第99話 ネコ忍者、人質を救出する
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「さぁ、任務スタートだニャ」
メルキス達に見送られて魔族の拠点に足を踏み入れた彼は、小さく呟くと足音を殺して地下の道を進み始める。
メルキスから渡された、魔族の拠点の地図はバッチリ頭に入っている。
蝋燭がポツポツと灯されているだけの暗い地下の道も、キャト族にとっては昼と変わらない。難なく魔族の拠点を進んでいく。
(お、見張りの魔族が居るニャ)
キャト族の行く先の通路を、魔族が歩いている。
(メルキス様からもらった地図の通りだニャ)
地下通路への侵入者など、これまで一度もいたことがない。だが見張りの魔族は、決して油断することなく侵入者を絶
対に見逃すまいという気持ちで巡回している。
しかし。
(楽勝だニャ)
キャト族は、見張りの魔族の後ろを全く気取られずに通過する。
(全然気づかれなかったニャ。1時間あの魔族の後ろでダンスしててもバレない自信があるニャ)
そんなことを考えながら、キャト族はどんどん魔族の拠点奥深くへと進んでいく。途中何度か巡視中の魔族を見かけたが、難なく目を掻い潜った。
そして。
(着いたニャ)
潜入開始から30分ほど。
ついに、ルスカン伯爵が囚われている牢屋に辿り着いた。
(ルスカン伯爵様、助けにきましたニャ!)
キャト族が、ルスカン伯爵に向けて囁く。
(おお! 待っていました!)
ルスカン伯爵が顔を喜びでいっぱいにしつつ、静かに答える。
キャト族は、ルスカン伯爵が驚いて大きな声を出さなかったことにホッとする。ここが、この作戦の中で一番危険なポイントだったのだ。
(待っていた? 助けが来ることを知っていたのニャ?)
(ああ。我が親友、ザッハーク・ロードベルグがつい昨日ここへ来て、もうすぐ助けを寄越すと言っていたのです。まさか、キャト族が助けに来てくれるとは思わなかったですがね。さぁ、ここから出してください)
(おまかせ下さいニャ!)
キャト族は、懐から金属製の道具を取り出す。
クナイ。シノビが扱うナイフを兼ねた飛び道具である。
(危ないから、ちょっと離れてて欲しいニャ)
(う、うむ。しかし、そんな小さなナイフで鉄格子が斬れるのですか? 君も小柄で、力自慢のタイプには見えないが……)
下がりながら、ルスカン伯爵は不安そうにそう口にする。
(心配ご無用ニャ。いくのニャ!)
キャト族が、クナイを横に振り抜く。すると
“スパッ!”
鉄格子が、あっさりと両断された。
(す、すごい! なんという技……いや、そのナイフの切れ味がすごいのか?)
ルスカン伯爵が尻餅をつく。
(そうなのニャ! このクナイは、材料は普通の鉄だけどレインボードラゴンの炎を使ってドワーフさん達が鍛えた、究極の一品なのニャ!)
と、キャト族が胸を張る。
(さぁ、一緒に来るのニャ!)
