41.セシリア
セシリアが無事、歌姫の選定に通った。
ケイトリンはすぐにお祝いを言いにユティア公爵邸に行った。
「怖かったのよー!!」
セシリアが叫んだ。
「みんな、すごいの。ツンツンのトッゲトゲ。どうしたらあんなにギラギラできるのかしら。ついてきてる人たちもギラギラしてる人ばかり。」
セシリアはそういいながら、部屋の中を忙しなく歩き回った。
歌姫選定ですれ違った令嬢たちの気位の高さに、すっかり調子を崩されてしまったらしい。
付き添ったレイフォードは、全くダメでした。と苦笑した。
課題の賛美歌は、途中で歌が止まってしまい、得意のピアノは晴天なのに雨が降り出したらしい。
それでも、選定には通った。
セシリアが歌姫になれるかどうか。
王族内では長いこと話し合いが行われていた。
セシリアの本物の力を危惧して、国王は神殿に入ることを反対していた。
この一年は、セシリアは何度も国王との面会を重ねてやっと選定に出る許可をもらった。
だが、選定に出て、神殿に入るかどうかは未だはっきりした答えはなかった。
ここで、やっと答えが出されたのだ。
ケイトリンは選定に受かって晴れて歌姫になれたことに胸をなでおろしたが、今日のセシリアの様子を見て不安になってきた。あまりにも不安定だ。
歌姫は神殿で共同生活をする。
セシリアほどの高位なら侍女の一名くらいは連れていけると聞いたが、今まで通りの生活はできない。
神殿に入るのはひと月後。
それまでに落ち着いてくれればいいが、と執事のレイフォードもため息をついた。
「先生、ここにいてー。帰らないで!」
セシリアはケイトリンに抱きついた。
セシリアはすっかり大きくなり、背もケイトリンに近づいている。体も女性らしくなり、姿だけみればどこに出しても恥ずかしくない公爵令嬢だった。
だが、ケイトリンの前では特に甘えん坊の出会った頃の8歳のセシリアと変わらない。
「分かったわ。セシリア。神殿に入るまでは出来るだけ顔を見に来るわね。ピアノと歌のレッスンもあるし、神殿に入るための準備もあるから、忙しいわよ。落ち着いて準備しないと、せっかく受かったのにすぐに引いてきちゃうなんてもったいないから。」
「いつまでいなきゃいけないの⁈あそこ、怖いわ。王宮くらい怖い!」
「心配しないで、セシリア。たまたまあった人たちが怖かっただけよ。あそこにいた人たちみんなが歌姫になるわけではないのよ。」
こんなことで、神殿でほかの歌姫たちと一緒に出来るのだろうか。ケイトリンは本気で心配になってきた。
セシリアは城の時と同じように、屋敷にいてくれ、と泣きついたが、ケイトリンは帰らなければいけなかった。
「ごめんなさいね。甥と約束してるの。今日は泊まれないわ。明日も来るから。」
「男の子の方が強いのよー。わたしは女の子なんだから、弱いのよ。」
「5歳の子と張り合って何言ってるんですか!あなたはもう15歳なんですよ!」
レイフォードがセシリアとケイトリンの間に入って、セシリアを叱った。
「だってー!」
「ケイトリン様にもご家族がいらっしゃるのですよ。ここはオロランド城ではないのです。ケイトリン様のご実家があるのです!」
うううう、セシリアはレイフォードにしがみついていた。ケイトリンは優しくセシリアを撫でた。
「いい子ね、セシリア。神殿に入ったらこんな風にいつでも会えるっていうわけにはいかなくなるわ。少し練習よ。」
はーい、とセシリアはしぶしぶ答えた。
選定が終われば、すぐにでも領地に戻るつもりだったが、ひと月滞在が伸びたことに、ユグノーはとても喜んでいた。




