第74話 剣の切れ味はもはや計測不能だった
「さぁ、早速試してほしいデス」
といって、ドワーフさんが剣を――マリエルに渡した。
「え、私が試すの!?」
「そうデス! 領主様が試したら、どんな剣を使ってもなんでも斬れてしまうのデス。試し斬りの意味が無いのデス」
「確かに。メルキスなら、安物の剣で丸太でも石でもなんでも斬っちゃうからね」
「わっはっは! ちげぇねぇ!」
「その通りだと思うのニャ」
村人の意見が一致している。
試し斬りのため、僕たちは訓練場へ移動する。
「マリエル様、試し斬りにコレを使うのはどうですかい」
タイムロットさんが、巨大な斧を持ってきた。
かつて村を襲ってきたモンスターの大群のボス。あの黒いミノタウロスの持っていた斧だ。
「なるほど、これなら斬るのに相当な切れ味が必要です。試し斬りの相手に丁度いいですね」
タイムロットさんが、斧を平たい岩の上に乗せる。
「じゃあ、いっくよー!」
マリエルが剣を構える。
マリエルは、剣や武術に関する修行は一切していない。子供のころ僕とチャンバラをして遊んだことがあるくらいだ。完全に剣の素人だと言っていいだろう。
「えいっ」
素人らしいフォームで振り下ろす。
”ストン”
軽快な音がした。
「あれ? 手応えがなかったよ?」
マリエルは、不思議そうに自分が振り下ろした剣を見る。
斧は、真っ二つになっていた。斬られた断面は、まるで磨き上げられた鏡のように滑らかだ。
どころか。
”パカッ……”
置台にしていた、平らな石も真っ二つになっていた。
「えええ!? そこまで斬るつもりなかったのに!」
石の断面も、磨き上げられたかのように滑らかだった。
素人のマリエルが使っただけでこの切れ味。これを、剣の道を歩んでいる僕が使ったらどうなってしまうのか。今この場で僕が試し斬りをしても無意味だろう。間違いなく、この場にあるもの程度ならなんでも斬れてしまう。
少し恐ろしくなりながら、僕はマリエルから剣を受け取る。
途端に、身体に力がみなぎる。
ドワーフさんの『剣の切れ味が良いほど持ち主のパラメータを上げる』ギフトの効果だろう。
「凄い、パラメータが3倍、いや4倍以上に上がっている……」
軽く振ると、恐ろしく手に馴染む。まるで何十年も使ってきたかのようだ。体の一部にさえ感じられる。
剣の表面を眺めると、うっすらと虹色に輝いている。仕上げにレインボードラゴンの逆鱗を使っているからだろう。
「そう言えば、名前を決めていなかったな……。元が”宝剣イングマール”だったから、刀身の色味から取って”虹剣イングマール”でどうだろう?」
「良いネーミングするじゃない、メルキス」
マリエルのお墨付きをもらえた。
――この後、ドワーフさん達には他の人の剣もうち直してもらった。
ミスリルとアダマンタイトは僕の剣に使ってしまったのでもうない。だが、ただの鉄でもナスターシャの炎とドワーフさん達の腕前によって鍛えられれば、性能は跳ね上がる。
一週間後。
村の武器の水準は大きく向上した。
宝剣級の剣以上の性能を持つ剣が、そこら中にゴロゴロ転がっている。耐久性も上がったので、これで訓練中に武器を壊してしまう心配もない。
「シノビさん達ー! 手裏剣の試作品ができたデス!」
「こんな形の武器、初めて作ったデス」
「試してほしいデス!」
ドワーフさん達が、意気揚々と訓練場にやってきた。手に持っているのは、シノビさん達が普段使っている飛び道具”手裏剣”だ。
「おお、ありがとうございます」
カエデが屈んでドワーフさんから手裏剣を受け取る。
「では、早速試させて頂きます。とうっ」
訓練場の丸太に向かって、カエデが手裏剣を投げる。手裏剣は丸太に向かって飛んでいき――
”スパンッ”
真っ二つに両断した。
「えっ」
