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第67話 モンスターに襲われているドワーフを助ける①

 ――深い森の中を、小さな人影達が懸命に走っている。


 ドワーフ。亜人の一種である。


 争いを好まない温厚な性格で、多くは人間の目につかない森の奥に村を作ってひっそりと暮らしている。


 そのドワーフたちが、必死に何かから逃げている。全員ボロボロで、怪我で動けない仲間を背負っている者もいる。


 そんなドワーフ達の行く手に、人間が立っていた。メルキスの村の冒険者のリーダー、タイムロットだ。後ろには、何人か仲間の冒険者を引き連れている。


「人間さんデス! なんでこんなところにいるのデス?! 今この森は危険デス! 一緒に逃げるデス! とてもとても恐ろしいモンスターが追ってくるのデス!」


 ドワーフは少し舌足らずな喋り方だが、モンスターに怯えている恐怖はタイムロットにしっかり伝わった。


「恐ろしいモンスター? 一体どんなやつだ?」


「”ドレッドコブラ”という、とても強い毒性を持つ巨大な蛇モンスターデス! 仲間は何人もあのモンスターにやられたのデス! 人間さんも急いで逃げ――」


 そこで、ドワーフは気づく。タイムロットが何かを引きずっている。


 その“何か”は、どんどん後ろにいくにつれて、太くなっていく。そしてその“何か”の表面には鱗があった。


 ドワーフ達は、タイムロットが何を引きずっているのか気づく。


「「「ド、ドレッドコブラを引きずってるデスー!?」」」


「あ、これか? さっき出くわした”でっけぇ蛇”だ。知ってるか? 蛇の肉って、脂ぎってるけど美味いんだぜ? 後で一緒に鍋で煮て食おうぜ」


「いやそのモンスターは、ワタシ達の村を滅ぼした凄く強いモンス――」


 その時、茂みから新しい影が飛び出してくる。


『シャアアアアアァ……!』


 ドレッドコブラが鎌首を持ち上げ、獲物を見つけた喜びに目を輝かせている。


「また出たデス!」

「もうダメデス!」

「今度こそお終いデス!」


 ドワーフたちが絶望して、頭を抱える。


「タイムロットさん、今度は俺がやるっす」


 タイムロットのうしろから、1人の若い冒険者が出てくる。


「人間さん、気をつけてください! その蛇はただの蛇じゃなくて……」


「わかってるっす、ドワーフの皆さん。俺だって馬鹿じゃないんス。あれがただのデカイ蛇じゃないことぐらい、ちゃんとわかってるっス」


「人間さん……わかってくれたんデスね!」


「わかってるっすよ、あれがただのデカイ蛇じゃなくて、“毒のあるデカイ蛇”だってことくらい」


「「「人間さん、何も分かってないデス!!」」」


 ドワーフ達は、また頭を抱える。


 そして、そんな様子をお構いなしにドレッドコブラが襲ってくる。


「毒蛇を相手にするときには、コツがあるんス。噛まれないようにまず頭を押さえるんス。重力魔法、“グラビティフィールド”発動」


『シャー!?』


 コブラの頭が地面に叩きつけられる。見えない重力の力で押さえつけられているのだ。


 牛一頭を咥えて軽々持ち上げるだけのパワーがあるドレッドコブラだが、全く身動きが取れない。


 若い冒険者が剣を抜き、一瞬でコブラの首を斬り落とす。


「扱いの難しい重力魔法をあんなに簡単そうに使うなんて、すごいデス! どうやって覚えたデスか!?」


「村の図書館にある魔法の本で勉強したっス」


「図書館で、勉強した……?!」


 ドワーフ達は、混乱していた。


 その時、地響きが起きる。


「な、何が起こってるデスカ!?」


 ドワーフ達がうろたえる。


 木々の間から、ずるり、ずるりと先ほどよりはるかに巨大な何かが出てくる。


 現れたのは、3つの頭を持つドレッドコブラ――”キングドレッドコブラ”。全能力が通常種より遥かに強力なドレッドコブラの上位種モンスターだ。特に牙の毒は強力で、かすり傷一つでも付ければどんな相手だろうと即死させる威力を誇る。


 大量の獲物を見つけたキングドレッドコブラが、嬉しそうにシュルルルと音を立てる。


「そんな、まだこんなモンスターが出てくるデスか……」

「希望など、もうどこにも無いデス」


 ドワーフ達の心が折れる。膝を折って地面に崩れ落ちた。


「うわまた出た。めんどいっすね。タイムロットさん、今度はどっちが相手するかじゃんけんっスよ」


「チッ。しゃーねーなー」


 ドレッドコブラそっちのけで、タイムロットと若い冒険者はのんきにじゃんけんしている。


「クソ、俺の負けだ。面倒くさいけど相手してやっか」


 じゃんけんで負けたタイムロットが、頭をかきながらキングドレッドコブラに向き直る。


 しかし――


『『『シャー!!』』』


 じゃんけんが終わるのを悠長に待つキングドレッドコブラではなかった。じゃんけんが終わる前にすでにキングドレッドコブラは攻撃を開始していた。


 3つの巨大な蛇の頭がタイムロットに襲い掛かる。すでに、かみつく寸前まで頭が近づいていた。


「人間さん、危ないデス!」

「のんきにじゃんけんなんてしてるからデス!」

「もうどうやっても避けられないデス!」


 かすり傷1つつければ人間を即死させる毒牙が、タイムロットを襲う。


 しかし。


「身体能力強化魔法”アイアンマッスル”発動」


 瞬間、タイムロットの筋肉が膨れ上がる。その表面は、金属のような光沢を帯びていた。


”ぽきん”


