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ふきだまり  作者: 村松康弘
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男達のメロディー 6

 激しい怒りはそのままアクセルに伝わり、BMWは弾丸のように敷地を駆けて建物に向かっていく。

 玄関アプローチ手前の段に突っ込むと、接触したバンパー下部がもぎ取られタイヤが激しくバウンドする。一段を乗り越えると跳ね上がるが、もう一段をも越えていく。そして派手な破壊音とともにドアに激突した。ドアノブが吹っ飛び、厚手の木製ドアが中央あたりでへし折れる。

 横瀬はATレバーをリバースに入れると、フルアクセルで後退する。段を抜けると車体は大きく揺れた。もぎ取られたバンパーがタイヤを擦って嫌な音をたてる。ゲレンデヴァーゲンを過ぎたあたりまでバックすると、再びドライブに叩きこんで挑んでいく。加速をつけて段差に当たった衝撃で右前タイヤがバーストしたが構わずに突っ込む。ヘッドライトの割れる音とともに、へし折れた玄関ドアが内側にぶっ倒れた。

 その瞬間、BMWのひしゃげたボンネットから煙のようなものが上がる。衝撃でパンクしたラジエーターから噴出した冷却水が、加熱したエンジンにぶっかかりもうもうと水蒸気を上げているのだ。

 横瀬は瀕死のBMWを無理やりバックさせると、運転席を飛び出す。倒れた玄関ドアを踏み越えて建物内に乗り込んでいく。そして咆哮の声を上げた。

「柳橋! 出てこい!」

 目の前に大きなドアの透かしガラスを蹴り砕く、ドアの向こうは広いリビングになっていた。ポケットからシースナイフを取り出し、室内を見回すが柳橋も女もそこにはいない。

 ……横瀬のすぐ脇で銃声がした、頭の近くをかすめた銃弾は、部屋の奥にある馬鹿でかい液晶テレビの画面に飛び込んだ。横瀬は床に回転しながら避けると、2発目が追ってきた。それはフローリングに突き刺さる。意を決して飛び上がり、ソファーを越えてその陰に入り銃声の発射元を見定めた。

 キッチンの入り口で拳銃を構えた柳橋が立っている。なでつけたシルバーグレーの頭髪は乱れ、蒼白な顔色だがギラギラした目は異様なほど見開いていた。

「横瀬、お前が金田のことを調べなけりゃこんなことにはならなかったのにな、しかしすべてを知ってしまったから仕方ない、死んでもらう、金田のようにな。……それとお前の犬になった里美は今ごろ、埠頭のそばの水の底だ」

 金田の名を聞いてカッと血がのぼった、そして里美まで同じ目に遭わせたことを知り、横瀬の怒りは沸点に達した。横瀬はそのまま跳ね起きると、ナイフを構えて柳橋に向かって駆けだす。ヤツが構えている拳銃など怖くもない。(運が悪けりゃ死ぬだけさ、だが貴様は絶対に殺す!)

 横瀬は叫び声をあげて柳橋の真正面から突っ込んでいく、ナイフを振りかざして躍りかかる。勢いに怯んだ柳橋が構えを解きながら後ずさりする、そして背を向けて逃げようとした。

 渾身の力を込めてその背にナイフを突き刺す、そして引き抜く。途端に血が噴き出した。

「ぐあああ……!」

 柳橋は拳銃を落として悶え、壁にぶつかって倒れた。横瀬はその顔面に鋭い蹴りを入れる、鼻骨と前歯が同時に折れる感触があった。足元に飛んだ柳橋の眼鏡をバリバリと踏み砕いた。

 叫び声をあげている柳橋を靴で仰向けにすると、その上に馬乗りになり見下ろして言った。

「貴様のようなウジ虫は殺すしかねえ、覚悟しろ」

「ま、待て、待ってくれ! 金だ金はいくらでもある。なあ、金で手を打とうじゃないか、頼む!」

「金田は貴様がエサにした薄汚ねえ金のせいで死んだ、……そして里美まで殺しやがった。誰が金なんかいるか」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 横瀬はもう聞く耳など持ってはいない、両手に握ったナイフを柳橋の腹の深くに突き立てる。断末魔の声を聞きながら引き抜くと、血が吹き上がって横瀬の腹部にぶっかかる。何度か突き刺した頃、柳橋は物言わぬ物体と化した。

 立ち上がって振り向くとさっきまで横瀬がいたリビングに女が倒れていた。光景を見て失神したのだろう。リビングも外もだいぶ暗くなっていた。横瀬は革張りのソファーにナイフを突き立てると、別荘から出て行った。


 ――黒崎は黙ったままふたつのグラスにジャックダニエルを注いだ。

「……マコト、そう言えばあのレコード、まだ持ってるのか?」

「あのレコードってあれか」

「そう、ショーグンの『男達のメロディー』だよ」

 黒崎は酒棚の下のレコードをしばらく探したがないので、ペントハウスまで上がり1枚のシングルレコードを持ってきた。横瀬はラークに火を点けながら懐かしそうに手に取った。

「そうそう、こんなジャケットだったな。……マコト、かけてくれよ」

 その顔は何時間か前に人を殺してきた人間とは思えないほど穏やかで、また少年のようでもあった。


 『Pick Up Your Head Throw Away Your Blue’s どうせ一度の人生さ


  The More You Give Babe the Less You Lose yeah 運が悪けりゃ死ぬだけさ 死ぬだけさ』




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