第80話 王女マリエルの誕生日
この作品はWEB版と書籍版でかなりイベントの時系列が変わっております!
そのため書籍版からWEB来た方は『あれ、このイベント前もみたぞ?』ということもあるかと思います! ご承知おきください!
「パンパカパーン! メルキスに問題です。今日何の日でしょうか!」
ある日の朝。
日課のランニングを終えて屋敷に戻ってきた僕を、ハイテンションのマリエルが出迎えてくれる。
「もちろん覚えてるよ。マリエルの誕生日だ」
「せいかーい!」
当てると、それだけでマリエルが嬉しそうに部屋の中をぽんぽこ飛び跳ねる。
僕は自室に戻り、プレゼントを引き出しから持ってくる。
「マリエル、あらためて誕生日おめでとう」
僕はマリエルにプレゼントの紙包みを差し出す。僕が選んだのはバレッタだ。夜会のドレスにも併せられるように派手過ぎない大人っぽいデザインをえらんだつもりだ。そしてさりげなく、マリエルが好きな花であるヒマワリがモチーフになっている。
キャト族さん達の商会で買ったものだ。女性の装飾品選びには自信がなかったので、カエデにも選ぶのを手伝ってもらった。
もっとも、カエデには『主殿が選んだプレゼントであればなんでも喜ばれると思いますが……』と言われてしまったが。
「ふおおおおぉ……! メルキスが選んでくれたバレッタ! ヒマワリのデザインが入ってて超可愛い……!」
マリエルが目を輝かせながら、ヘアピンを高く掲げて眺めている。気に入ってもらえたようで、一安心だ。
「ありがとうメルキス、大事にするね! 国宝として宝物庫で大事に保管するね!」
それは止めてくれ。
「ねぇメルキス、付けて付けて~!」
マリエルが頭を差し出してくる。
「慣れてない僕よりもメイドさんに頼んだ方が良いと思うけどな……」
「駄目です。王女命令です。メルキスが私の髪にバレッタを付けなさい」
王女命令まで持ち出してきた。こうなったらマリエルは聞かない。
僕はマリエルのサラサラの髪に触れる。
当然ぼくは女性の髪に装飾品を付けたことなど無い。どのあたりに付けたら良いのかまるで分らないぞ……!
「うーん。この辺りに付けるのが一番可愛いか……?」
「かわいい!?」
マリエルの頭から湯気が吹きあがる。なるほど、付ける位置が気に入らなくて怒っているんだな。
僕は乙女心がよくわかるほうなので、この程度のことは簡単に読み取れる。
こうして苦戦することおよそ5分。
ようやく付けたバレッタは、やはりよく似合っていた。マリエルは手鏡を見て、満足そうに笑っている。
「こんなことでよければ、毎日でもしてあげるけど」
「毎日!?」
途端にマリエルが身構える。
「こここ、言葉には気を付けるんだよメルキス! ”毎日”といったからにはこれから先10年も20年も、もっとその先も含まれるんだからね!? その覚悟はあるんだろうね?」
「別に構わないけど。慣れたら1回1分も掛からない作業だし」
マリエルがバッと後ろに下がる。熟練の騎士も唸るほど素早いバックステップだ。見事というほかない。
「言ったね!? 聞いたからね! これから先、おばあちゃんになってもずっと毎日バレッタを付けてもらうからね!? かかか、覚悟しておいてね!」
顔を真っ赤にしてマリエルが僕を指さす。
うーむ。どちらかというと、マリエルの方が嫌になるのではないだろうか。歳を取ればデザインの好みなども変わるだろうし……。
小さいころからの付き合いだが、たまにマリエルは何を考えているのかよくわからない。乙女心が良くわかる僕でも分からないとは、手ごわい女の子だ。
そうこうしているうちに、玄関の呼び鈴が鳴る。
「あ、王都から呼び寄せたギフト鑑定士さんが来た!」
そう、今日で15歳になったマリエルは遂にギフトを授かるのだ。どんなギフトを授かるのだろうか、楽しみだ。
「私はもう一回顔を洗って冷やしてくるから、メルキス出てくれる?」
そういってマリエルは洗面所の方に行ってしまった。
こうして、マリエルのギフト鑑定が始まるのだった。









