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ふきだまり  作者: 村松康弘
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となりの町のお嬢さん 5

 「このあんちゃんは若えくせして、拓郎や泉谷の初期のヤツが好きで、なかなかいい味してんだよ」

 サーバーで生ビールを作っている黒崎が言うと、小堀は恥ずかしくなって顔が熱くなった。

 「へえ、今どき珍しい感性してんだな、まあ俺もその類いは好きだが。…最近のただ奇抜なだけの音楽は理解できねえ」

 ミワが煙を吐きながら言う。

 「なあ、今度ローズに出てみたらどうだよ」

 カラサワが再度、顔をのぞきこんで聞いてきた。

 「え、俺なんかじゃまだまだライブハウスなんて…、多分オーディションで落とされますよ」

 小堀は、『いづれライブハウスデビュー!』という夢があるが、だいぶ先のつもりでいた。

 「そんな心配はいらねえよ、俺等のメンバーのリョウタはローズのスタッフだし、店長のシライさんはビギナーに親切だしさ。…いいハコだぜ」

 頬杖をついた姿勢でミワが言った。パッと見は恐そうだったが、話してみると気さくな兄貴という感じだ。

 「いっそのこと、俺等があんちゃんのバックやってやろうか、…黒さん、どう?」

 カラサワの提案に小堀は、えーっ!と、奇声を上げる。

 「俺はかまわねえよ、…シライさんにもご無沙汰だから会いてえし」

 カウンターに生ビールを4つ置いて言った。

 「じゃあ決まりだ、タケルもいいよな?…あんちゃん、下の名前はなんてんだ」

 「健太です、…でも俺みたいな素人のバックなんて…」

 小堀は恐縮しながら言ったが、カラサワとミワは聞いてもいない。

 「じゃあ、バンド名は、『KENTA with BLUES FREAKS』ってどうだ?…ステージは座りで、憂歌団みてえにしてさ」

 ミワが自信満々に提案したが、

 「憂歌団みてえに座りスタイルはいいけど、…名前、ちょっとダサくね?」

 カラサワが笑いながら言うと、なにをー!と言いながら、ミワがカラサワの首を締めた。

 「よーし、じゃあ前途を祝して乾杯しようぜ」

 ミワが言うと4人はジョッキを触れ合わせた。

 …とんとん拍子に飛躍していく話を聞きながら、昨日といい今日といい、小堀にとって夢物語のようだった。


 ー 翌朝、スマホの目覚ましが鳴ると布団から起き上がり、頭を搔きむしった。またろくでもない1日のはじまりだ。

 冷え切った部屋のファンヒーターを点けてカーテンを開ける。

 …昨夜は晴れて月が見えていたのに、今は絶え間なく雪が落ち、塀の向こうの屋根にはもう新雪が積もっている。長いため息を吐くと観念したように顔を洗い、バッグに作業着を詰めると、服を着替えてアパートを出た。

 雪のせいか、街中はいつも以上に渋滞している。歩道の対面といめんの市街地行きのバス停には、バスが遅れているらしく待っている人が行列になって、誰もが不機嫌な顔をして白い息を吐いている。

 小堀はいつもと同じ時間に会社に到着すると守衛所で社員証を見せ、その足で自販機コーナーへ行く。そこでボトルのブラックコーヒーを飲むのが日課であり、朝食がわりだった。

 暖房の効いたコーナーのベンチに座り、昨夜のことをぼんやりと思い返す。

 

 …昨夜はあれから小堀のレパートリーから3曲を選んで、バンド編成で合わせた。各々の腕前はさすがとしか言いようがなかった。

 カラサワとミワは知らなかった曲だが、黒崎が紙に曲の構成とコード譜を書き、リズムパターンとフィルインのタイミングを伝えると、テイクワンから完璧なプレイをした。

 小堀はまだまだなストロークをかき鳴らして懸命に歌うだけだったが、まるで自分が、『バンドの顔』のような状況に心が震えた。…そして、ずっとずっと続けていたいと切に思った。

 …帰る間際にカラサワが、

 「健太、黒さんが言うように、お前なかなかのものを持ってんな。…俺もタケルもバックでやってて面白かったぜ」

 と、右手の親指を立てた。となりでミワがうなづいている。

 …すごいプレイヤーと一緒にやれたこと、ふたりに褒められたこと、親しげに下の名前で呼んでもらえたことで、不意に涙が出た。あわててネルシャツの袖で拭う。ふたりは見ていたが何も言わず、

 「ローズのスケジュール、リョウタに聞いてまた連絡します」

 と、カウンターに向かって言った。



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