5. 好意
ディランから告白されたあの日から数日経つが、特に変わった様子はなく。
あれは夢だったのかと疑い始めていた。
「セルシア様、仕立て屋のメルドさんから新しいドレスを見に来てほしいとご連絡がありましたよ。」
「もうそんな時期なんですね。」
「はい。今回もたくさんご準備をして下さっているとか。」
楽しげなシンシアにされるがままお出かけ用のドレスに着替え終わった頃に馬車の準備ができたとディランが呼びに来るとコーチへ乗り込み街へと移動していった。
雪に覆われた噴水から見える仕立て屋の看板。
高級感はないが老舗感の漂うアンティークな作りでライトは付いているものの磨り硝子のため室内は見えない仕様のようだ。
扉を開けると色とりどりのドレスが現れる。
「セルシア様!良かった、来てくれたんですね。」
奥から現れたのは金髪蒼眼の美青年で満面の笑みを浮かべながら彼女へ抱き着こうとした。
それを遮ったのはディランの腰に掛けられた剣で、鞘に入っているとはいえ殺気を纏っている。
「無闇やたらと近づかないで下さい。次は躊躇なく斬りますよ。」
「ちょ、ディラン!メルドさんはいつもお世話になっている方で…。 」
「関係ないです。セルシア様を護衛するのが俺の任務ですから。」
「公爵様の仰られていた専属騎士の方ですか。僕はメルド・サリトゥスです。セルシア様とは教会を通してご懇意にさせていただいています。」
「聖サリトゥス教会の司祭の御子息でセルシア様へご婚約を申し込まれた方でもあります。」
「婚約…。」
「まだ良い返事は頂いてませんが、星祭りはご一緒してくださると約束して下さいました!楽しみなのでつい作りすぎてしまって。」
彼の手には派手なものを好まない彼女の好みであろうシンプルなドレスが抱えられており、好きなものを選んでほしいと笑顔を向けた。
楽しげにドレスを眺める彼女に複雑そうな顔をするディラン。
「メルドさんは唯一セルシア様の心を揺らしているんですよ。」
「…。」
「ふふふ。」
明らかにムッとしている彼を見て楽しげに笑うシンシアにドレスに夢中になっていたセルシアが気付いたのだろう。
不思議そうに彼へと視線を向けている。
「…星祭りとは何ですか。」
「最も寒い日に満天の星空へ願い事をするのが星祭りですよ。家族や恋仲の方々が一緒にお祭りを楽しめるように夜店も出ます。」
シンシアはディランの不満な気持ちをわかっていながらわざとらしくそう言うと彼の拳がぎゅっと握られていくのが見える。
恋心に気付いていなかったとはいえ、親友として過ごしていたセルシアは彼の纏うそれに気付いたようで早々に仕立て屋を後にするとドレスを受け取った彼女に帰るように伝え、町はずれに移動すると無言のままついてきたディランへと振り返った。
「大丈夫?」
「…。」
「メルドさんは本当に優しい方でっ。」
「そいつの名は出すな。」
「…?」
「婚約は断ったんだよな。」
「そうだけど。」
「けどなんだ。まさか気持ちがあるのか…。」
「ない!ないから!今から人を殺しに行きそうな怖い顔止めて。」
「星祭り…行くんだろ。」
「司祭様とお父様も一緒だよ。専属騎士としてディランも来てくれるでしょ?」
「…あぁ。」
「機嫌直った?」
「…。」
「眉間にシワが寄ってるよ。」
「これはいつもだ。」
「ふふ。そうだったね。ディランにとっては想定外かもしれないけど、私はこうしてまた一緒に居られてとても嬉しいよ。」
「それは俺も同じだ。好きな相手と一緒に居られて嬉しくないわけ無いだろ。」
「っ。」
「俺を優先してくれているのもわかったしな。」
先程までの雰囲気を一層して小さく笑みを浮かべると冷え始めた彼女の手を取り顔に寄せるとそっとキスを落とす。
今までディランから女性として扱われたことのなかったセルシアの頬を赤く染めるのには十分過ぎる効力だったようだ。
少しでも意識してもらえるようにスキンシップは多する必要があるだろう。
そんな事を考えながら彼女の愛おしい姿を眺めるのだった。