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ふきだまり  作者: 村松康弘
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となりの町のお嬢さん 10

 KENTA with BLUESFREAKSの全体リハは、最終リハを兼ねた1回のみとなった。カラサワとミワのスケジュールが合わなかったためだ。ライブ当日の土曜日の午後、4人が顔を合わせたのは1週間ぶりだった。

 開始早々、カラサワが小堀の声に驚いた。

 「健太すげえ声になったな、つぶれてるけど、それだけじゃねえ。筋肉質な声になったって感じ」

 「SIONとか木村充揮みてえな。…憂歌団のカバーやるからちょうどいいな」

 ミワもそう言って褒めてくれたが、つぶしすぎて会話として発声するが辛いので、極力うなづくだけにしていた。

 その代わりヴォーカルとしてのパワーは格段に上がっている。同時にギターのカッティングの鋭さ、ストロークの力強さ、リズム感もかなり良くなっていた。まさに『鍛錬の1週間』だった証だ。

 全体演奏は休憩をはさみながらの3時間で、ほぼ完璧に仕上がった。小堀以外のメンバーがテクニシャンなので当然といえば当然だが。…あとは本番で小堀がどれだけモチベーションを発揮できるか、だった。

 楽器を片付けていると、カラサワのスマホが鳴った。

 「はいよ、お疲れさん。…そうか、了解。のちほどよろしく」

 会話はすぐに終わる。

 「健太、今日の本番、トリで20時だって」

 「えー、トリですか。デビュー戦でいきなりトリか、荷が重いなー」

 しわがれ声でつぶやくと、

 「終わったら、うめえ酒が飲めそうだな」

 黒崎が笑うが、小堀は苦笑いだった。


 ― 15時、徳永みゆきは、小堀から本番の時間の通知を受け、返信してすぐスマホが鳴った。『一応彼氏』の成海浩司からだ。

 成海は高校のクラスメイトで、つきあって3年になる。野球部のエースだった頃、告白されてつきあいはじめた。高身長で美男子だが、みゆきはその容姿で告白を受け止めたわけではなかった。

 一心不乱に野球に打ち込み、グラウンドでキラキラした情熱を弾けさせている姿に好感を持ったからだ。

 だが、東京の大学の経済学部に在籍している今の成海は、はっきり言って好きではない。かつての真っすぐな情熱はどこからも感じられない。自分のみてくれや立場、他人からの評価ばかり気にして、なにかにつけ批判的な物言いしかしなくなった姿は、同一人物と思えないほどだ。

 「やあ、今日たまたま帰ってきた。…今夜どうしてんの?どうせヒマでしょ?…親父の車借りて迎えに行くから、メシでも行こうよ」

 成海の魂胆はわかっていた。レストランかどこかで食事をしたら、あとはラブホで1泊。たまに帰ってきた時はたいていこのパターンだ。

 東京にも遊ぶ女が複数いることはわかっていた。みゆきにバレたことがあるからだ。しかし問い詰めても、『向こうから言い寄られたから仕方ない』だの、『人が集まるところに行くといつもコクられるからしょうがない』だの、反省の色もあわてることもなかった。

 なぜ別れないのかといえば、成海の妹が一番かわいがっていた吹部の後輩で、一度別れ話をした時に激しく泣かれたからだ。妹はみゆきのことも兄のことも大好きなのだ。…だがそんなことも時効かなと思うし、潮時かとも思っていた。

 「今夜は会社の同僚のライブに行くから無理」

 「会社の同僚のライブ?…素人の演奏なんか見て、なにが面白いんだよ」

 みゆきはカチンときた。

 「そんなことあなたに関係ないでしょ、だから今夜は無理」

 「しょうがないな、じゃあ俺もつきあってやるよ」

 「無理してついて来なくていいよ」

 「みゆきに借りた5万、返すついでもあるからさ」

 …結局、成海と同伴で行くことになった。


 ― ライブハウス『アッシュトレイズ・ローズ』は、善光寺の門前通りの、和風な店舗が立ち並ぶ一角にある。市内循環バスを降りて到着すると、小堀は一番後ろを歩いて店に入った。

 受け付け兼カウンターに長髪のイケメンがいた。カラサワとミワのバンドメンバーのスガワだろう。色黒で細マッチョなカラサワと対照的に、色白でかんたんに折れそうなほど華奢そうな体型だ。…若い頃のジェフ・ベックに似ていると思った。

 ホール、ステージに向かって左の壁際にPAブースがあり、白髪まじりの長髪、エスニックな顔立ちの男がいる。店長のシライだろう。

 「はじめまして、今日はお世話になります」

 「こちらこそよろしくー、黒ちゃんと三羽鴉と健太くんだっけ?楽しみにしてるよ」

 シライはそう言ってほほ笑んだ。

 …ステージでは、小堀たちの前の出番のギターユニットがリハーサルをやっている。小堀は見るのも聴くのも初めてのハコに緊張しているが、みゆきが来てくれる喜びの方が勝っている。

 楽屋に入ってリハの出番を待つ間、カラサワが話しかけてきた。

 「なあ健太、この1週間でお前の変わりようがすげえんだけど、彼女でもできたんか?」

 「いえ、彼女じゃないんですけど、彼女にしたい子が来てくれることになってます」

 「そりゃあ気合い入るわなあ。…いいねえ、俺等もそういう頃あったよな、コウヤ」

 ミワが指でスティックを回しながら笑った。

 スガワが呼びに来てリハがはじまった、小堀は初めて立つステージに興奮してくる。各楽器のレベルチェック、音色の調整、それが終わると全体で音出し。…モニターから出る音、メインスピーカーから出る音、やはりスタジオでやってる時と全然違う。特にPAを介したバスドラとベースの迫力がすごかった。

 演奏がはじまると照明が当たってきた、かなりの眩しさで客席が全然見えない。光の熱も伝わってくる。(…ステージに立つ人は、いつもこういう状況の中で演奏してるのか)小堀は素朴に思った。

 リハーサルの手応えは上々だった。機材を片付けていると、

 「ヴォーカルの健太くん、いい声してるねー。ベテランメンバーに負けてないよ。…しぼりだすブルースって感じ、いいよ」

 シライがPAからマイクで褒めてくれた。

 



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