第2話 ゴブリンの群れを蹴散らす
〇２話
実家を追放された僕は、馬車で東へ向かっていた。
「どうして、こんなことになってしまったんだ……？」
ゴミと罵られ、蹴り飛ばされ、家を追い出されたが、僕は今でも父上のことを信じている。
王国騎士団の副団長を務めていて非常に忙しいにも関わらず、いつも笑顔で僕の訓練に付き合ってくれて、僕が腕を上げるたびに褒めてくれた。
僕にとって、父上は太陽のような存在だ。
――あれは、僕がまだ６歳だった時のこと。屋敷が大火事になった。
火はあっという間に屋敷中に回り、外へ出られなくなった。逃げ遅れた僕は、近くにあった金庫部屋に逃げ込んだ。
他の部屋よりも多少頑丈に作られていたので金庫部屋は火の回りが遅かったが、それでも部屋が少しずつ燃え始めた。
『もうだめだ、僕はここで焼け死ぬんだ』
そう覚悟した時、部屋に父上が飛び込んできた。
父上の服は、半分以上燃えてなくなっていた。【剣聖】の才能を持つ父上でも、燃える屋敷の中に突入してくるのは命がけだったはずだ。それでも、父上は来てくれた。
金庫部屋に駆け込んできた、僕と金庫が無事だったことを確認した父上の、安心した優しい笑顔。あの笑顔を、僕は一生忘れることはないだろう。
そして父上は、僕を燃える屋敷から運び出してくれた。伯爵家の全財産が入った金庫と一緒に。
何故父上が、僕が金庫部屋にいると分かったのかは不明だ。だけど命懸けで父上が僕を助けてくれたあの日以来、僕は一度も父上の愛情を疑ったことがない。もちろん、今もだ。
「父上のことだ、きっとなにか、考えがあるはずだ……！」
僕の才能【根源魔法】は、決して弱いギフトではないはずだ。強力な魔法をコピーすれば、ドンドン強くなれるはずだ。
それでも、父上は【根源魔法】をハズレ才能と言い切り、僕を家から追い出した。そこにきっと何らかの意図があるはずだ。
「父上。僕はきっと、父上の考えていることを突き止め、期待に応えてみます」
考えながら、僕は与えられた領地へと向かう。
ソルダリ村。住人数百人ほどの、山間にある小さな村だ。最近は経営が上手くいっておらず、税金の取り立てもままならないと聞いている。
僕を乗せた馬車は、森の中の道を駆ける。
「キャアアアアアァ！」
その時、女性の悲鳴が森に響いた。道の前方からだ。御者さんが馬車を止める。
「御者さん、ここで待っていてください！」
僕は馬車から降り、走り出す。
戦闘用の才能こそ与えられなかったが、僕はこれまでずっと修行に打ち込んできたんだ。身体能力は一般市民より遥かに高い。全力を出せば、馬車よりも走ったほうが速い。
――見つけた。
モンスターたちと人間が交戦している。華やかな装飾の施された馬車を、数十体のモンスターが包囲している。
”ゴブリン”。モンスターの中でも知性が高く、群れをなして行動することもあるモンスターだ。
馬車を護衛する騎士数人が剣で応戦してるが、ゴブリンの数が多すぎる。このままでは全滅するだろう。
「助太刀します！ ロードベルグ流剣術３式、”彗星斬”！」
僕は腰の剣を抜き、１体のゴブリンに斬りつける。”彗星斬”。相手に彗星の如き斬撃を見舞う剣技だ。
『ブゴォ！？』
断末魔を上げ、ゴブリンが倒れる。
「き、きみは一体何者だ！？」
護衛の騎士の１人が驚きながら尋ねてくる。
「ロードベルグ伯爵家のメルキスと言います！ 加勢します！」
僕は１５歳と成人したてでまだまだ未熟だが、これまでずっと偉大な父上に修行を付けてもらっていた身だ。並の１５歳よりはずっと強い。父上によれば、僕の実力は既に騎士団中堅クラスの騎士と互角らしい。
僕は馬車を護衛する騎士の皆さんと協力しながら剣と魔法でゴブリンを倒していく。
そしてなんとか、１人の怪我人も出さずにゴブリンを全滅させることができた。
「……メルキス君。助太刀感謝する。君がいなければ全滅していたのは我々だった」
護衛の騎士の皆さんが、敬礼のポーズをとる。
「メルキス？ 今、メルキスと言ったの？」
馬車の中から、聞きなれた声がする。そして、馬車から女の子が元気いっぱいに飛び降りた。