キャト族は、ルスカン伯爵の手を取って地上へ向けて走り出す。
侵入する時はキャト族1人だったので巡回中の魔族に気づかれることはなかった。しかし、今は違う。気配を消す訓練など全く受けていないルスカン伯爵がいる。
「む? おい人間! 貴様なぜ牢から出ている!」
ルスカン伯爵に気づいた魔族が、剣を抜いてルスカン伯爵に襲いかかる。
「忍法“煙玉の術”ニャ!」
キャト族が、懐から取り出した小さな玉を地面に叩きつける。玉から煙が猛然と噴き出し、魔族の視界を塞ぐ。
「ゲホッゲホッ! なんだこれは!」
魔族が咳き込み、キャト族とルスカン伯爵を見失う。
「ルスカンさん、今のうちニャ!」
キャト族が、ルスカン伯爵の手を強く引いて走り出す。ルスカン伯爵は、自分の手を引く小さな肉球のついた手を信じて、前が見えないままただ走るしかできなかった。
「なんだ貴様ら、止まれ!」
行く手に、また新たな魔族が立ち塞がる。キャト族は再び煙玉を使って魔族の視界を塞ぎ、強引に突破する。
そんなことを繰り返して、いよいよ地上への出口が近づいてきた。
「頑張るニャ、ルスカンさん。もう少しで出口だニャ!」
「ゼェ、ゼェ……!」
返事をする余裕がないほど、ルスカン伯爵は疲労していた。
ザッハークとは違い、ルスカン伯爵は剣術の訓練などしたことがない。身体能力は一般人と同じ。しかも、数年間地下に幽閉されていたためさらに体は鈍っている。
それが急に全力疾走したので、完全に体力が尽きている。走るどころか、フラフラと歩くだけで精一杯だ。
「ゼェ、ゼェ……! 私はもう、ここまでのようです……! 君だけでも逃げてください」
息を切らしながら、必死にルスカン伯爵が声を搾り出す。
「そういう訳にはいかないニャ! なんとしても、無事に地上まで帰ってもらうニャ!」
キャト族が力強く首を横に振る。
しかし、そうしている間にも魔族たちが走って追いかけてくる。
「逃がさないぞ人間め!」
「お前は絶対に地上に出さない! ここで殺してやる!」
魔族達がルスカン伯爵を殺さずに監禁していたのは、万一の際の人質にするためである。しかし、ルスカン伯爵が地上に逃げれば、今街を治めているルスカン伯爵が偽物だとバレてしまう。
そうなるくらいならルスカン伯爵をここで殺した方がいいと魔族達は判断した。魔族達はルスカン伯爵に追いついた瞬間、剣で斬り殺すつもりで追いかけている。
「忍法“まきびしの術”ニャ!」
キャト族が、何かを地面にばら撒く。
まきびし。特殊な形状をした、金属製のトラップである。地面に撒くと必ず複数の棘の内1つが上を向くようになっている。
「痛い! チクショウ、なんか尖ったものをばら撒いてやがる!」
まきびしを踏んだ魔族の1人が、激痛で足を止める。靴を履いていたが、まきびしの棘は靴底を貫通していた。
まきびしの前で魔族達が足を止める。
「俺がいく! 俺は厚底のブーツを履いている! 俺のブーツならこんな棘くらいなんともないハズだ!」
そう言ってまきびしが撒かれたエリアに足を踏み込むが――
「痛ってえええぇ!!」
たまらず悲鳴を上げる。
「このまきびしもナスターシャさんとドワーフさんが協力して作ったものニャ! 鉄製の鎧だって楽々貫通するニャ!」
「ははは。なんと頼もしい……!」
ルスカン伯爵は、苦しみながらもなんとか歩き続ける。
そして、ついに地上へと辿り着いた。
「着いたニャ! やっと地上に出られたニャ!」
「おお、数年ぶりの陽の光……! ありがとうございました、キャト族さん」
久しぶりに浴びる陽の光に、ルスカン伯爵は目を細める。
「ルスカン伯爵! お怪我はありませんか!?」
そんな彼の元に、メルキスが駆け寄ってくる。
「ええ。おかげで無事です。君は……メルキス君か!? 大きくなったな!」
「お久しぶりです、ルスカン伯爵。積もる話はありますが、後にしましょう」
メルキスが大きく息を吸い込む。そして、最大限の声で叫ぶ。
「ルスカン伯爵は無事救出した! 今から、全戦力を投入して魔族どもと勇者を倒す! 全員、突撃!」
「「「応!!」」」
メルキスの号令で、村の戦力が一気に雪崩れ込んでいく。
「あ、途中にまきびし巻いてあるから気をつけるニャ!」
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