言ってベッドに入って、電気を消す。すると毛布に何かが入ってきた。
「じゃあ、添い寝しますね」
「えー」
「ダメですよ。僕は添い寝屋なのだから」
そう言って僕のお腹辺りにサビ猫は丸まった。
サビ猫はポカポカと湯たんぽのように温かくて、すぐに眠くなってしまった。
*
ピピピピピ!
「んー……、よく寝た」
目覚ましの音で僕はパッと起き上がると、サビ猫はいなくなっていた。
それもそうか、猫が喋るわけないし。
そしてカレンダーを見ると、今日は大切なテストがある日だった。それで早めに寝ようと思っていたけど、夢の中でも勉強していたんだった。
「夢の中でも勉強しているなんて、悪夢だったな」
だとしたらあの添い寝屋のサビ猫は夢でも勉強するなと現れたのだろうな。邪魔をしていると考えていたけど、良い子である。
「あのサビ猫には感謝しないと」
そう思いながら塾に行く準備をして、外に出る。
すると「にゃあ」と泣き声が聞こえてきた。振り向くとサビ猫が僕を見て尻尾を揺らしていた。もう一度、「にゃあ」と鳴くとサビ猫はスルッと去っていった。
頑張ってねって言っているんだと思いながら、僕はちょっとほほ笑んで塾へと走り出した。