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ふきだまり  作者: 村松康弘
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男達のメロディー 2

 横瀬は善光寺の門前へ続く道を途中で右折し、県庁通りを南下していく。生命保険会社を過ぎた交差点を左折すると、あたりを見回しながら走る。とあるマンションに目をつけると駐車場へ車を入れた。

 パジェロミニのデジタル時計は0時45分を示している。エンジンを切ると灰皿の吸い殻をつまみ出し、ポケットに入れた。キーは挿しっぱなしのまま車を降りるとさりげなく、しかし早い足取りで駐車場を出た。

 あたりはシンと静まり返っていて人影は見えない、端に固まった雪が残る歩道を東へと歩いて行く。市街地に来たのも何年ぶりかわからなかったが、痛いぐらいに冷えた空気に懐かしさを覚えた。見上げるとクリアーな夜空に輪郭のはっきりした月が出ている。

 中央通りまで来ると周りを見回す、(ヤツから聞いた話だとこの辺だと思うが……)横瀬は少し歩くと目的のビルを見つけた。入口脇のテナント表示の『3F パブふきだまり』の文字を確かめると、ガラスの扉を開けて階段を上がっていく。通常の階段より急勾配に感じた。

 やがて真っ暗な3階の廊下に立つと、黒いドアの隙間からわずかに明かりが見え、横瀬はホッとする。ノックしようか迷ったが、せずにドアを引いた。ガラガラと奇妙な音とともにオレンジ色の照明の光と、タバコの煙が漏れ出てきた。

 奥にカウンターが見え、スツールに座っている男がゆっくり振り向く。横瀬と目が合った。(間違いない、黒崎誠だ)横瀬は安堵してフロアーに足を踏み入れた。

「お前は、……クニか?」

 黒崎はすぐに気づいたようだ。横瀬はカウンターに近寄ってから言った。

「マコト、久しぶり。夜中にいきなり訪ねて悪いな」

「そんなことはないが。……今は横浜にいるって聞いたが」

「ああ、そうだ。長野に来たのも何年ぶりかわからないぐらいだが」

 黒崎は、そうか、と言いながら横瀬の上着のファスナーからのぞいたドス黒い染みに目をやる。グレーのフリースの腹部には大量の返り血が付着している。

 目をそらすとカウンターの中に入る、横瀬は真ん中のスツールに腰かけた。

「横浜ではどんな生活してんだ」

「マコトと同業さ、小さな酒場をやってる。かれこれ10年になるが」

 黒崎は酒棚から下ろしたジャックダニエルを目の前に出した、横瀬が黙ってうなづく。カウンターに並べた2個のグラスにジャックを注ぐと、ふたりはグラスをかざす。

 横瀬は酒棚の横にある真空管ラジオに気づくと言った。

「年代物のラジオだな、レプリカじゃなく本物らしいな。鳴るのか?」

「鳴るよ、これは金田からもらった物だ。正確に言うと金田の女房に。……金田は死んだよ」

「……知っている。……ヤツが死んだのは俺のせいだ」

 黒崎の動きが止まった。


 黒崎、金田、横瀬は中学校の同級生で、よくつるんでいた仲間だった。黒崎は当時から音楽や楽器演奏に没頭していた。金田は楽器はやらなかったが古い歌謡曲や演歌が好きで、黒崎とは気が合い一緒にいることが多かった。

 横瀬はどちらかというと武闘派でケンカが強く、先輩後輩の縦つながりの仲間が多かったが、音楽が好きでギターを弾くという共通点で黒崎と接点があり、親しかった。

 黒崎と横瀬は他の仲間も入れて、一度バンドもどきのようなこともやったが、横瀬がケンカで指を痛めて一時ギターが弾けなくなり、バンドもどきはそれで終わったという経緯もあった。


「金田が死んだのはクニのせい?……どういうことだ」

 怪訝なまなざしの黒崎の問いかけに、横瀬はジャックをひと息であおると話しはじめる。


 横瀬が横浜でやっているスナックは、ふきだまりを少し広くした程度の店だが、立地条件が良いのか繫盛していた。中華街が近いせいもあって中国人の常連客も多かった。

 その常連客の中に柳橋という男がいた。もらった名刺には、『G.Wウィング』という名の外資系企業の開発部長という肩書きが付いていた。

 ある日、会話の中で横瀬が長野出身ということを知った柳橋は後日、横瀬に頼みごとをしてきた。

 本国から送られてくる極秘の資料や新製品のサンプル、試作品などを長野まで運んでくれる人はいないかということだった。運送業者だと機密が漏れる可能性があるので、信頼できる個人に頼みたいと言ってきた。そしてその代わり、高額な運搬費用を出すと言った。

 横瀬は長年つきあいのある客だし、店の近くに立派な社屋を構えている企業なので、なんの疑いもなく聞いた。そしてやってくれそうな人物を思い浮かべる。

 候補は5人いて、3人目に口を掛けたのが金田だった。電話で話を持ち掛けるとすぐに飛びついてきた。女房と3人の子どもを養うのにタクシー屋の給料だけじゃキツくて、と言っていた。感謝されて横瀬としても嬉しかった。



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