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ふきだまり  作者: 村松康弘
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男達のメロディー 4

 横瀬は裸のままベッドから起き上がると、合皮のソファーにある上着から財布を取り出し、引き抜いた札を里美に差し出した。

「もうひとつ頼みたいことがあるんだ。……柳橋の今後のスケジュールを調べて欲しいんだ、どこかへ出張する日があったとしたら、なるべく詳しく」

 里美は黙っているが、横瀬がなにをやろうとしているのか勘づいているようだ。だが、差し出された札には手を出さずに言う。

「お金はもうもらっているわ、あれで充分。……柳橋部長のスケジュールね、わかったわ」

「里美、はっきり言ってこれは危険なことなんだ、今でさえ君はやばいかもしれない。……だからせめてこれは受け取ってくれないか」

 里美は束の間、横瀬の目を見つめる。そしてゆっくりと受け取った。

「クニさん、いい目してるわ。まるで檻から飛び出した野獣みたい、危険な感じにギラギラ光っていて好き。……あたし、そんな目を見るとゾクゾクしちゃうんだ。……ねえ、もう一度抱いて」

 里美はベッドから這い出し裸の白い胸をさらしたまま、横瀬の腕を引いた。


 翌日の午後、横瀬のスマホが短く震える、里美からのメールだ。『2月11・12日、部長は愛人を連れて、白馬にある自分の別荘に行くわ。クニさんのお店にファックスある?番号を教えてくれたら、地図を送るわ』

(……今日は2月9日、明後日か)横瀬の目が不敵な光を帯びた。すぐに返信する、『ありがとう、本当に感謝してるよ。ただ身辺には充分に気をつけてくれ』そしてファックス番号を打った。

 店のファックスが動き出し紙が吐き出される、住宅地図のコピーのようだ。大まかなものと詳細なものの2枚、詳細な地図には、ある別荘の部分が丸で囲んであった。(白馬村 みそら野……)


 横瀬は店のドアを施錠すると歩いて自宅マンションに戻る、ポケットから鍵を出すと車に乗り込みエンジンを掛けた。濃紺のBMW 320Í、買ってから10年経つが不具合が出たことは一度もない。

 そのまま市道に出るといつも入れているガソリンスタンドへ行き、給油してもらいながらスタッドレスタイヤを組んでくれるよう頼む。横浜に来てから初めてのことだった、今まで冬の降雪地に行くことはなかった。

「雪国でも行くんかね」

 スタンドの社長が笑いかけてきた。

「まあそんなところだよ、組み終えたらさっそく履き替えてもらいたいんだけど」

 30分後、スタッドレスに履き替えたBMWはスタンドを出て、市道から県道へと走り、大型スポーツ用品店へ行く。アウトドアコーナーに直行すると、ナイフを物色した。……買ったのは狩猟用のシースナイフ、ブレードの長さは15センチ、柄は木製のものだ。ついでに黒革の手袋も買う。

 BMWの運転席に戻ると手袋をはめ、ナイフを握ってみた。キュッキュッと小気味よい音がする手袋は、木製の柄にフィットして満足した。

 運転席のウインドウを下ろしてラークに火を点ける、目は店舗に向いているが横瀬はどこも見ていない。……衝動的にはじめたことだが、心はずっと冷静だった。

(俺がやろうとしてること、成功すればいづれ不自由な身となるが、それでもいい。……俺の浅はかな考えのせいで古くからの大切な友を失った、そして友の家族は今も苦しみ続けているだろう。俺に黒崎のような思慮深さがあったなら、こんなことにはならなかっただろう。すべて俺のせいだ、そのけじめはつけなきゃならない。……柳橋を絶対許さない、落とし前はきっちりつけてやる)


 2月11日の早朝、横瀬はBMWに乗り込んで自宅を出る。国道16号を北上して、横浜町田ICから東名高速道路に乗り西へ。海老名JCTで首都圏中央連絡自動車道に入り再び北上、八王子からは中央道を走る。

 自宅を出てからずっと快晴で雲ひとつなかった。それはありがたかったが、連休の初日なので首都圏から地方へ向かう渋滞が続いていた。屋根にボックスを載せている車が多い。

 大月JCTを過ぎたあたりからようやく流れはじめる。横瀬は時速100キロから110キロで走っていく。八ヶ岳の白い姿が見え、長野県に入った。岡谷JCTで分岐するが、BMWは左方向の長野自動車道へ進む。このあたりになると家々の屋根に積もっている雪が見える。

 安曇野ICで高速を降りる、そこからは国道147号線をひたすら北上していく。松川村を過ぎて大町市に入ると雲行きが怪しくなってきた、寒々した灰色の空に変わり小雪がちらついてくる。

 仁科三湖を過ぎると道は上り坂になっていく、いくつか続くトンネルを過ぎ白馬村に入ると、しんしんと雪が降っていた。黄色いパトライトを回した塩カル散布車とすれ違う、後部の円盤が振りまく粒が車体に当たり、パラパラと軽い音を立てた。

 道路は次第に圧雪状態になってくるが、新品のスタッドレスはさすがによく効いた。後輪駆動のBMWでもスリップすることはない。

 横瀬は助手席に置いてある地図とカーナビを見比べる。ナビに道案内はさせてはいない、おせっかいにしゃべる声がうるさいからだ。……地図を眺めると里美のことを考えた、後ほど電話しようと思う。

 飯森駅を過ぎると変わった形の陸橋になる、そのまま直進すると糸魚川方面。横瀬は左へ逸れる、そこからは八方尾根へ向かうルートだ。

 やがて『みそら野』の交差点が見えてきた、左折するとその先一帯が広大な別荘地になっている。

 

 


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