手裏剣の勢いは止まらない。そのまま、奥に立ててあった丸太をスパンスパンと連続で斬って行き、誰かが魔法で作り出した岩にぶつかる。巨大な岩に深い傷跡をつけて、ようやくそこで止まった。
「おおー、破壊力満点デス」
「重量バランスも問題なさそうデス」
「でも、もっと切れ味があってもいいかもしれないデス。鉄を加熱する時間と叩く回数をもっと調整したら、切れ味はまだまだ上がりそうデス」
「賛成デス。早速工房に戻って改良版を作るデス」
などと話しながら、ドワーフさん達は戻っていった。
一方のカエデは
「いえ、切れ味は良いことに越したことはないのですが……なんというか、手裏剣はこういう武器ではないのです。もっとこう、相手の急所にスマートに当てて戦闘不能にする武器なのです……。決して切れ味が良すぎて困るわけではないのですが……」
カエデが、複雑そうな顔をしている。周りにいるシノビさん達も頷いている。
シノビの皆さんは大半が魔族捜索に出かけているが、休憩のために交代で村に戻ってきている。ただし休みの日でも身体がなまらないよう、基礎訓練はしっかり行っているのだ。
複雑そうな顔をしながら、それぞれ普通の手裏剣の訓練へと戻っていった。
「手裏剣……カッコイイのニャァ……!」
そして、その手裏剣の訓練の様子を、後ろでキャト族の皆さんが目を輝かせながら見ていた。
その気持ち、よくわかる……!
極東大陸のシノビ達の扱う道具は、この大陸にはない独特の雰囲気があり、渋いというか格好いいのだ。
「カエデ、よかったらキャト族の皆さんに手裏剣の扱いを教えてあげてくれないか?」
「ニャ!? いいのですか領主様!?」
キャト族の皆さんが尻尾をくねくねさせながら喜ぶ。
「もちろん構いませんとも。ではまず、基本の構えから――」
こうしてカエデをはじめとするシノビ達による、キャト族への手裏剣講座が始まった。
「実は以前より、キャト族にはシノビの才能があると感じておりました」
投げ方のフォームを教えながらカエデが口にする。
「キャト族とは、腕力は弱いですが小柄でとても素早く夜目も効く。オマケに耳も良いと、隠密活動を基本とするシノビととても相性が良いのです」
「ニャニャ! 確かにそうかもしれないのニャ!」
「考えたこともなかったのニャ!」
明かされた意外な才能に、キャト族は大興奮だった。
「そして今知ったのですが、キャト族は意外と手先も器用です」
カエデがそう言いながらキャト族さんの肉球を触っている。
いいなぁ、僕もあの肉球触ってみたいなぁ。
「主殿に許可さえ頂ければ、これからキャト族の皆様にシノビの訓練を受けていただこうかと思うのですが、如何でしょう? キャト族のシノビは、必ず村の役に立つはずです」
「もちろんOKだ! よろしく頼むよ、カエデ」
「承知いたしました」
「やったのニャ! ボク達もシノビになれるのニャ!」
「師匠、よろしくお願いしますニャ!」
多くの種族が集まるこの村だからこそ、違う種族が交差することで新しい力が生まれることもある。これからも、違う種族が協力することで何か新しい力が生まれないか、考えて見ようと思う。
この日から、キャト族はシノビの訓練を受けるようになったのだった。
……そして僕もどさくさに紛れて、手裏剣の扱いを教えてもらった。
一度使ってみたかったんだ、これ。
〇〇〇〇〇〇〇〇村の設備一覧〇〇〇〇〇〇〇〇
①村を囲う防壁
②全シーズン野菜が育つ広大な畑
③レインボードラゴンのレンガ焼き釜&1日1枚の鱗生産(百万ゴールド)
④大魔法図書館
⑤広場と公園
⑥華やかな植え込み
⑦極東風公園
⑧極東料理用の畑
⑨極東料理用の畑
⑩温泉
⑪ドワーフの鍛冶場[New!!]
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