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ふきだまり  作者: 村松康弘
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恍惚のブルース 3

 刑事たちが去ったのを見計らったようにフジが降りてきた。

 「どうやら、なんかやらかしたようだな、運ちゃん」

 怪訝な顔をして言った。ペントハウスには行かず、刑事の話が聞こえるところに留まっていたようだ。

 「そうかもしれねえな。…でもお前も同じようなもんじゃねえのか。年寄りの刑事がタバコとライターに目をつけてたぜ。…観察力の鋭え男だな」

 フジはタバコが置かれたままの席に腰かけ、1本くわえた。

 「まあ、俺の場合はちょいちょいと、あのダンナ方とスライドすることがあるからな」

 …刑事たちは、闇の連中の存在やその動きをうすうす知っているのだろう。

 「新津という刑事は切れ者だよ、特に血の匂いのするような事件ヤマには、とんでもねえ嗅覚を発揮する。…老いぼれたフリをしてるがな」

 フジの言葉に、新津の爬虫類のような目と粘っこい話し方が浮かんだ。そして金田の顔が浮かぶ。

 「金田の野郎、ひと月前まではちょくちょくたかってくるほど金に困っていたんだがな。…あの羽振りの良さは普通じゃねえな、あいつらしくねえわ」

 フジはなにか思いついたように、急に顔を上げた。

 「凄子の、いや黒さんのお袋のダチに、仕事が早くて腕利きの情報屋がいる。そいつに頼んでみるか」

 そう言うと携帯を取り出した。


 翌日の夜、少し満足気な顔をしてフジが現れた。

 「だいぶわかってきたぜ」

 そう言いながら、指定席の右端のスツールに座る。黒崎はターキーのボトルと2個のグラスをだした。

 「…横浜のある街に、外人マフィアのアジトになってるビルがあるらしい。登記も外観もまともな会社を装っているらしいが。…半年ほど前に、タレこみかなんか知らねえが、そこを拠点にして拳銃チャカやヤクを方々に捌いてるって話が出て、マフィアのアジトらしいって発覚したんだが」

 黒崎とフジは同時にダブルのバーボンに口をつけた。

 「神奈川県警は、半年前からそこをマークしていたらしいが、ひと月ぐらい前から定期的に現れる長野ナンバーの白い軽自動車に目をつけたようだ」

 黒崎は黙って聞いていた。

 「そこで神奈川・長野の両県警が連携して捜査をはじめたようだ。…要するに、タクシーの運ちゃんは拳銃チャカかヤクの運び屋をやってる可能性が高い」

 黒崎は愕然とした。小中学校から腐れ縁の友が、そんな危険な仕事を請け負っているとは。

 「金田はわかった上でそれをやってんのか」

 黒崎は沈痛の表情で聞く。

 「いや、多分運んでるブツの中身は知っちゃいねえだろう。…マフィアの方はさっき言ったみてえに、ごく普通の会社を装って、『重大な企業秘密の荷物だから、配送業者には任せられない』とか言って、破格な運賃か高額の手数料を、運ちゃんに払ってるんだろう」

 フジは一杯干すと、自分で注いだ。

 「こっちの受取人はどんなヤツなんだ、そんなヤバいもんだからまともな連中じゃねえだろう」

 黒崎も飲み干して注ぐ。

 「それがどうもはっきりしねえんだよ。北竜なんかは新津のダンナに目をつけられてるから、できるわけねえし。…ゴウゾウ、情報屋の名前だけどヤツが言うには、この街は中継点になってるんじゃねえかって話だ。そんで運ちゃんから受け取ってるヤツも、一見一般人もしかしたら本当の一般人かも知れねえ」

 黒崎は携帯を取り出して金田にかけてみたが、留守番電話になっていた。

 「いづれにしても、そんな危ねえことはすぐにやめさせねえと…」

 携帯を置くと、黒崎は金田のことを考えていた。

 長野市郊外の中古の一軒家を買ったのは5年ほど前だ。まだローンはあるだろう。家族は、スーパーのパートをやっている『かかあ天下』の女房と、小学生の男の子がふたりのはずだ。

 黒崎は独身で背負いこむものなどないが、金田は家のローンに女房にまだ小さい子どもがいる。

 「なにやってんだ、あの野郎」

 思わずため息を吐いた。

 「めずらしいね、黒さんが人を心配してんの」

 フジが頬杖をついて言った。



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