第78話 初めて味わう焼き鳥の味に圧倒される
メルキスに連れられて村を案内している王国騎士団団長クレモンと、その補佐官ローラ。
「メルキス君。これはアカンで。真っ黒や」
クレモンが睨みつけているのは、村の隅にある小屋だ。
「この小屋が、どうしましたか?」
「しら切ってもアカンで。これだけの数のこの強力な魔獣。見逃すわけには行かへんなぁ」
そう言ってクレモンが指さすのは、小屋の中の突然変異コカトリス――通称巨大ニワトリだ。
「生物兵器やろ、これ? こんなもん都市の真ん中に放ったら、どんな精鋭騎士団がいても間違いなく壊滅――」
「ああ、ここは家畜小屋です」
「「家畜ぅ!?」」
”コケ―――!!”
2人の声に張り合うように、巨大ニワトリが鳴き声を上げる。
「さっきから檻を蹴ってるあの脚力。普通の木なら1発で蹴り倒すだけのパワーがあるように見えるんやけど……」
「はい。ついでに、目から石化光線も出してきます。0.3秒以上当たると石化します」
「「ニワトリ怖!!」」
クレモンとローラが縮みあがる。
「石化光線を撃ってきたら僕が防ぎますが、念のためあまり近づかないでください。あ、丁度1羽連れていかれるところですね」
メルキスの指さす方から、1人の村人が歩いてくる。
”””コケー!!”””
ニワトリ達が一斉に威嚇しながら石化光線を村人めがけて放つ。村人はそれを俊敏にかわし、手に持っていた鍋のフタで受け止めながら近づいていく。
そして檻の中に入り、1羽を捕まえて手際よく目元に布を巻きつけて運び出していく。
「うわっ……ホンマに家畜扱いしとる……あのやっばいモンスターを……」
クレモンはもはやあきれていた。
「そうだ、丁度いい時間ですしお昼ご飯にしましょうか」
そう言ってメルキスは、2人を極東料理の店に連れていく。
「いらっしゃいませ! 領主様、ようこそお越しくださいました!」
「こんにちは。焼き鳥盛り合わせとご飯を、3人前お願いします」
「承知しました!」
店主が機嫌よく調理を始める。
「メルキス君、あの店主の顔見おぼえあるで。さっきのシノビの1人やん」
「はい。普段はそんなに諜報の仕事がないので趣味も兼ねてお店を開いているシノビさんもいます。もちろん、シノビ1筋で食べていけるだけのお給料はお支払いしているのですが」
「あのレベルの諜報員が、食堂の店主って……」
クレモンはあきれていた。
「はい、焼き鳥3人前です!」
3人の座るテーブルに、串が山盛りになった皿が運ばれてくる。
「見たこと無い料理やなぁ」
「極東大陸の料理を作ってもらいました。使っている鶏肉はもちろん、さっきお見せした巨大ニワトリのものです。肉の間に入っているのは、ネギという茎のような野菜です」
「まぁ、鶏肉なんて焼いたらどれもみんな同じような味やし、マズイって事はあらへんやろ」
クレモンは、特に期待せずに焼き鳥を口にする。が――
「う、まああああぁ!?」
炭火で焼くことによる香りづけ。醤油をベースにしたタレの風味。クレモンにとって、どちらもこれまで体験したことのないものであった。
そして、鶏肉の間に挟まっているネギが鶏肉の脂っこさを和らげてくれる。
しかも使っている鶏肉がそんじょそこらの鶏肉ではない。突然変異コカトリスの肉を使っているのだ
「こんなうまいもんがこの世にあったんか……!」
一緒に出された白飯も、どんどん減っていく。濃い味付けの焼き鳥と素朴な味の白飯の相性が、とても良いのだ。
あっという間に、クレモンの皿は空になった。
「どうですか、この美味しさを味わってもらえれば、あの突然変異コカトリスも家畜だと納得してもらえますよね?」
「……いや、まだそう言い切れへん」
「え」
クレモンの返事は、メルキスにとって意外なものだった。
「まだ調査は不十分や……。これはもっと調査の必要があるで。――というわけで、おかわりちょうだいな!」
「あ、団長調査にかこつけてズルいです! 私もおかわりおねがいします!」
「そう言えば、僕は飲みませんが村の皆さんによると、焼き鳥はビールにも合うらしいですよ」
「なんやって!? アカン、そんなん聞いたら……そんなん聞いたら、喉乾いてきてまう……。これはビールとの相性も調査せなあかんね」
「だだだ駄目ですよ団長! 今は仕事中なんですから! ううううぅ、私だって本当はビール飲みたいですよぉ……」
恨めしそうな目をしながら、クレモンとローラは凄い勢いでお代わりの焼き鳥を平らげていくのだった。









