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ふきだまり  作者: 村松康弘
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男達のメロディー 7

 ――カウベルを鳴らしてドアが開く、振り向いた横瀬と入ってきたフジの目が合う。ふたりはその姿勢のまましばし止まった。……同類に出会ったと互いに感じたのかもしれない。

 フジは横瀬の風体に目を移すと怪訝な表情を浮かべた。普通の人間よりも血の匂いに敏感な男だから、それは当然といえば当然だ。

「俺の古くからのダチだ、金田と共通の」

 黒崎が言うとフジは眉をひそめてなにか思案したようだが、黙って定位置の右端のスツールに腰を落ち着けた。ポールモールに火を点けたが釈然としない顔をしている。

 ターキーのボトルとグラスを目の前に置くと、現在までのいきさつをかいつまんで話す。横浜の組織の顔役ともいえる柳橋の殺害の件に触れると、フジは深刻な表情でため息を吐いた。

 黒崎は横瀬のグラスにジャックを注ぎながら言った。

「クニ、これからどうするつもりだ」

「……夜が明けたら金田の家族の元に謝罪に行く、そしてヨシの墓参りをさせてもらいたいと思っている。……そのあと警察に行って自首するつもりだ」

 黒崎はうなづいたがフジが口をはさんだ。

「横瀬さん、そう思い通りに動けるかどうか……、横浜の組織は生半可な連中じゃねえらしい。った柳橋だって番頭程度の男だ。もしかしたら白馬の別荘なんて大元に監視されていて、一部始終お見通しの可能性もある。……横瀬さんの車は置き去りのままだろう、まあそれは柳橋の死体も含めて連中の手で、もう片付けられてるとは思うが。……ヤツらを甘く見ねえ方がいい、運ちゃんの時もそうだったが、消すとなりゃどんな手を使ってでも消しに来るぜ」

 ジャックをひと息であおると横瀬が言った。

「覚悟はできてる、運が悪けりゃ死ぬだけさ……」


 ――翌日の昼間、横瀬は礼服一式と供花を買い、黒崎に教えてもらった金田の家までタクシーで向かった。

 郊外にある小ぢんまりした一戸建ては、金田が5年前に中古で買ったと言っていた。デザインや外壁の感じから築20年は経っていそうだった。今日は日曜日なので在宅しているだろうと思って来たが、家は静まり返っている。

 横瀬は玄関のチャイムを鳴らした、少ししてからインターフォンに反応があった。

「……はい」

「恐れ入ります、私、金田義和君の昔からの友達で、横瀬と申します。……今日は金田君のことで参りました」

 玄関の右側の居間らしき部屋のカーテンが開いて、そこから小学生ぐらいの男の子がこっちを見た。横瀬は目を合わすが少年は無表情だ。やがてシャッとカーテンは閉じられる。金田の妻らしい声が返ってきた。

「……横瀬さんて、横浜の方でしょうか」

「はい、そうです。……今日は金田君のことで謝罪に参りました」

 そこで反応は途絶える、しばらくして不快感を露わにした返事が返ってきた。

「申し訳ありませんが、横瀬さんとお話しすることはございません。……お引き取りください」

 横瀬はそういった反応を予想していた、だが言葉は胸をえぐるように痛かった。ひと呼吸置いてから答える。

「……わかりました、申し訳ありません。失礼します」

 そう言うと深々と頭を下げる。そして内ポケットから封筒を出すと、郵便受けに落とし込む。中身は詫びのつもりの数十枚の札だった。

 

 最寄りのバス停から市街地行きのバスに乗りターミナルまで行くと、山手方面行きに乗る。金田の墓がある霊園へ行く路線は黒崎から聞いておいた。

 30分ほど揺られると目的のバス停で降りた、市街地の北側にある大きな寺院附属の霊園だった。

 多数の墓石が並ぶ小径を歩き、『金田家』の墓所を見つける。墓石はまだ新しい、金田の死を機会に建立されたものだろう。

 花立に供花を挿し、ポケットから線香を出して供える、手を合わすと金田とのさまざまな思い出が甦ってきた。それは中学生の頃のものが多かったが、最後に会った時の嬉しそうな笑顔が浮かんできて、知らないうちに涙があふれてきた。


 横瀬は墓標になってしまった金田に別れを告げて霊園の小径を歩き、バス停のある県道へと歩いていく。……途中、背後に気配を感じ振り向いた。ふたりの男が横瀬に寄って来るところだった。

 ニット帽にサングラス、マスクをしているので顔はわからないが、服装から見て横瀬と同世代の雰囲気だ。ふたりとも横瀬と同じぐらい大柄だった。

 横瀬が向き直るとふたりと真正面で対峙する格好になった。

「横瀬さんだね、俺たちと一緒に来てもらおうか」

 右側の男が言った、低い声だが抑揚のない事務的な話し方だ。

「無理だな、俺はこれから警察に出頭するところだ……」

 言い終わる前に左の男が拳を飛ばしてくる、横瀬はスウェイバックで躱したあと構えた。左手の拳をよけ横瀬から右パンチを繰り出す、相手は左腕で受けた。

 その瞬間、右側の男がスッとスライドして視界から消えた。……次の瞬間、腹に強烈な衝撃を受ける、右の男の重いパンチが腹にめり込んでいた。うっ、と呻くと横瀬は体を折りかけた。そこへ右の男の膝が突き上げられる。顔面にまともに食らった。痛みを感じる隙もなく、背後に回り込んでいた男に腕を捩じ上げられる。……どうにもならなかった。

「さあ歩け」

 呼吸ひとつ乱れていない声が背に聞こえる。(……横浜の組織のヤツらだろうか、フジとやらが言ってたように甘い連中じゃなさそうだ)

 横瀬はふたりにはさまれたまま霊園を出ると、黒いハイエースが待っていた。

 



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