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ふきだまり  作者: 村松康弘
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となりの町のお嬢さん 7

 横転したフォークリフトはアクセル系統のリンクかケーブルが破損したらしく、フル回転のエンジンが轟音を上げている。小堀からは横倒しのリフトの腹の下しか見えないので、田上の様子はわからない。

 突然のアクシデントに呆然としている小堀だったが、奇声を上げて駆け寄る作業員を見て我に返り、運転席を飛び降りてリフトの元へと駆け出した。

 もうリフトの周りには3人の同僚作業員と、騒ぎを聞きつけたトレーラーの運転手ふたりが集まり、キャノピーに手を掛けてリフトから田上を助け出そうとしていた。

 全員でリフトの上部を持ち上げようとしているのを見た小堀は、咄嗟に自分のリフトに駆け戻り、パレットを地面に接地させるとバックして爪を抜く。そして田上のリフトへ向かう。

 青ざめた表情のトレーラーの運転手が小堀に気づくと、手招きしながら地面とキャノピーのわずかな隙間を指差した。そこに爪を差して起こそうということだ。小堀ももちろんそのつもりだった。…作業員が運転席に這い上がり、デコンプスイッチを引いてエンジンは止まった。

 小堀は運転手の合図を見ながら慎重に爪を差し込む、そしてゆっくりとチルトを掛けながら起こしのレバーを操作した。…鉄と鉄は滑りやすい、途中で爪が外れて車体が落ちたら、田上に多大な損傷を与えるのは間違いない。

 10センチ起こしたところで誰かが枕になる材木を持ってきた、作業員たちは上がったキャノピーの柱の下にそれらをあてがい、一度爪を下して車体を預けると再度深く差し直す。

 50センチほど車体が起きたところで、作業員たちは田上を引きずり出した。あご紐をしていなかったのかヘルメットをかぶっておらず、血だらけの頭部が晒された。

 運転席から離れることのできない小堀からは、田上が生きているのか死んでいるのか判別できなかった。

 リフトの下から全身が引き出されると、左の足首が奇妙な方を向いていた。車体の下敷きになったのかもしれない。

 …けたたましい騒ぎで正門の方から救急車が到着した。いつの間にか工場内の関係者や、事務棟の社員までもが外に出てきて成り行きを見守っている。

 どうやら田上は死んではいないようだ、救急隊員は手際よく処置を終わらすと田上を乗せて、またけたたましいサイレンを鳴らして出て行った。

 方々でささやき合う声が聞こえる、勝手な推論をしゃべっている者もいた。田上を知る人間たちの罵っている声も聞こえた。

 小堀は半端に起こしたままのリフトを見つめて途方に暮れていた。ため息をひとつ吐き、何気なく周囲を見回す。

 なんとなく視線を感じたので目を止めると、徳永みゆきが自分を見ていた。瞬時に胸が高鳴る、覆面のような状態なので自分と気づいているかわからないが、なにかを伝えたそうな目に見えた。

 小堀はほんの数秒で目をそらしてしまった、ろくに話したこともない片想いの相手を見続ける度胸がなかった。 


 午後になると課長が場内に呼びに来た、安全担当部の尋問らしい。小堀と救出した年配の作業員たちが会議室に呼ばれて、事故の詳細を訊かれた。

 小堀はありのままを話したが、年配の3人は最後の方で田上の悪口を言いはじめ、しまいには事故となんら関係のないことまで暴露した。

 嫌いな田上の肩を持つ気はさらさらないが、悪口大会は聞いていて気分のいいものではない。(こんなとこで鬼の首を取ったようなこと言ってんじゃねえよ。普段、田上を指導できてねえのを晒してるようなもんだろ)…年配の作業員たちは大卒の田上に引け目を感じて、なにも言えないのかもしれなかった。


 長時間の尋問を終え、会議室を出た時にポケットのスマホが震えた。短かったのでメールかと思いながらスマホを取り出す。(え…!)画面を見てまた胸が高鳴った。それはみゆきからのショートメールだった。恐る恐る文面を読む。『徳永です。急ですが、会って少しお話しすることはできますか?』

 小堀は首筋に悪寒が這い上っていくのを感じ、ドキドキして呼吸が震えてきた。それでも直後に返すのはカッコ悪いかと思い、また気を落ち着かせるためにも1分待ってから返信した。『いいですよ、いつ、どこにしますか?』メールに対して平然としているような返信を打ったが、(マジかー、マジかー!)と胸を押さえている。

 数秒も待たずに返信がきた、『じゃあ今日の定時後、自販機コーナーでもいいですか?』小堀は、(いきなり今日!もうじきじゃん!)と思いながら即座に返信した。『わかりました、じゃあ17時すぎに自販機コーナーで』

 スマホをポケットにしまうと誰もいない廊下で、小堀は拳を上げながら飛び上がった。




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