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3. 再会

馬車で3時間程でたどり着いた先は広大な土地に聳え立つ立派なお屋敷で、イントラ王国との規模の差に驚いていると室内へと促される。


「おお!君が剣聖と謡われるディラン・ハーミット君だね。私はアーノルド・ワンドールだ。セルシア、こちらへ。」


赤茶色の髪が印象的な中年男性はそう名乗ると隣りの部屋を開け、手招きする。

セルシアというのが公爵令嬢なのだろう。

初対面で失礼のないようにと姿勢を正してから視線を向けると銀色の長い髪が見えた。

伏せられていた長い睫毛が上げられると綺麗な青い瞳。

一瞬セルアと呼んでしまいそうになった自分を慌てて抑える。


「…っ。」


「セルシア、どうした?」


「い、いえ。なんでもありません。」


「ディラン・ハーミット君だ。彼は剣聖と言われているんだよ。」


「お強いのですね。」


「いえ、本国だけの話ですから。」


「本国だけだとしても素晴らしいことだよ。セルシアの専属騎士にぴったりだ。ディラン君、この子は少しやんちゃをするからしっかり手綱を握っていてくれ。」


「やんちゃですか…。」


か弱そうな見た目に見えるため、意外だったがセルアの時もそうだったか。

あれから部屋を案内するとアーノルドに連れられたディランを見送ってから緊張が解けたセルシアは近くにあったソファーに倒れ込んだ。

まさか彼が専属騎士として配属されるなんて…。

必死に隠し通したつもりだったが気付かれていないだろうかと自らの行動を振り返ってみるが正直必死すぎて殆ど覚えていない。

シンシアに手取り足取り教えられているとはいえ、まだ言動に男性的なところがあると昨日も指摘されたばかりということもあり、自信など皆無。

しばらく悶々と考えていたがもういいやと諦め、そのまま瞳を閉じる。

朝から少し身体が怠いと感じていたがさっきのあれで本格的に体調が悪くなってきたと眠気に逆らうことなく、そのまま眠りについた。

どれくらい時間が経ったのだろうか。

まだ全快とは言えないが、幾分ましになったとゆっくり瞼を開くと点滴が腕へと伸びている。

病院で見るそれとは違う構造だが、薬を入れるという時点では同じだ。

転生してから定期的に世話になっているからか。

驚くことはなかった。

それは病弱だった母による影響が多少彼女にも遺伝しているからで、あまり無理をし過ぎると体調不良に繋がってしまう。

そういえば、一度ディランの前で倒れてしまったことがあったなと当時を懐かしく思いながら身体を起こし、枕に預ける。

目を覚ましたときに見た彼の表情は今にも泣きそうで、吹き出してしまった。

後で散々文句を言われたが、それもいい思い出だ。


「セルシア。」


「…お父様?」


「体調はどうかな。」


「もう大丈夫です。」


「その割に顔色は良くない。やはりここは年中寒いから身体に負荷がかかるのか。」


「そんなことはありませんよ。少しはしゃぎすぎました。」


「村の子供達と雪合戦をしたとか。とても喜んでいたと聞いたよ。」


「ふふ。とてもいい子たちばかりで私のほうが楽しんでいたくらいです。」


思い出して笑みを浮かべていると先程まで不安そうな色を瞳に映していた父の表情が和らぐ。

良かったとホッとしているとディランの姿が見えた。

騎士特有の鎧ではなく、厚手の上下に銀色の胸部プレートという簡易的な物だが、半年の間に更に筋肉を付けたようで服の上からでもわかる。

それだけ遠征が過酷だったということだろう。


「エドワード君が来たようだし、私は職務に戻るとしよう。あとは頼んだよ。」


彼の方をポンと叩きながら部屋を出ていった父にいつの間に仲良くなったのだろうと違和感を感じながら見送った。

セルアの頃は気にせず色んな話ができたのに公爵令嬢という立場では何を話せばいいのかわからないと視線を窓の外へと移す。

シンシンと降り積もる雪は何度見ても綺麗だ。


「…大丈夫ですか?」


「少し遊び過ぎただけですから。それよりまだこちらについたばかりでお疲れでしょう。お部屋で休んで下さいね。」


「いえ、船旅は時間を持て余しますから。席を外したほうが良ければ…。」


「いいえ。では何かお話しましょうか。騎士団のお仕事はどんなことされるのですか?」


「配属部署によりますが、俺は基本遠征ですね。つい先日もゴブリン討伐任務についていました。」


「怪我をされたりは…?」


「かすり傷程度ですから。」


「そう…良かった…。」


「?」


「いえ、なんでもありませんよ。ゴブリンといえば、国境あたりに棲み着いてるとか。こちらでも被害が出始めてると聞きます。繁殖力がすごい上に強靭な肉体と腕力で圧倒する存在…。」


「詳しいんですね。」


「たまたまお出掛けしたときに…。」


「セルシアお嬢様、嘘はいけませんよ。お出掛けするたびに自ら危険に飛び込んでいますよね。」


「ご令嬢である貴方が何故そこまで興味を?」


「私でも何かできる事があればと思いまして。」


「こいうところばかり頑固なんですよ。普段はご自分の意見を伝えようともしてくださらないのに。」


わざとらしく大きなため息を零して見せるシンシアに苦笑しながらディランへ視線を向けるが相変わらず何を考えてるかわからない。

女性に興味がないのか。

学園を卒業するまでの間、一度たりとも浮ついた話を聞いたことがなかった。


「そういえばお嬢様は婚約者候補についても譲られませんよね。もしかしてすでに想いを寄せる殿方が!?どなたですか!?まさか例の…。」


「違います。今はまだ考えられないだけですから。」


「ディラン様、どう思いますか。」


「いや、俺は…。」


「確か、ディラン様もセルシアお嬢様と同じ年頃だと聞きました。ご婚約は?」


「騎士として一人前になるまでは考えてないですね。」


「なるほど。既に想い人がいるのですね。」


「え?シンシア、何故そうなるのですか?」


「ふふ。そうですよね。」


「…。」


「…しますよ。」


彼の耳元で何かを囁いたシンシアだったが、何を言ったのだろう。

答えるつもりのない雰囲気を纏うディランに無理に聞くことはできないと諦めるのだった。

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