 という気の抜ける音を立てて、キングドレッドコブラの牙は全て折れた。


 かすり傷さえつければ即死させる毒も、傷が付けられなければ送り込むことができない。


『『『シャー!?』』』


 予想外の事態に、キングドレッドコブラが後ずさる。


「じゃ、面倒くせぇけどやるか。1回でまとめてぶった切ったほうが楽そうだな」


 タイムロットが斧を構える。


「鋼鉄魔法”ジャイアントブレード”発動」


 タイムロットの斧が、巨大化していく。刃が人間より大きくなり、まだ成長していく。最終的に、刃渡り10メートル以上の巨大な斧になった。


「この巨大な斧は、なんデスカ……!?」

「身体能力強化魔法と鋼鉄魔法、2系統の魔法を使えるのも凄いデス!」


 ドワーフ達が、口々に驚嘆の声を上げる。


「どっせい!」


 タイムロットが間合いを詰める。そして、巨大な斧がキングドレッドコブラの3つの頭をまとめて斬り落とす。


『『『シャー!?』』』


 何が起きたのか信じられない、とでも言いたげな表情のキングドレッドコブラの3つの頭が地面に落ちる。


 そして、森に静寂が戻った。


「ほ、本当に勝っちゃうなんて凄いデス!」

「人間さん達、強すぎデス!」

「常識外れにも程がありマス!」


「なんだ? 頭が3つあるだけの蛇倒しただけじゃねぇか。大したことじゃねぇよ」


 タイムロットは元の大きさに戻った斧を背負いなおす。そこでタイムロットは、1人の仲間を背負ったドワーフの違和感に気付いて声をかける。


「おい、そのドワーフ……」


「はい。背負っているのは、ワタシの弟デス。逃げ遅れたワタシをかばって、ドレッドコブラに噛まれて、死んでしまいマシタ。せめてどこか見晴らしのいい丘に埋葬してあげたいのデス。背負っている分逃げるのが遅くなるのは分かっているのデスが、どうしても置いていく事は出来ないのデス!」


 ドワーフは涙を浮かべる。


「事情はわかったぜ。なぁリリーちゃん、”アレ”頼むわ」


「分かりました」


 呼ばれてメルキスの村のシスター、リリーが出てくる。冒険者ではないが、回復魔法要員として同行しているのだ。


「超上位魔法”ヘヴン・ゲート”発動」


 魔法が発動した瞬間、空が割れる。そして空の裂け目から、橙色の光が死んだドワーフに降り注ぐ。


「あれ。ぼくは一体……?」


 すると、死んだはずのドワーフが息を吹き返した。


「生き返った……!? 弟が生き返ったデス!」


 ドワーフ達は抱き合って喜ぶ。


「人間さんありがとうデス! この恩は必ず返すデス!」


 ドワーフ達は、何度も何度も頭を下げる。


「一体さっき何をしたデスか? 死人を生き返らせる魔法なんて聞いたこともないデス!」


「何って、図書館の本で勉強した超上位死者蘇生魔法を使っただけですよ?」


「「「どんな図書館デスか!」」」


 ドワーフ達が一斉に突っ込む。


 何がおかしいのかわからないといった様子で、リリー達は首をひねる。


「とにかく、助けて頂いてありがとうデス!」

「凄いデス!」

「格好いいデス!」

「あなた達こそ国最強の戦士デス!」


 しかし。


「いやいや、俺が国で最強なんて。そんな訳ないっスよ。俺なんて村の中じゃ中の下くらいっス」

と、若い冒険者。


「私はそもそも本業がシスターなので、強さのランキング外ですねぇ」

と、シスターのリリー。


「俺は村の中だと強い方だが、俺より強い奴は村に何人もいる。極東大陸のシノビの頭領とか大賢者サマとかドラゴンとかな。そして、領主サマは更に強くて、俺が100人で掛かっても手も足もでねぇぜ」

と、タイムロット


「そ、そんなに強い人がいるのデスか……!? 想像できないデス!」


 ドワーフ達はまたまた混乱する。


「ところでよ、さっきからでけぇ蛇しか出て来ないけど、言ってた『恐ろしいモンスター』ってのはどこにいるんだ?」


「へ?」


「おいお前ら、気ぃ抜くんじゃねぇぞ! 『恐ろしいモンスター』ってのはどっから襲ってくるか分からねぇからな!」


「「「了解!!」」」


 ドワーフ達は呆れた顔をしていた。

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