第31話 極東の国の暗殺者と戦う試練
「――発動、”ファイアーボール”!」
本来は下級魔法だが、【根源魔法】の力によって上級魔法以上の威力になった”ファイアーボール”を放つと、一撃で100体近い小型モンスターが消し飛ぶ。
僕は”ファイアーボール”を連射して、モンスターの数をガンガン減らしていく。
「そろそろ切り札を出すぞ……! 発動、”サファイアブルーフレア”!」
僕の前に魔法陣が複数展開。魔法陣が連結して、1つの魔力の流れを生み出す。魔法陣から美しい蒼色の炎が噴き出し、モンスターの群れを飲み込む。
炎に飲まれたモンスターの群れが、跡形もなく蒸発する。
ついにモンスターの群れが1体残らず消え去った。
「なんとか倒せた……。今日は”ファイアーボール”もたくさん撃ったから、もう魔力が残り少ないな。”サファイアブルーフレア”はもう使えそうにない。これ以上モンスターが出てきたらどうするかな……」
その時、僕の視界の端で何かが動いた。考えるより先に、直感的に僕は剣で首筋をガードする。
“キイイイィン!”
甲高い音を立てて、僕の剣が敵の刃を防ぐ。ガードしなければ、僕は首を落とされていたかもしれない。
「……お見事。まさか、これほど疲弊した状態で我が刃を防いで見せるとは」
僕の首筋を狙っていたのは、黒ずくめの衣装に身を包んだ女の子。年はおそらく僕と同じくらいだろう。かなり細身で、動きが身軽だ。
この国では見ない、独特の衣装を纏っている。握っているのも”クナイ”と呼ばれる変わった形の両刃ナイフだ。
独特の文化の暗殺者。僕はその正体に心当たりがあった。
「父上から昔、存在を聞いたことがある。極東の大陸から来たという暗殺者“シノビ”か……!」
「左様。メルキス=ロードベルグ殿。先ほどから戦いは拝見していました。モンスター100体をまとめて消し飛ばす魔法を連発するその火力。先ほどの私の必殺の一撃を防いだ身のこなし。そして、廃村寸前だったこの村を王都中心部以上に発展させたその手腕と、村人からの人望の厚さ。お見事というほかありません。……しかし、申し訳ございませんがその命頂戴いたします」
「君に依頼をしたのは、僕の父上か?」
「シノビは依頼人を決して明かしません。その問いにはお答えできかねます」
そう静かに告げて、シノビが刃を構える。
答えられなくても、僕は確信している。暗殺の依頼人は父上だ。
きっとこれも、父上の試練なのだろう。確かにロードベルグ伯爵家にいたときには、暗殺者相手の戦闘の訓練などしたことがなかった。未知の相手との実戦で経験を積み、成長して見せろということなのだろう。
同時に、『ここでくたばるようではロードベルグ伯爵家の一員として相応しくない』というメッセージでもあると思う。ロードベルグ伯爵家を追放されないためにも、何としても勝って生き残らなくては。
「では……お覚悟!」
刃を構え、シノビが突撃してきた。









