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ふきだまり  作者: 村松康弘
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男達のメロディー 3

 金田は初仕事の日に横瀬の店までやって来た。白い軽自動車を前の道路に停めて、車内から箱一杯の長野土産を出してきた。会うのは久しぶりだったので話は盛り上がる。

「クニ、いい仕事を紹介してくれてありがとう。俺んとこは育ちざかりのガキが3人もいるからさ。……まあ、慎ましくやってりゃなんとかなるんだけど、ついついこっちの方にも注ぎこんじまってさ」

 金田はパチンコをやる仕草をしながら言った。

「いや、俺の方こそ助かったよ。ヨシの前に口掛けたふたりは、金は欲しいけど平日の夜に往復8時間走るのは、本業に差し支えるって断られたからさ」

 タクシー運転手の金田は昼夜やって明けという不規則なシフトらしく、多少身体に無理はかかるがなんとかなると目論んで受けてくれたようだ。

 ……それから2回目以降は柳橋と調整して仕事を受けているらしく、横瀬には連絡が来なかった。


 だが、1ヵ月ほど経った頃、電話が来た。

「あれからだいぶ儲けさせてもらってるよ、少なくても週に2回は飛んでる。……ところで黒さんいるだろ、マコト。ヤツがさ、俺が運んでる物がヤバいもんの可能性があるって言うんだよ。拳銃チャカとかヤクとかかもしんねえって。……そんで黒さんとこに刑事が来たらしくてさ、俺のこといろいろ聞いてったって言って。最後にこの仕事今すぐやめろって言いやがってさ。……俺は初日に運ぶもんを見せてもらったから大丈夫だって言ってんのにさ」

 金田はかなり不服そうな口ぶりだ。横瀬は黒崎の名前を聞いて懐かしくなったが、ヤツの言っていることは横瀬も信じられなかった。

 柳橋は中国人だが、つきあいはかなり長い。普段の言動も態度も絵に描いたような紳士で、穏やかな性格の男だ。接待でしょっちゅう店を使ってくれるが支払いもなんの問題もないから、まさかそんなことはあるまいと思った。刑事が来たというのも金田の本業の方でのことではないかと推察した。

「そうか、まあ問題はないと思うが、今度柳橋さんが来たら聞いてみるよ」

 と言って電話を切った。


 だが、その日を境に柳橋はぱったり姿を見せなくなった。横瀬はちょっと不審に思ったが、母国との往来で店に来なかった時期もあったのでさほど深刻には考えなかった。

 ……しかしその後、信じられないニュースが飛び込んできた。

 例の仕事の横浜からの帰りだと思うが、深夜の長野自動車道下り線で、金田の軽自動車が居眠り運転の大型トラックに衝突されて、金田が死んだと……。


 横瀬の話を聞き終わった黒崎が口を開いた。

「あれは居眠り運転なんかじゃなかった、明らかな殺意があっての意図的な事故だ」

 横瀬は黙ったまま黒崎の顔を見つめる。

「あの日、金田が消されるかもしれないと嗅ぎつけた俺の仲間が、金田の車を護衛するように走っていた。……しかし大型トラックが仕掛ける攻撃を阻止することはできなかった。結局、仲間の目の前でヤツは殺されたんだ」

 金田はフジと凄子の護衛や妨害も虚しく、夜の高速道路上で火だるまになって死んだ。……あるいは衝突の時点で死んでいたかもしれないが。

「マコトの仲間が目の前で見てたのか。……実は俺も金田の死が腑に落ちなくて調べたんだ、そして真実を突き止めた。……だから今、こうしてここにいるんだよ」

 黒崎はあらためて横瀬の衣服の染みを見て言った。

「お前のその服の血はもしかして……」

「ああ、何時間か前に白馬で柳橋を殺してきた」


 金田の事故後、やはり柳橋は姿を見せなかったが、G.Wウィングの受付嬢をやっている里美という女はちょくちょく飲みに来ていた。

 横瀬は過去に一度、里美と寝たことがあった。少し酔いが過ぎた里美が誘ってきたのだ。

 里美は30過ぎだが見た目はもっと若くというか幼く見える。受付嬢をやっているだけあってスタイルは良く、顔立ちは整っていた。

 普段はかしこまって清楚な印象の女だが、ベッドで裸になると貪欲で声も大きかった。そのギャップはかなり魅力的に感じた。

 ……今度は横瀬から誘ってみる、里美はふたつ返事だった。ラブホでの事後、横瀬は里美を信用して打ち明けた。

「この前、柳橋部長に頼まれて運び屋をやっていた俺の友達が事故死した。……それがどうも腑に落ちないんだ。正直に言うと俺は柳橋部長を疑っている。だがなんの証拠もない。……里美、なんとかそれを調べてもらえないかな」

 横瀬は1万円札を5枚、枕元に置いた。一瞥した里美はニヤリと唇をゆがめて言った。

「クニさんが望むことならお金なんていらないんだけど。……わかった、これは仕事料としてもらっておくね」


 2日後、店に来た里美が意味ありげな顔をした。そしてその後の密会のベッドの中で里美が話しだす。

「結論から言うと、部長はクロね。……開発部の仲いい子に探り入れたんだけど、その子は憶えてた。……その事故の前日の部長の様子が変だったって。やたらあちこちから電話来て、『県警に探り入れろ』とか、『そろそろ潮時だ』とか言ってたんだって。そのあと部長からどこかに電話して、『渡しが済んだら消せ』『高速降りる前に』『やり方は任せる』って言ってたんだって。……普段穏やかな部長が鬼みたいな顔で、乱暴な言い方してたからよく憶えてたみたい」

 横瀬は胸の中の里美の前髪をかき上げ、額にキスをした。そのまま憎悪の目で天井を見上げる、武闘派だった若い頃によく経験した殴り合い前の興奮、一触即発の緊張と闘争心、そんな感情が噴き出す。

 柳橋に対してはらわたが煮えくり返ってきた。




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