中の人なんていない
その日の夜。
ナニか起きるのでは、と俺は胸や鼻や期待やその他色んなモノを膨らませていた。
だが、夕飯を食べた高級レストランの料金もホテル持ちと知った青ちゃんは、高級酒をガバガバ飲み通常運転。
部屋に戻って、ふたつあったキングサイズのベッドに、俺たちは一人ずつ寝転んだ。
おかげで広々と使うことができたけど、なんか肩透かしを食らった気分だった。
青ちゃんにとっては、頬にキスするくらいちょっとした挨拶レベルなんだろうか。
悶々としているうちに寝てしまい、朝を迎えた。
むくりと起きると、記憶にある限りでは、ルームウェアを着ていたはずの青ちゃんは、今はバスローブを着てベッドで眠っている。
それがはだけているせいで、太ももは付け根あたりまで丸見えで、わがままボディが七割くらい露出していた。
「朝からなんてありがたい――間違えた。なんて恰好を……」
俺はチラ見を繰り返しながら、毛布を掛けてあげる。
「先生、朝食行きましょ」
「ううう……今は無理ぃ……」
どうやら昨日の酒が抜けきらないらしい。
「先行ってますね」
俺は青ちゃんを部屋に置いて、ビュッフェ会場があるダイニングに向かった。
「あれ――?」
会場には人がたくさんいたけど、見覚えのあるキャラが一人いた。
「ガーリング!」
思わず声が出てしまった俺は、つかつかと大柄のおっさんに歩み寄っていく。
やっぱりそうだ!
ガーリングは、俺が『ガーディアンズ』で遊んでいたとき、よくパーティを組んだりDMで色々やり取りした知人のキャラだった。
【重魔騎士】のおっさんキャラのガーリングは、まさしく俺が知っているそのもので、今はラフな恰好していて装備は何もしてないけど、その顔を忘れるはずがない。
「なんだおまえ」
「あ、そっか、俺持ちキャラじゃないから――」
いや、待てよ?
ゲームなら中の人――プレイヤーがいるけど、ここはあのゲームそのものではない。じゃあ、中の人なんていないのか?
「シナリオ最終章を一緒にクリアしたモルモルです」
「何を言ってるんだおまえ?」
不審そうな目で見つめられ、俺は作り笑顔で「人違いでした、すみません」とその場を去った。
「絶対そうなんだけどなぁ……」
と、俺はまたガーリングを振り返ってつぶやく。
あの人なら、俺のIDネームを出してわからないはずがない。一番仲良かったから。
「じゃあ、ガーリングはNPCみたいなもんで、プレイヤーが操作してるわけじゃないってことか。……でもキャラ自体は存在してるんだなぁ。変な世界」
たまたまなのか。それとも、まだ他にもいるってことか?
青ちゃんを待ちながらのんびり朝食をとっていると、いつの間にかいなくなったガーリングが、ホテルから出ていくところが見えた。
ゴツい盾を背負って、重そうな鎧を身にまとい、腰には自慢の魔法剣が差してあった。
装備は俺が知っているもの。
レベルは六五で知っているものより低い。
「ここは、あの世界のパラレルワールドみたいなもんなのかな」
独り言をつぶやいて、青ちゃんがやってきそうにないので、俺は部屋に戻った。
「知り合いがいるんだね!」
このことを体調が回復した青ちゃんに言ったけど、あんまり理解してなかった。
「知り合いなんですけど、違うみたいで」
「人違いだったの?」
「いえ、合ってます」
「じゃあ知り合いじゃん」
「プレイヤー自身は俺と仲が良い友達なんです。でもいたのはキャラそのもので、プレイヤーが中にいるんじゃなくて独自の人格を持っていたんです」
「……? なんだかすごいね?」
全然わかってないってことがわかった。
俺たちはその日、ホテルや海周辺を観光した。
要するにほぼデート。
超楽しかった。
けど、昨日の海でのことはお互い触れなかった。
青ちゃんの中で、あれは特別なことじゃなかった――そういうものだと思うようにした。
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