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ふきだまり  作者: 村松康弘
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男達のメロディー 8

 ダークグリーンのニット帽の男がハイエース後部のスライドドアを開ける。グレーの帽子の男はねじり上げた横瀬の両手首を結束バンドで拘束し、後部座席に押し込んだ。

 スライドドアが閉められると、横瀬の視界は真っ暗になった。三方の窓にはパネルらしきものが嵌められ、運転席と後部座席の間には仕切りが設けてあるようだ。まるで拉致専用に作られたような車だった。

 エンジンが掛かり、ハイエースが動き出した。周囲がなにも見えない状況では、予期しない振動や揺動があるので、背もたれにつかまり転がらないよう足を踏ん張る。

 横瀬はカーブでの身体の傾きや発進停止でどこへ向かっているか想像したが、住んでいる地域でもないので皆目見当もつかない。

 スマホは胸ポケットに入っているので、身体を傾けて服から出せばどうにか掛けることができるかもしれないが、やらなかった。自分で判断して動いたことだ、どうなろうと自己責任で解決するべきだし、どうにもならないならそれまでだ。(誰にも迷惑をかけたくない、……運が悪けりゃ死ぬだけさ。)

 車は信号での停止と発進を繰り返していたが、それとは違う止まり方をした。運転席と助手席のドアが開く音も聞こえる。どうやら目的地のようだ、横瀬の感覚では30分ほど経っていると感じる。

 スライドドアが開くと同時に頭に紙袋のようなものをかぶせられた、一瞬外が見えたが見覚えのない建物の壁が見えただけだった。

 どちらかの男に肩をつかまれると、歩け、と命令してきた。ふたりは無感情で淡々と任務を遂行しているといった感じだ。話す声も一切なかった。

 

 ――シャッターを上げる音がして背中を押される、背後にまたシャッターの音がした時、視界が晴れた。20坪ほどの倉庫のようだ、赤い鉄骨や波形のスレートの壁が見える。天井の梁にチェーンで吊った蛍光灯が点いている。壁には窓がないので夜のように感じた。

 真ん中に事務用のトレー机があり、横瀬はパイプ椅子に座らされた。グリーン帽の男が黒い結束バンドで、横瀬の足首も拘束する。

 礼服を探られ所持品は机の上に出される。スマホ、タバコ、使い捨てライター、財布、線香、それだけだった。BMWの鍵と一緒にした横浜の店の鍵とマンションの鍵は、念のために黒崎に預けた方がいいとフジが言ったのでそうした。

「所持品はこれだけか? ……店と自宅の鍵はどうした?」

 グレー帽が聞いてきたが横瀬は黙っていた。少し間を置いたあと拳が飛んでくる、強烈な一発が左頬にヒットして、勢いで椅子から転がり落ちる。口の中が切れて折れた歯が1本飛び出した。……グリーン帽に首根っこをつかまれ、椅子に座らせられる。


 ……奥のドアが開いて男が入ってきた、横瀬はその男に見覚えがあった。

 横浜の店に柳橋とともに何度か来た男だ、名前は佐戸山。もらった名刺には『G.Wウイング 貿易部長』という肩書があった。小柄でズングリしていて頭は禿げ上がっている、年齢は柳橋と同じぐらいに見えるが見た目は対照的だった。

「横瀬さん、昨日は思い切ったことしてくれたね。スナックのマスター風情が殺し屋みてえなマネしてくれて」

 怒りを抑えて無理に笑顔を作っている。

「大損害だよ。……あんたの店とマンションでももらわねえと合わねえから家探ししたんだが、権利書がどこにもねえ。……それとあんた、警察に自首するって言ってるらしいが、とんでもねえ話だ。今さら金田の事故死のことをほじくり返されちゃ困るんだよ。……とにかく権利書がどこにあるか教えてもらおうか」

 佐戸山は店では決して見せなかった三白眼をギラつかせている。

 机の上のスマホが鳴った、画面に『黒崎マコト』の文字が見える。グリーン帽が取り上げると床に叩きつける、途端に音は止む。

「お前ら、権利書の在りかを吐かせろ。……しょせん素人だ、根気よくシメりゃ吐くだろう」

 佐戸山はそういうと奥のドアから出て行った。

 見送ったふたりは、ちっ!、と舌打ちをすると、なにか罵っている。やがて横瀬に向いて言った。

「そういうことなんで早いとこ吐いちまいなよ、俺等も面倒くさいことはしたくない」

 グレー帽が正面に立つと顔に右、左と拳を出してきた。確実にヒットして身体ごと持っていかれるが倒れさせないために、横瀬の背後でグリーン帽が肩を支えていた。

 さあ、と言いながら今度は重い拳を鳩尾に叩きこんできた。うっ!、と呻いたまま息ができなくなる。グリーン帽の手が離れると、横瀬は身体を折って床に倒れた。そこでやっと息を吸い込むことができた。

 その代わり、グレー帽の靴が全身に飛んできた。くまなく蹴りつけてくる。それはさほど強くないが一定のリズムで蹴り続ける。横瀬は転がったまま全身から脂汗が滲み出てきた、若いころはさんざん喧嘩をしたが、こういう攻撃は初めてだ。闘争心を感じる暴力ではない、まるで猫が鼠をいたぶるような陰湿で執拗なものだった。グレー帽がサングラスの下で笑っているような気がした。

「あんた、そろそろ心が壊れちまうぜ。こうやって続けていると、身体より心の方が参っちまうのさ。……さあ、早いとこ吐きなよ」

 横瀬はひたすら耐えている、延々と続く攻撃に恐怖を覚えるが、横瀬は決めた。(店やマンションなんて惜しくはない、俺が自首すればどうせ使うことはない、たとえこいつらに取られてもどうということもない。……だが俺は口を割らないことに決めた、死んでも口を割らないと決めた。俺の最後のプライドだ)

 蹴りに苛立ちが表れた、グレー帽の足が強くなり、腹に入った一発で横瀬は意識が飛んだ。

 



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