初恋って言っていいのか
「気をつけて帰れよー」と教室を出ていく先生の言葉を切欠に生徒達は皆思い思いに動き出す
クラブに向かう人 急いで帰宅する人 どこかに寄り道するか楽し気にする人
好きな人の所へ向かうのだろうか化粧をする女の子達
さっきまで先生の声しか響いていなかった教室が一瞬にしてざわざわと日常を取り戻す
あー現国の授業明日もあるし教科書置いていきたいなーと思ったが
宿題が出ていたのを思い出し諦める 帰宅準備をしながら
外を見ると仲の良さそうな2人が見え
ズキンっと心臓が震え
動き出してた日常が一瞬にして私の周りから色と酸素をなくす
「莉乃? どーしたの?手止まってるよ」
「え、あ。うん。なんでもないよ」
目の前にな友人の亜紀ちゃんが居た
不意に掛けられた声に少し戸惑ったが亜紀ちゃんの気配を感じられないほど
そんなにぼーっとしていただろうか
「あー噂の2人を見てたのね」
私の視線を追ったのだろう亜紀ちゃんは優しく笑う
「…うん。なんか お似合いだね」
「で、莉乃ななんでそんな顔してるの?」
「ん?私どんな顔してるの?」
「辛そうな寂しそうな泣きそうな顔」
「…マジで?」
「まぁなんとなくだけどね」
「なんだろう?亜紀ちゃんの勘違いだよ多分。」
「本人がそう言うんなら何も言わなけどさー…」
腐れ縁…と言っていいのだろうか
幼馴染と言えるほど近い存在ではないし
すれ違えば会釈する程度
顔見知り位だろうか
小中高と同じ学校。同じクラスになったことはないけれど
役員会で数度一緒になったことのある人
都会とも田舎とも言いにくい地方都市よし少し人口の少ないこの街で
出身校が一緒の人はそこそこ居る
さっき見掛けた噂の2人組
野方くんと田浦さんもそんな感じだ
ただ2人の仲が良いとは噂を聞くまで知らなかったけど
さっきの2人の様子を見たら噂が噂ではなく本当の事なんだろうなと納得する
付き合い始めたらしい…と
らしい…じゃないよ。あれはもう付き合ってるよ。好き同士だよ
そっち系の話が苦手な私にもわかる空気だったよ
そっかぁー良いなー羨ましいねーと亜紀ちゃんと会話しながら
何が良いのか何が羨ましいのか頭の中で自問自答する
田浦さんは可愛い。中学時代からモテてる話を聞いたことがある
派手な見た目ではないけど 優しくて笑顔が可愛くて包容力がありそうと
軽く付き合いを申し込めるタイプじゃなく本命本妻タイプだと
中三の時の隣の席の田中くんが熱弁ふるってた気がする
野方くんは大人しいタイプだと思っていた
勉強も運動もそこそこで飛びぬけて目立つタイプではないけど
柔らかい雰囲気を持った優しい男の子そんな印象
美化委員で一緒になったことがある 地味な作業も文句も言わず手伝ってくれた人だ
話した事など覚えてもいない程度の会話を数回
野方くんとの思い出などほぼないはずの私との関係性
なのに何故2人が付き合っているとい事実に胸が痛くなるのだろうか
ただ単に仲良さそうで幸せそうな恋人達が羨ましいだけなのだろうか
野上くんは私の名を知っているだろうか?
私は彼の友達ですらない。彼の恋心など知るはずもない
彼の名を呼び隣を歩き見つめられる田浦さんを羨む資格などないのに
なぜ彼女が羨ましいのだろうか なんでこんなに胸が苦しいのだろうか
人を好きになるってもっとふわふわして甘くてきゅんきゅんするものだと
少女漫画に描いてあった気がする
そういった感情になった事がなかったから「好き」ってよくわからない
柔らかくはにかんだ感じの笑顔が心に残った
声変わりで少し低くなった彼の声を聴いたとき驚きと心地よさを同時に感じた
私の方が高かったはずの身長も中学時代にはとっくに抜かれてた
可愛いと形容されてたけどいつの間にかカッコイイ野方くんが普通にあっていた
ああ、なんだ彼の事など知らない人、知人程度と言いながら
彼の事をどんどん思いだす自分が嫌になる
これが恋心なのだろうか
何故今なのだろうか
気付かなければいいのに
野方くんの笑顔が声が好きだったと気付く
田浦さんに向けていた視線を私に向けて欲しかったと心が叫ぶ
この厄介そうな想いが初恋だと言うのなら
気付きたくなどなかったのに
気付かない振りをして想いに必死に蓋をする
「莉乃」
ポンポンと頭を優しくたたかれ抱きしめられる
「あ、亜紀ちゃ・・・ん」
いつの間にか2人で帰路についていた私は
亜紀ちゃんの隣で静かに涙を流していたらしい
情緒不安定すぎる
「私は莉乃の味方だよ。なんで泣いたか聞かない
言いたくなかったら言わなくていいよ
言えるようになったら莉乃から話してほしいけどね」
「…うん。ありがとう亜紀ちゃん
なんで泣いたか私もよくわからないから…わかったら話すから聞いてほしい」
私自身今恋心に気づき失恋に気づいたのだ
気付いたとはいえ納得はしていないこれが恋心なのか初恋なのか
心と頭が納得したら聞いて欲しいと思う
私の初心すぎる初恋と失恋の話を