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2. 卒業

あれから1年と半年が過ぎ。

無事卒業したセルアもといセルシアは隣国であるフレイム王国の父の元へと戻り、女性とは何たるかを侍女であるシンシアから学ぶ日々を過ごしている。

ハーフアップにされた銀色の髪を煩わしく払いのけながら小さくため息を溢した。

卒業する3年ほど前から伸ばし始めたこともあり、セミロングになったそれはショートを好んでいた彼女には煩わしいようだが、髪色の違いと化粧でセルアと彼女が同一人物だと気付く者は早々いないだろう。

18歳にもなって婚約者がいないことで行き遅れの令嬢なんて影では呼ばれているらしいが、結婚歴のない元アラサーの私がそんなことくらいで傷付くはずもなく。

婚約者候補達を次々と断り続けていた。


「セルシア。このままでは本当に行き遅れてしまうよ?」


「お父様…。やっと女性として生きることができたのですから、もう少し堪能してはいけませんか?」


「そうか、そうだね。ならせめて専属騎士を雇おう。屋敷周りは良いが、最近物騒な話もよく聞く。」


「心配はいりません。これでも私、学園では一、二を争うくらいの腕前でしたから。」


「それは知っているよ。でも今は公爵令嬢として生活しているのだから騎士も連れずに外出を許可するわけにはいかないんだ。妻を亡くした私にとってセルシアがどれほど大切かわかるだろう?毎日、怪我をして帰ってくるんじゃないかと心配で職務も手につかない。」


「…わかりました。そこまで心配されるのなら専属騎士の件、お受けいたします。」


「ありがとう。シンシア、早速彼を呼び寄せてくれ。」


父のその言葉に最初からそのつもりだったのかと呆れながら、どんな人が来るのだろうと視線を遠くに移すのだった。

その頃。

イントラ王国騎士団に所属するディランはゴブリン退治の遠征を終え、今しがた到着したようだ。


「ディラン、ご苦労だったな。相当量のゴブリンを殆ど一人で倒したとか。お前は本当にすごいぜ。」


「いえ、まだまだ未熟です。」


「何を言っている?お前を凌駕する者などこの騎士団には居ないだろう。」


「…騎士団にはいませんが、ずっと勝てない相手がいましたから。」


「本当か!?そいつは誰だ?」


「学園で出会った公爵子息です。」


「公爵子息…他国の者か?この国には令嬢しか居ないはずだ。」


「はい。フレイム王国に住んでいると聞きました。」


「フレイム王国?あそこも令嬢しか…。」


「ディラン!騎士団長が呼んでるぞ。」


その言葉で話を切り上げると、騎士団長のいる部屋へと向かえばすぐに入れと言う声が聞こえてきた。

中央の大きなデスクに筋骨隆々な髭を生やした中年男性が威圧感を放ちながらこちらを見据えている。


「ディラン。お前はフレイム王国のワンドール公爵を知っているか?」


「お名前は存じています。」


「そこから専属騎士の依頼が来た。」


「そうですか。」


「そうですかじゃないぞ。お前が行くんだ。」


「俺、ですか?」


「あぁ。このワンドール公爵は国内外から支持されるほどの切れ者でな。国王陛下も大層恩義のある方だそうだ。そんな彼が娘の専属騎士を探していると話したらしい。それを聞いた国王陛下が剣聖の称号を持つお前を派遣すると約束した。」


国王陛下の命令とあれば、自分に拒否権などない。

フレイム王国なら親友であるセルアに会いに行くのに丁度いいと了承すれば、支度が済んだらすぐにでも向かうように指示が出された。


「ディラン、父から念のため言っておく。」


「騎士団長ではなく父上の立場からですか?」


「そうだ。騎士団員の時は多少男臭くても構わないが、相手は公爵令嬢だ。ちゃんと風呂に入ってから行くんだぞ。」


「…さすがにそれくらいはわかってます。」


大きくため息を溢しながら自室に戻っていく。

臭うと言う意味だろうが、仕方がないだろう。

遠征に出ている間は野宿が多く、川や湖が無ければ水浴び等できないのだ。

鎧を掛け、剣を置くとシャワーを浴びるべく服を脱いでいく。

ほんの好奇心で上着を嗅いでみると、自分の臭いでも気持ち悪くなりそうだと一緒に風呂場へと持ち込んだ。

桶に組んだ湯に洗剤を入れ、臭う服を漬け込んでいる間に身体の隅々まで綺麗に洗っていく。

全て洗い終え、父が用意させていたであろう湯船に浸かればその気持ちよさに思わずため息が出た。


「…セルア、今頃何しているんだろうな。あいつはモテるから婚約したか。くっそ。アイツが女だったら迷わず引き留められたのに…。」


苦虫を嚙み潰したよう表情をしながら拳を握り込みながら初めての手合わせを思い出していた。

学園に入学してからセルアと出会うまで剣聖という称号を思うがままにしていた自分にとって初めて負けたのが彼だ。

筋肉もなく、ひ弱そうな見た目なのに知りもしない令嬢のために怒りをあらわにしたセルアは試合を申し込んできた。

あんな奴に負けるはずないと始めた手合わせは一瞬で勝負がついたことに始めは何が起きたのだと信じられなかったが。

彼との間にある圧倒的な実力差。

騎士団長の父ですら勝てなかった俺がこんなにあっさり負けてしまったことに悲しいより笑えてくる。

それからだろう。

セルアのことが気になり目で追うようになったのは。

誰に対しても優しく、特に女性に対しての扱いは丁寧で色んな令嬢から好意を寄せられていた。

まさか自分まで彼を好きになったと気付いた時には、同性という立場に相当落ち込んだりしたものだ。

この遠征で吹っ切れるものだと思っていたがそんなことはない。

野宿をしている時もセルアは今どうしているのだろうとそればかりが気になっていた。

遠征が終わったら長期休暇を貰えると聞いていたため、彼に伝えないままフレイム王国に行くつもりだったが、もし婚約者を隣りに連れたセルアを目にしたら俺はどうするのだろうか。

自問自答しながら浸かっていると長風呂だったようで騎士団長であり、父である彼の急かす声が聞こえてきた。

身の回りの物から鎧や剣も全て公爵が準備済みだと言われ、身一つで乗り込まされた船に揺られること1週間。

フレイム王国という名だが、ここは1年の殆どが冬の季節というとても寒い土地だ。

船から下りると銀髪のメイド服姿の女性が近づいてきた。


「貴方がイントラ王国騎士団から派遣された専属騎士のディラン様ですか?」


「そうだが。」


「申し遅れました。わたくし、ワンドール公爵様にお仕えしている侍女のシンシアと申します。貴方を屋敷まで案内するよう仰せつかっておりますのでこちらへ。」


彼女が案内した先には立派な馬車が準備され、コーチ内へと促される。

公爵令嬢とはどんな人物だろうかと視線を窓の外へと向けながら考えるのだった。

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