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ふきだまり  作者: 村松康弘
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男達のメロディー 5

 横瀬はナビを眺めた、現在走っているまっすぐな道路と並行して他に3本の道路が見えている。周囲に自生しているシラカバやカラマツ林を生かして、それぞれに趣向を凝らしたログハウスやペンションが立ち並んでいるが、全体を見ると人工的に整備された巨大な住宅地といった感じだ。

 圧雪を踏んでゆっくり走っているとバックミラーに迫ってくる車影が見えた。横瀬のBMWのすぐ後ろを突っかけるようにしている。横瀬は相手にせず別荘地の奥へと向かう。

 無視されたことに腹を立てたらしい後続車は、何度かパッシングしたあと右に寄り加速するとBMWに並んだ。そして派手にクラクションを鳴らして追い越していった。

 練馬ナンバーのシルバーのミニバン、『わ』だからレンタカーだった。勝ち誇ったように去ろうとしていた。が、30メートルほど行ったところで左右に揺れだす。圧雪の下の氷上に足を取られたようだ。そのまま左に滑っていきペンションの看板の柱に衝突した。柱は根こそぎ折れたがミニバンのフロント部分も大きく凹んでいた。

 横瀬がその脇をすり抜けていく、チラリと目をやるとミニバンはノーマルタイヤらしかった。


 助手席に置いた地図を眺める、柳橋の別荘は密集した区域よりだいぶ奥のようだ。進むにつれ建物が少なくなる、各別荘間の距離が離れ点在しているといった感じになってきた。

 やがて柳橋の所有と思われる区画が見えてきた。本道から分岐した小径の50メートルほど先に、ログハウスが建っている、かなり大きな建物だ。

 本道の脇にBMWを寄せ様子を窺う、シラカバ林の間から見える前庭には車は停まっていない。横瀬は柳橋の愛車がベンツのゲレンデヴァーゲンだということを知っている。

 横浜の会社の駐車場に停めて、社屋に入っていくのを何度も見ているからだ。他の車を所有していたり愛人の車で来たかもしれないが、いづれにしても車がないことにはどこにも行けない場所だから、庭に車がないのは不在ということだろう。

 BMWを動かし方向転換できるところを探して向きを変えると、小径の入り口が見通せる場所まで戻り、路肩に寄せた。柳橋が横瀬の車を知るはずはないが、横浜ナンバーを見られたくないのでこれ以上近づくことはできない。

 

 横瀬は運転席でひたすら待った。ラークが空になり灰皿はいっぱいになる、グローブボックスから新しい函を開けるとまた火を点けた。

 里美に電話を入れてみたがコールが続くばかりで、繋がらなかった。5分後にもう一度掛けてみたが同じだった。横瀬の胸に一抹の不安がよぎったが、今は考えないことにした。

 雪は時おり強くなったり弱くなったりしたが、完全に止むことはなかった。


 ――17時過ぎ、ついに待っていた車がやって来た、シルバーのゲレンデヴァーゲンはスモールランプを灯して、別荘への小径に入っていく。

 横瀬はシースナイフを上着のポケットにねじ込み、黒革の手袋をはめた。ゆっくりとBMWを動かすと小径の手前で停め、様子を窺う。ゲレンデヴァーゲンのブレーキランプが点き、別荘の敷地に入っていった。

 BMWは静かに小径へと進んでいく、それはまだ自分に気づいていない獲物を狙って忍び寄るチーターのようだ。

 ……別荘の手前の木立に車を寄せると、横瀬はそっと運転席から降りる。木陰に身を寄せて別荘を眺める。玄関の左側に頭から停めたゲレンデヴァーゲンの後部ドアが開いていて、派手な赤いコートの女が大きな買い物袋を抱えて玄関に入っていくのが見えた。小顔で派手な化粧をした女はどう見ても20代だ。

 女と入れ替わるように柳橋が出てきた。高身長で痩せていて手足が長い、ロマンスグレーの頭髪をきちんとなでつけている、高級そうなフレームの眼鏡をかけた姿は、大病院の医者か大学の教授のようにも見える。たしか55歳のはずだ。……長年、この穏やかそうな紳士面に騙されていたことを思うと、またはらわたが煮えくり返った。

 横瀬は木陰から身体を移して別荘の入り口に立つ。車内に体を突っ込むとやはり大きな袋を抱えだした柳橋が、膝で後部ドアを閉めようとした。身体をねじったはずみで横瀬の方を向く。横瀬を認めると見開いた目が止まる。ふたりの視線がぶつかったのはほんのわずかな時間だが、腹の内はお互いにわかったようだ。

 横瀬は柳橋に向かって駆け出す、柳橋は持っていた袋を投げ出すと木製の段を上がり、玄関に逃げ込んだ。たどり着いた横瀬がドアノブを引くが施錠されていて開かなかった。ポケットからナイフを取り出すと、その柄で木製ドアに付いているマス目のようなガラスに叩きつける。ガラスは簡単に割れたが中に手を突っ込んで解錠するには遠すぎた。

 横瀬は阿修羅のような表情でドアを蹴飛ばしたが、びくともしなかった。右手にナイフを構えたまま段を降りると、ゲレンデヴァーゲンの右前輪のサイドウォールに刃を突き立て横に裂いた。ぱっくりと開いた穴から勢いよくエアーが噴き出る。右後輪も同じように引き裂いた。車体が右へ大きくかしがる。

 そのままBMWへ走り運転席に飛び込むと、エンジンをかけドライブに叩きこむ。アクセルを踏みつけると圧雪の上をスリップしながら、別荘の敷地に飛び込んでいく。

 

 

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