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1. 始まり

私の名はセルア・ワンドール。

本当の名はセルシア・ルツ・ワンドール。

ワンドール公爵家の一人娘であり、所謂転生者だ。

元の私はアラサーまっしぐらのどこにでもいる普通の会社員で、事故に巻き込まれて転生という漫画でよくある展開に巻き込まれた。

西洋人らしい整った容姿は純日本人からすれば両手を上げて喜ぶものだが、何故男装令嬢なのか。

見た目が中性的だけに似合っているけれど、ここまで来るのに苦労の連続だったと大きなため息を溢した。

彼女が男装令嬢になったのはワンドール公爵家が他国にも強い権力を有する存在というのが大きく関わっている。

そんな公爵の一人娘ともなれば彼の舵を取りたい悪人達がここぞとばかりに彼女を狙うという。

いつか起こるかもしれないと危惧した父によって今まで男性として育てられ、弛まぬ努力の末。

座学は勿論、剣技の授業でも常にトップの成績を維持していたりする。

今日もまた手合わせを終え挨拶を済ませてから汗ばんだ首元をタオルで拭いていると、制服である黄色のドレスに身を包んだ女子生徒達が駆け寄ってきた。


「セルア様!」


「?」


「クリシア様からお話があるそうです。」


「クリシア様、恥ずかしがらずに仰ってください。」


「そうですわ。セルア様もお忙しいのですから。」


「…っ。」


勢いのある彼女達に囲まれていたのは桃色の髪に銀色の瞳をした小柄な美少女で、瞳いっぱいに涙をためている。


「ゆっくりで大丈夫だよ。ここでは話しづらければ移動しようか。」


彼女に手を差し出せば、一瞬戸惑いを見せていたがそろりと小さな手のひらが載せられた。

エスコートしながら人気のない小部屋へと移動すると緊張しているのか。

クリシアは顔を真っ赤にしたまま俯いた。


「ここならしばらくいいかな。少しは落ち着いた?」


「…はぃ。」


「良かった。それで、僕に用があるんだよね?」


「はい…。あの…わたくし…。」


「うん。」


「…セルア様のこと…以前からお慕いして…もしよろしければ、婚約者候補にしてはいただけないでしょうか…。」


不安そうな視線を向けながらそういった彼女にどうしたものかと思案した。

男装しているとはいえ、生物学上は女性なのだ。

婚約者候補は異性に限られているため、承諾することなどできるはずもない。

しかし、学園の皆は私を男性として認知しているため、このように婚約者候補になりたいと幾人もの令嬢達が申し出てくるのだ。

公式に候補としてしまえば、自らの首を締めることになると断り続けていたのだが、クリシアの儚げな姿に簡単に断ることができなかった。

返答次第で絶望し、命を断ってしまいそうに感じたからだ。


「その申し出はとても光栄だけど…。」


「…わたくしでは…だめですか…?」


「そうじゃないよ。ただ、君の事をよく知らないのに簡単に婚約者候補にするなんて無責任なことはしたくないんだ。だから、友達から始めるってのはどうかな。」


「お友達…?」


「そう。一緒に食事をしたり、ティータイムを過ごしたりさ。」


笑みを浮かべてそういえばしばらく考えるような仕草を見せた彼女だったがふんわりと顔を綻ばせる。

良かった。

納得してくれたようだと安心しながら彼女を見送ると、見計らったかのように頭2つ分背の高い筋骨隆々な男性が近づいてくる。

彼の名はディラン・ハーミット。

学生でありながら剣聖の称号を持つ才能マンで容姿端麗なその姿に女性キラーと呼ばれる存在だ。

とはいえ、ディランはあまり女性に興味が無いのか。

騎士団員とはそれなりに話しているところは見かけるが、女性との噂は聞いたことがない。

そんなことを考えていると、無表情の彼が口を開いた。


「次はクリシア嬢か。」


「どこから見てた?」


「話があるってところからだな。」


「最初からじゃないか。」


「この国の公爵令嬢なら釣り合うだろ。何故断った。」


「断ってはないよ。友達からとそう言っただけ。」


「同じことだろ。他の子息は皆、婚約者候補を何人も抱えてるんだ。来年には卒業するのに一人も居ないのはお前だけだ。」


ディランのその言葉に卒業かと視線を遠くに向ける。

父との約束が果たされるその日まであと1年。

やっと公爵子息ではなく公爵令嬢として普通の生活が送れるようになるのだと嬉しい気持ちの反面、そうなれば父の居る隣国へと戻らなければならないというのは少し寂しい。


「どうした?」


「もうそんな時期かと思ってね。」


「…国に帰るのか。」


「そうだね。手紙でやり取りをしているとはいえ、父も心配しているみたいだし。」


「…そうだな。」


遠くを見ながら同意したディランからも少し寂しそうな表情が見え、同じ気持ちなのかと少し胸が暖かくなった。

この学園に初めて入学したのが今から5年前。

初めてであった頃の彼は無表情で冷たい印象を受け、近寄りがたい雰囲気を醸し出すそんな存在だったが、今では互いに親友として認め合うほどの仲だ。


「ディランは本格的に騎士団員として活動するんだよね?」


「あぁ、最近は森のゴブリンやオークが国境付近の村を襲撃する回数が増えているらしいからな。遠征することになるらしい。」


「お互い忙しくなりそうだ。」


「…落ち着いたら遊びに来ればいい。」


「そう、だね。」


歯切れの悪い答えに怪訝そうな表情をするディランを笑顔で誤魔化す。

それは国に戻り女性に戻るということは、セルアとして彼と二度と会うことが出来なくなることを意味しているからだ。

沈みそうになる気持ちを切り替え、あと1年。

親友との思い出をたくさん作ろうとそう心に決めて学園生活を送るのだった

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