第62話 大賢者から魔法を教わりメキメキと力をつける
「それでは、講義を始めるぞ我が弟子よ」
エンピナ様が村の仲間になった翌日。
僕は自宅のリビングでエンピナ様から魔法の教えを受けていた。
僕がソファに腰掛け、エンピナ様が壁に魔力を使って文字や魔法陣を書いていく。
僕はノートを取る代わりに、手元で魔法を組み上げることで理解を深めていく方式だ。
「我が弟子のことだ、魔法についての初歩的な理論については理解していると思うが復習がてらゼロから話すとしよう。まず、魔法とは――」
本当に初歩の初歩、伯爵家にいた頃に基礎教養として学んだ内容から講義が始まったのだが――。
「エンピナ様、今話した内容で論文を書けば、国中の魔法使いが飛び上がるほど驚くと思うのですが……?」
僕は、伯爵家にいたころに魔法使いの家庭教師から魔法理論の基礎について学んだ。伯爵家は剣術の名家だが、基礎教養として教わっていたのだ。
その時、『この問題については、国中の魔法使いが頭を悩ませているがいまだに解明されていない。きっとあと10年魔法研究が進んだ頃に解明されるだろう』と言われていた問題がある。
しかし、エンピナ様は今さらっとその問題の解決方法について説明した。
「なぬ? 俗世の魔法使い共はこんなものも解けぬ程遅れているのか? しょうがないことだ」
エンピナ様はため息をつく。
「エンピナ様、この内容で論文を書いて発表しないのですか?」
「せぬよ、そんな面倒なこと。……昔は我も、多くの人間で研究したほうが効率がいいのではないかと考え、多くの人に魔法を教えていたが、やはり素質がないと伸びなくてな。しつこく教えを乞われているうちに自分の研究を進める時間も無くなってしまった。以降、余程素質のあるものにしか魔法を教えぬと決めたのだ」
「そうだったんですね」
こんな素晴らしい研究成果があるのにそれを公表しないのは勿体ない気もするが、そう言った事情であれば仕方ない。
その後も、エンピナ様の講義は続いた。
「では次。少し難易度をあげるぞ。この理論について理解してみよ」
エンピナ様が、1冊のノートを手渡してくる。
「我が残した研究記録だ。そうだな、汝であれば2、3時間もあれば理解できよう。我は少し休む」
そう言ってエンピナ様は、ソファに座る僕の膝を枕に寝てしまった。
「距離が、近い……!」
数百年生きているエンピナ様にとって、15歳の僕など幼子同然なのだろう。だが、それにしてもめちゃくちゃ距離感が近いな。
そして眠っているエンピナ様は本当にただの12、3歳の少女にしか見えない。
「メルキス。ちょっといい?」
後ろから、マリエルが声をかけてくる。
”むぎゅっ”
マリエルの手が、後ろから僕の頬を掴む。
「私には、王族でありメルキスの婚約者という立場があるんだよね。でも、メルキスが私を差し置いて他の女の子と一番長い時間くっついていると、私の婚約者としての面子が潰れちゃう。ここまではいい?」
「いつも一緒に寝ているマリエルの方がくっついている時間は長いんじゃないのか?」
「寝ている時間はノーカン!」
そうなのか。
「だけど、国の伝説的英雄であるエンピナ様を無理矢理引き剥がす訳には行かない。流石に王族の私でも、それはちょっと畏れ多い」
マリエルは僕の頬をこねくり回す。
「なので、こここ、こういう解決方法をとろうと思うんだけど、いいかな? いいよね!?」
マリエルが、ソファに座る僕を後ろから抱きしめる。
「これならエンピナ様を引き剥がさなくても私の婚約者としての面子が保たれる! かかか完璧な作戦だよね!」
僕の顔のすぐ横にマリエルの顔が来るし、肩のあたりに豊かな胸が押し付けられる。気のせいか、甘い香りがする。
これは、集中できない……!
が、確かにマリエルの面子も潰すわけにはいかない。王族が、婚約者を他の女に取られたなどという噂がたったら大スキャンダルである。
「……わかった。ところで、いつまでくっつくんだ?」
「もちろん、メルキスが本読んでる間ずっと!」
僕は観念した。雑念を振り払い、目の前の本に集中する。
マリエルは頬を僕の頬にすり寄せてくる。面子を保つためにそこまでする必要はないと思うのだが……?
そうして非常に誘惑が多い中、何とか僕は渡されたノートを読み切ったのだった。









