第95話 弟と再会する
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僕達が人気の少ない路地を歩いているとき。
「……やっぱり、兄貴だったか」
後ろから、カストルが話しかけてきた。
――ずっと昔。カストルが修行を投げ出す前。僕とカストルは、二人で隠れてある剣術の特訓をしていたことがある。
そして編み出した剣技に、氷と炎、そして17という数字が入っている。”氷炎17”という変な大道芸一座の名前には、僕とカストルにだけ通じる意味が込められていたのだ。
大道芸の噂がカストルの耳に入れば、必ずカストルは気づいてくれると信じていた。
そして実際、カストルは僕達の前に現れた。
ボロボロの布をローブのようにまとって顔を隠しているが、声と雰囲気で分かる。紛れもなくカストルだ。
「……これまで、俺は兄貴を陥れようとした。本当にすまねぇ」
カストルが、頭を下げる。
「許してくれとは言わねぇ。だけど、もし俺をまだ弟と思ってくれているのなら。どうか一つだけ頼みを聞いて欲しい」
カストルは、ローブから何かを取り出して、両手で僕に差し出す。それは、泥だらけの子犬だった。
「俺じゃこれ以上、この犬を匿えねぇ。エサも足りねぇし、怪我もちゃんと手当てしてやれねぇ。それに、俺と一緒にいたら、こいつまで魔族と勇者に捕まって今度こそ殺されちまう。……俺にはもう他に頼れるやつがいない。兄貴、どうかこいつを頼む」
カストルがまた深々と頭を下げる。
”クゥ~ン”
子犬が、僕達とカストルの方を不安そうに見比べている。
「……分かった。頭を上げてくれ、カストル」
「兄貴……」
僕は、カストルの腕を掴む。
「宿はすぐ近くだ。カストル、お前も来るんだ」
僕はカストルの腕を引いて、宿の方へ向かう。
「ちょっと待てよ兄貴! 俺のことはいいって! この子犬だけ預ければ俺は――」
「良い訳無いだろう! 早く! 人目に付かないようにさっさと行こう!」
僕とカストル、そしてマリエルは駆け足で宿の自室に戻る。
「なんでだよ、兄貴……。俺は今、指名手配されてるんだぞ? 俺なんか匿ったら、兄貴まで巻き込まれちまうんだぞ」
宿の部屋で、カストルが僕をにらみつける。
「分かってる。話は後だ。ベッドの下に隠れていてくれ」
宿屋の階段を、いくつかの足音が上ってくる。そして、ノックも無しに扉を開けられた。
「王国憲兵団だ。この部屋に、指名手配されている男が匿われているという目撃情報があった」
部屋に押し入ろうとしているのは、そろいの甲冑をまとった王国憲兵団。それに、後ろには見覚えのある豪華な甲冑姿の男も控えている。
勇者ラインバート。相変わらず、凄い威圧感を放っている。
思ったより早くきたが、こうなることは想定済だ。既に、策は打ってある。
「さぁ、部屋の中を調べさせてもらおう。妙な動きをするなよ」
王国憲兵団達が、部屋に入ろうとしたその時。
「おいお前ら、俺を探してんのかよ?」
後ろから声を掛けられ、勇者ラインバートと王国憲兵団が振り返る。
そこには、カストルが立っていた。
「俺ならここだぜ。憲兵団も勇者サマも、一体どこに目を付けてやがる」
「なんだとてめぇ!」
カストルの挑発に激昂した勇者ラインバートが腰の剣を抜く。
「あばよ、マヌケども」
カストルは、軽い身のこなしで宿を出て行った。
「待ちやがれ! 今度こそぶっ殺してやる! お前らも来い!」
勇者ラインバートと憲兵団達がその後を追いかけていってしまう。もうここに戻ってくることはないだろう。
「どういうことだ……? 俺がもう一人……?」
ベッドの下から出てきたカストルが、唖然としていた。
「今のは僕の村の仲間、カエデだ。変装と潜入の達人でとても素早い。こんなこともあろうと、予め助けてくれるように頼んでおいたんだ」
「そ、そうか……すげぇな、兄貴の村の仲間は」
きっと今頃カエデは、全く違う姿の人間に化けて悠々と逃げ切っているはずだ。
僕は、治癒魔法でカストルと子犬の怪我を治す。宿の女将さんに事情を話して、部屋をもう一つ借してもらいカストルにはそこで過ごしてもらうことにした。
子犬は部屋に置いておく訳にはいかないので、女将さんに預かってもらった。
「兄貴。俺が魔族と出くわしたのは、北の方の繁華街の裏路地だ。もしかすると、その近くに魔族の拠点があるのかもしれねぇ」
疲れ切った様子のカストルが、静かにそう教えてくれた。
「分かった。情報ありがとう、カストル。行ってくるよ」
「それから兄貴……いや、何でもない」
カストルは、何か言いかけてやめた。そして、自分の部屋に入っていった。
「メルキス。カストル君と色々話しておきたいことあるんじゃないの?」
僕達の様子を静かに見守ってくれていたマリエルが、僕に話しかける。
「確かに色々話したいことはあるけど……カストルは疲れてるだろうし、また後にするよ」
そして、僕とマリエルは自分の部屋に戻った。
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