第6話 【実家SIDE】父上、早速メルキスを追放したことを後悔する
メルキスの父、ザッハーク・ロードベルグは、国王に呼び出されていた。次男のカストルも一緒に連れてきている。
ザッハークは以前国王から、『近々、伯爵から候爵へ爵位をあげてやろう』という内容の手紙をもらっていた。
今日はきっとその件なのだろう、とウキウキして、顔のにやけを抑えることに苦労しながら謁見の間へ足を踏み入れる。
玉座では、国王が待っていた。
「陛下。ザッハーク・ロードベルグ、只今馳せ参じました」
「うむ」
ザッハークとその次男がひざまずく。一方の国王は、険しい顔をしている。
「ザッハークよ。息子のメルキスを、辺境の村の領主にしたそうだな」
「は。その通りにございます」
ザッハークは、国王が『ハズレ才能を授かったクズはマリエルの許嫁にふさわしくないな。代わりに、そこのカストルをマリエルの許嫁にしようではないか』
と言うと思っていた。
しかし、
「どういうことだ。メルキス君を追って、我が娘のマリエルも辺境の村に行ってしまったではないか」
王からは、予想外の言葉が返ってきた。
「な、なぜマリエル様がメルキスを追って行ったのです?」
「そりゃ決まっているであろう。マリエルはメルキス君のことが大好きじゃからなぁ」
ザッハークは、そんなことは初耳だった。後ろにいるカストルも混乱している。
「そ、その。恐れながら申し上げます。メルキスからは、マリエル様とメルキスの婚約は、マリエル様が嫌がっているのに陛下が無理やり決めたと聞いているのですが……?」
「なんと。それはマリエルが恥ずかしがっているだけじゃな。本当は、マリエルが無理やりメルキス君との婚約を決めたんじゃよ。ワシは、伯爵家などの男を婿にするのはいかんと最初は反対したんじゃが」
ザッハークはポカンとしていた。
「普段は素直に言うことを聞くマリエルが、メルキス君と婚約すると言ってダダをこねまくってな。手を焼いたが、あの時のマリエルは可愛かったのう」
国王は楽しそうにその時のことを思い返す。
「それでな、マリエルにそこまで言わせるメルキス君がどんな男か知りたくなって、こっそりと王宮に呼んで3人でお茶を飲んだことがあったのじゃが……」
(メルキスが陛下とお茶を!? 初めて聞いたぞ!?)
ザッハークは今日何度目かの衝撃で頭の中が真っ白になっていた。
「ああ、知らんでも無理はない。ワシが口止めしておいたからな。いやー、マリエルがこだわるのも納得の、純朴で器が大きい男だったよメルキス君は。騎士団の者と模擬試合もしてもらったが、剣技・弓術・馬術・格闘術、全て完ぺきだった。礼儀作法もな。努力家だのうメルキス君は」
「あ、ありがとうございます……」
「実はな、お茶の途中でメルキス君にうっかり『お義父さん』と呼ばれてしまったのじゃが……恥ずかしながらマリエルと一緒にワシまで照れてしまったよ。いやー、メルキス君にもう一度『お義父さん』と呼んでもらえる日が楽しみじゃなぁ」
国王は恥ずかしそうに頬をポリポリとかく。
「ここだけの話、もうワシもメルキス君を実の息子のように思っておるよ。……じゃが、やはりマリエルと結婚させるにはちと家柄が問題でな。伯爵家程度と王女を結婚させるわけにもいかん。だから、差を埋めるためにロードベルグ家の爵位を上げてやろうと思っていたのじゃが……」
「そ、そんな……」
ザッハークは、足元が崩れ落ちるような感覚に襲われていた。候爵の地位を手にできるのは、自分の実力だと思っていた。それなのに、それがすべて、クズと決めつけ追い出したメルキスのおかげだったとは。
「しかしそのメルキスがいないのではな……侯爵の爵位の件も白紙じゃな」
「そ、そんな!」
ザッハークは悲鳴のような声を上げる。
「そして、そもそも何故、メルキス君が田舎の村の領主に任命されているのかな?」
ザッハークは、ダラダラと冷や汗をかいている。
「まさか、15歳になって授かった才能がハズレだったから伯爵家から追放――」
「い、息抜きでございます!」
ザッハークは必死で言い訳を並べる。
「メルキスは日頃から必死に訓練していました。しかし、ハズレ才能を授かりとても落ち込んでいたので、
『そんなにクヨクヨするな。才能の良し悪しで人の価値が変わったりしない。どんな才能を授かっても、お前が愛する息子であることに変わりはない。しばらく気分転換にのどかな自然の中でリフレッシュするといい』
と、1年ほど休みを与えたのです」
「なにぃ、休みを与えたじゃとぉ!?」
「ひぃっ!」
ザッハークの口から短い悲鳴が飛び出した。
「……良いではないか。田舎で休み。見直したぞ、ザッハークよ。落ち込んだ時は休むのが一番じゃ」
「ほえ?」
「ワシはてっきり貴様が、
『メルキス、お前のようなロードベルグ伯爵家の面汚しは出ていけ!』
と言って追放したのだと思っていたが、とんだ思い違いであったな」
「ははは、ご冗談を。まさか私が、愛する息子を手放すわけがないではありませんか。ははは」
ザッハークは、冷や汗をかきながら必死で笑顔を作る。
「いやー、もし本当に追放などしていたら、地位と領地を没収して平民として放り出すところであったぞ。ハッハッハ!」
「ハッハッハ!」
この日以降、ザッハークは時折この時の出来事を夢に見て、夜中に飛び起きるようになった。それほどの恐怖だった。
「では、メルキス君が戻ってくるのを楽しみにしているぞ。マリエルも一緒に村に行ったし、この機会に仲が進展してくれればいいのう」
と、王はすっかり機嫌を良くしていた。
一方のザッハークは、シャツがぐっしょりするほど冷や汗をかいていた。
――――――――――
カストルとともに帰りの馬車に乗りながら、ザッハークは頭を抱えていた。
「何としても、何としても、メルキスを呼び戻さなければ!」
ザッハークの顔は、真っ青になっていた。息子のカストルも同じだ。
「だが、『戻ってきてください』などとメルキスに頭を下げるわけにはいかん。……カストル、メルキスの村に行き、『仕方ないから戻って来ることを特別に許してやる』といって、連れ戻してこい。メルキスは喜んで飛びついてくるはずだ」
「承知しました。行ってきますよ、父上」
――この時、ザッハークは最悪の選択をしてしまった。
プライドを捨て、メルキスに素直に全ての事情を話して、謝って、『戻ってきてくれ』と言えば、全ては丸く収まったはずだった。
しかし、意地を張って『戻りたければ戻ってきてもいい』という言い方をしてしまった。
この選択が、ロードベルグ伯爵家の大ピンチを招くことになるのだった。
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